02_03_風紀委員長に目をつけられました

 真っ先に入室してきたのは、背が高くてガッチリとした体躯たいくの男子生徒でした。

 肩で風を切るように歩きながら、ズカズカと怖い顔をしてこちらに向かってきます。

 制服のえりの校章の色から、3年生であることが伺えます。


「うげ、あいつって……」

「お嬢様?」


 お嬢様、その生徒さんを見て、何やら嫌そうな顔を浮かべています。

 そして、その人の後に続いて、他の複数の生徒さん方もキビキビと入室してきました。

 まるで、騎士の軍隊が行進してきたかのように、ビシッと規則正しい歩き方。

 こちらも制服の校章から、みなさん、2年生か3年生のご様子です。


 先陣を切って歩いてきた長身の3年生は、ミゼリアお嬢様の真ん前まで進んでくると、


「ふん、入学式にメイドが紛れていたと聞いて見に来てみれば、やはり貴様の仕業しわざか、公爵家の道化娘ピエレッタ


 開口一番、お嬢様に食って掛かりました。

 これには、お嬢様の取り巻き集団がざわつきます。

 ですが、


「騒ぐな新入生ども! これから校則違反者に指導をさせてもらう。エリエステス学園、風紀委員長の――」


 彼は、新入生全体に、キッとにらみを効かせると、


「――この俺、ディラン=オルドデンドがな」


 敵を威圧する騎士のように、高らかに名乗りを上げました。


「あら、ディランじゃない。久しぶりね」


 お嬢様は、彼の名乗りがどうでもいいことだったかのように、あっさりとした挨拶を返します。


「お嬢様、お知り合いですか?」


 尋ねた私にお答えくださったのは、お嬢様ではなくディランさんでした。


「ミゼリアとは一度、皇城で会っている。かなり年少の時分だったがな」

「そーそー、いたのよ。騎士長であるお父さんの影に隠れてベソをかいてた、2個上の泣き虫小僧が」

「ガ、ガキの頃の話を蒸し返すな!」

「あら、自分で昔話をし出したんじゃない」


 お嬢様、さっそく相手のペースを乱しにかかります。

 というか、口調もいつもどおりに戻っちゃってます。


「ちっ。本性は相変わらずか。お前も苦労するな、ハークス」


 ディランさん……いえ、ディラン先輩は、皇子であるハークス様を呼び捨てになさいました。

 ですが、ハークス様に怒り出す素振りはありません。

 むしろ、親しげに苦笑しながら「それほどでもないさ」とお話しを続けられています。


「それにしても、熱心だね、ディランは。初日から下級生に規律の指導とは」


 ハークス様も、2歳歳上のディラン先輩を呼び捨てにしています。

 このおふたりも、お知り合い同士……いえ、ご友人同士なのかもしれません。


「面倒にも、風紀委員長に任命されてしまったからな。お前の姉、アルメリア皇女殿下によって」

「ははっ。適材適所だね。姉さんらしい」

「ふん。だが、やり方は俺に任せてもらっている。メンバーの選定も、活動の方針も、そして――」


 ディラン先輩は、再びミゼリア様に見向きました。


「――校則違反者をどのように取り締まるのかも、俺の裁量次第ということだ」


 トゲのある言葉と目線が、お嬢様を突き刺します。


「で、その風紀委員のリーダー様が、アタシに何の用?」


 そのトゲをさらりとかわすお嬢様。

 「もう前置きはおわったんでしょ?」と、さっさと用向きを話すよう自分から促しました。

 相手に主導権を握らせないのは、お嬢様の得意とするところです。


「しらじらしい。わかっていないとは言わさんぞ。校則違反者」


 ディラン先輩は、ますます怖い目になって、お嬢様をにらみつけます。

 ……って、待ってください、校則違反!?


「お、お嬢様!? 入学初日から、いったい何をしでかしちゃったんですか!?」


 傍若無人なディラン先輩ですが、おそらく嘘はついていません。

 お嬢様なら、校則違反のひとつやふたつやみっつやよっつ、すでにやらかしているでしょうことは、この私が保証しちゃいます。


「違反は、このメイドの娘だ!」


 ほら、ごらんなさい。

 違反はメイドの……メイドの?


「ええっ!? 違反者って、私のことだったんですか!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る