02_学園女装潜入メイド、エレンちゃん爆誕です

02_01_入学式ではお静かに願います

 ついにこの日がやってきました。

 今日は、エリエステス学園の入学式。

 そして、私とミゼリアお嬢様が、お屋敷を離れ学園寮で暮らすことになる最初の日です。

 私はお嬢様に付き従って、公爵家の馬車で学園へと向かっています。


「うう、緊張します……」

「エレンは大袈裟おおげさね。今日はたかだか入学式でしょ」


 気楽そうにそんなことをおっしゃるお嬢様。

 ですが私は、男の子であることがバレませんようにと、気が気ではありません。


***


 学園に着いたお嬢様と私は、式典の会場である広い講堂に案内されました。

 そこには、今年の入学者一同が集められ、並べられた椅子に順番に座っています。

 私とお嬢様は隣同士でした。


「早く終わんないかしら」


 お嬢様ったら、始まる前からそんなことを。


「お嬢様、もっと公爵家のご息女として相応ふさわしい振る舞いをなさらないと……」

「あら、そんな生意気を言う口は、これかしら?」


 お嬢様は周囲に気づかれないよう、私のメイド服のスカートに、するりと手を滑り込ませてきます。


「そ、そんなところに口はありません!」


 ちなみに、この学園では全生徒共通の制服を着用することになっているのですが、私だけは、いつものメイド服姿で入学式に参加することになりました。

 これはもちろん、ミゼリアお嬢様のワガママ……もとい、ご意向によるもの。

 お嬢様は、『ダイジョーブよ。ちゃんと校則の穴を突いたから』と自信満々に語っていました。

 先生方からも注意はありませんでしたし、私がメイド服で学園生活を送ることは、特に問題が無いみたいです。


「や、お嬢様……人が、いるのに、あぁん!」

「いいわよねえ、エレンの喘ぎ声。ずっと聞いていられるわ」


 声を抑えるのに必死な私は、セクハラを止める術がありません。

 結局、お嬢様の手慰てなぐさみは、入学式が開始されるまで続けられました。


***


 さて、そんなこんなをしているうちに始まった入学式。

 お嬢様は早々に飽きられてしまわれました。


「式典って、どうしてこうも退屈なのかしら」


 壇上だんじょうでは、国の偉い大臣さんがありがたいお話をしていましたが、まったく聞く耳を持っていません。

 しまいには大あくびまでしています。


「お嬢様、お行儀が悪いです」

「つまんない式辞が悪いのよ」


 そんなことをおっしゃりながら、お嬢様は再び、私のスカートの中に手を入れようとしてきました。


「ちょ!? お嬢様、こんな時に――」

「あら、こんな時だからいいんじゃない」


 おごそかな式典の最中に、こっそりセクハラを敢行かんこうしてくるお嬢様。

 私はそれをなんとか防ごうと頑張ります。

 こんな、はしたない攻防が繰り広げられているなかでも、入学式はどんどん進んでいきます。


「続いて、生徒会長あいさつ」


 と、新たに壇上にあがった方のお姿を見て、お嬢様の手が止まりました。


「あら、アルメリア様じゃない。生徒会長なんてやってたのね」


 登壇したのは、お姫様の女生徒でした。

 お姫様のような、ではありません。


「学生選挙で満場一致で選ばれたそうですよ。昨秋にアルメリア様ご本人がおっしゃられていたじゃありませんか」

「そーだった? まあ、皇女様だしね」


 そう。

 アルメリア様は、本当にこの国の第三皇女様。

 エリエステス学園の3年生であり、同時に、生徒会長を務められておいでの偉いお方です。

 また、お嬢様の婚約者であるハークス皇子の実のお姉様でもあるのです。

 なので、おふたりは顔見知り。


「にしても、相変わらずの爆乳よねえ。前より更に育ってない? もはや牝牛めうしだわ」

「し、失礼ですよお嬢様っ」


 とはいえ、お気持ちは私も少しだけわかります。

 アルメリア様は、私と年齢が3つしか違わないのに、おっぱいがとっても大きいお方なのです。

 いえ、男の子である私と比べるのはおかしいのですが、周りの他の女生徒たちと見比べても、あの方ほどのおっぱい大魔神は他にいらっしゃいません。

 地位が高いと、比例しておっぱいも大きくなるのでしょうか?

 あれ? でも、お嬢様は?

 公爵家という国内最上位クラスの家柄のご息女でありながら、お嬢様の胸のサイズは並みというか、むしろ平均よりも下……


「エレン、今失礼なこと考えてたわね」


 私のことを『勘がいい』とおっしゃるお嬢様ですが、こと、ご自身のことに関しては、お嬢様のほうが遥かに直感が優れています。


「他の奴らはね、寄せて上げてで、実サイズよりもでっかく見せてるのよ。詐欺乳よ、詐欺乳」


 アルメリア様のありがたい祝辞を無視して、お嬢様はおっぱい談義に没頭してしまいます。


「そもそも乳っていうのはね、誰に見せるのかが重要なのよ。有象無象の男どものために見栄を張る必要なんかないわ。本当にわかってほしい人がわかってるなら、それでいいのよ」


 ああ、きっと、ご婚約者のハークス皇子殿下のことですね。

 やっぱりお嬢様なりに、皇子様のことを考えていらっしゃったんですね。


「エレンは私の実サイズを、見て触って知ってるでしょ?」


 ……やっぱり、どうにかして更生させないといけません。



 そんなこんなをしているうちに、入学式はつつがなく終わりました。


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