01_07_そしてやっぱり、セクハラされます

「ど、どうしてそんな、すぐわかる嘘を書いちゃったんですかぁ!?」


 私は泣きそうになりながら、お嬢様に精一杯に抗議します。

 女装した男の子が貴族の学園に、それも女性寮に潜入だなんて、前代未聞の大事件。

 ごめんなさいでは済まされません。


「む、無理です! 絶対にばれちゃいますよぉ!」

「仕方ないわ。あなたの可愛さがばれちゃうのは、どうやったって避けようがないもの」

「そ、そっちの話じゃなくってです!」

「ああ、こっちの可愛いアレの話?」


 言うが早いか、お嬢様は、一瞬で私との距離をスッと潰してふところへと入ってきました。

 まるで武術の達人のような、洗練された無駄のない動作です。

 そして、お綺麗な右手を私のスカートへと遠慮なく突っ込むと、私の太ももをさすりあげました。


「や、お嬢様っ、あぁん!?」

「あら、ハズレね。それじゃあ、反対側のこの辺かしら?」


 調子に乗ったお嬢様は、左手もスカートに潜り込ませてきました。

 そして、やはり私の太ももを、やんわり揉みしだいてきます。


「ひぁ、あん、やぁん……」

「ほおれ、可愛いアレは、どこかな、どこかなー」


 お嬢様の手は太ももをなぞりながら登ってきて、段々と、私の、か、『可愛いアレ』へと近づいてきます。


「やっ、だ、ダメです……あひぃん!?」

い奴め、い奴め」


 逃げたくても、それは叶いませんでした。

 お嬢様の絶妙の手技は、私の体におかしな感覚を与えて、いうことをきかなくしてしまうのです。

 私は腰が砕けたようになってきて、足元もおぼつかなくなってきました。

 ですが、それでもお嬢様の手と指は、留まるところを知りません。


「はぁ、あぁ、お嬢、様……」

「そおれ、そろそろ、カーテン・・・・が近づいてきたわよぉ」


 太ももを登り上げたお嬢様の両の手は、『可愛いアレ』を守る最後の砦、私の下着に到達しました。

 お嬢様の指が、下着の布地をスリスリと、舐め回すようになぞります。


「潜! 入!」

「ひぁうっ!?」


 指はそのまま、布地の下へと滑り込んできました。

 そして、鼠径部そけいぶくぼみに沿って、ゆっくり下に――


「だ、だめです、お嬢様……だめ……その先は、先は……」


 抵抗の効かない私は、為すすべもなく……


「さあ行くわよぉ、栄光のゴールデンボールブリッジへ――」

「おやめなさい変態令嬢!」


 スパァン! 

 そんな軽快な音とともに、お嬢様の体が横に飛んでいきました。


「痛ったあ……ちょっとパメラ! 主人の頭をスリッパで叩いていいと思ってんの!?」

「お黙りなさいミゼリアお嬢様! れきとした正当防衛です!」


 見れば、パメラさんがスリッパ片手に、フルスイング後の姿勢で立っていました。

 止めに入ってきてくださったのです。

 今回も、私の貞操は守られました。


「お父様に言いつけるわよ!」

「どうぞご自由に。必要ならば蹴倒けたおしてでも止めるよう、旦那様からも仰せつかっておりますゆえ」

「あ! わかった! 『不出来なパメラに罰をお与えください』とか言って、そういうプレイに持ち込むつもりね!」

「アホ言ってるんじゃありません!」


 そして今回も不毛な言い合いが始まって、結局、お嬢様の奇行はスルーされる流れになってしまいました。


 ・

 ・

 ・


「うう、また今日も酷い目に遭いました……」


 夜。

 泣きべそをかきながら、私はベッドに入りました。

 ですが、昨晩と違い、悩ましさはありませんでした。

 ひとつの答えかもしれない道が、見つかったからです。


「昼間はひどい目に遭いましたけれど、あのお話しは……」


 私の、エリエステスへの入学。

 それも、性別を偽って。


「学園……それに寮……うう……男の子だってバレちゃったら……」


 貴族のご息女も大勢通う高貴な学園。

 退学だけでは済まないでしょう。

 ですが。


「ですが、お嬢様を更生させる、またとないチャンスです」


 お屋敷から離れ、他の貴族のご息女たちと共同生活。

 守らなければならない規律もたくさんあることでしょう。

 賢明なお嬢様なら、今のままではいけないと、きっと気づいてくださるはずです。

 そうなるように、私もお側で誘導できます。


「それに、お嬢様のご婚約相手であられるハークス皇子も、お嬢様と同年齢。つまり、おふたりは一緒に学園生活を送ることに」


 男女が仲を深めるにあたって、これ以上ないシチュエーションではありませんか。


「これはきっと、神様がくださったチャンスに違い有りませんっ」


 このエレン、立派なお側付きメイドとして、見事お嬢様をまっとうな道に進ませてみせますとも!

 決意を新たにした私は、学園生活への期待に胸を膨らませたのでした。



 ……その一方、ミゼリアお嬢様の寝室では。


「ぐっふっふ。学園寮に着いてこれるのはエレンだけ。小うるさいパメラはいないし、これで、エレンにヤリタイ放題……」


 貴族の子女らしからぬ下卑げびた笑い方をしたお嬢様が、よこしまな想像に胸を膨らませていたのでした。


 ・

 ・

 ・


 さて、こんな話をしていたのが、入学の半年前のこと。


 そして、今。


「あ、あなた、それ、男の人の……」


 入学初日。

 学園の敷地内にある森の中。


「こ、これは、違っ……」


 神様のイタズラでしょうか。

 それとも、悪魔の策謀なのでしょうか。


 どういう因果か、四つんいになってしまった私の真下で、この国の第3皇女、アルメリア様が仰向けに横たわり、


「い、いや……」


 裸の私の〝可愛いアレ〟を、おびえながら見つめているのでした。

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