01_06_学園女装潜入モノは、男の娘の宿命です

「このままでは、いけないのです」


 その夜。

 ふかふかのベッドに入った私は、深い悩みと戦っていました。


「お嬢様は、性格がちょっとアレ過ぎるのです。どうにかして更生を促して、無事に皇子様とご成婚いただかないといけません」


 そのために、私に一体なにができるでしょう?

 考えて考えて、けれど一向に答えは出ず、私はうとうと眠ってしまいました。


 ですが、その明くる日。

 思いがけない展開から、天啓のようにある答えが示されたのです。


 ・

 ・

 ・


「帝国立エリエステス学園、ですか?」


 お仕事中、お嬢様から突然話を振られた私は、きょとんと首を傾げました。


「そ。来年アタシが入学することになる、この国の貴族の子どもを集めた学校教育機関よ。知ってる?」


 らしくない説明口調のお嬢様が、親切に概要を語ってくださいます。


「もちろん存じ上げています。お嬢様が入られる学び舎ですから」


 ですが、どうしてそのお話しを、改めて私に聞かせているのでしょう?


「この学園ってね、全寮制なの。家や別荘が近くにあったとしても、通学は一切認めてないのよね」


 全寮制。

 どんな学園生も例外なく、学生寮に入るということです。


「期間は3年。その間、アタシはこの家にいられなくなっちゃうのよねー」


 おっしゃりたいことが判ってきました。

 私がお世話を仰せつかっているお嬢様がいなくなる。

 それはつまり、この家での私の役目がなくなってしまう、ということです。


「も、もしかして、私は、お払い箱に――」

「そんなわけないじゃない」


 私が口にした悪い想像を、お嬢様が直ちに否定してくださいました。


「入学手続き。エレンの分もお願いしといたから」

「へ?」

「入学生はね、従者をひとり連れて行くことが許可されてるわ。寮での世話は従者の仕事よ」


 なるほど。

 これは正しく理解できました。

 学園内でのお世話役として帯同させるなら、お嬢様のお側付きメイドである私が適任です。


「だからついでに、エレンも一緒に学園に通って、一緒に授業を受けられるようにしておいたから」


 ……こちらは理解が及びません。

 脈絡が、これっぽっちも繋がっていません。


「あの、お嬢様。どうしてそんなお話に?」

「エレンだって貴族じゃない。お母様の遠縁なんだから」


 それはその通りです。

 ですから、私にも入学資格があるということには、なるのかもしれません。

 ですが、その場合の入学費用などの諸経費は、すべて公爵家にご負担いただかなければなりません。


「お嬢様、お心遣いは誠にありがたいのですがが――」

「お金なら心配いらないわよ。お父様は説き伏せてあるし、なんならお給金だって、今よりも増額させたから」


 お嬢様、やけに回り込んで逃げ道を塞いできます。


「楽しみよねー、エレンとの寮生活」


 楽しみ……かと聞かれれば、はい、楽しそうではありますね。

 お嬢様との学園生活、そして、寮生活……あれ? 寮生活?


「お嬢様。その寮って、他の生徒さん方もいらっしゃいますよね?」

「当然じゃない、学園寮なんだから。あ、でも安心なさい。ちゃんと男性寮と女性寮に別れてるわよ」

「寮内での生徒の交流も、もちろんあるのですよね?」

「そりゃあもちろん。学園は社交界の縮図なんだから、むしろそっちがメインでさえあるわ」

「そこに私は、お嬢様のメイドとして入り、なおかつ学生としても勉学に励むことになる?」

「モチのロンよ。こんなに可愛いメイドを連れずに、いったい誰を連れて行くのよ」

「確認なのですが、入学書類に私の性別、なんて書いて申請しました?」

「そんなの、〝女〟って書いたに決まってるじゃない」


 サアッと、血の気が引いていく音が聞こえました。

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