01_04_メイド長が助けてくれました

「何をなさっているのですか! お嬢様!」


 大きな声が浴場内に響き渡って、同時に、お嬢様の手もピタリと止まりました。


「メ、メイド長」

「ちっ、もう来たのねパメラ」


 現れたのは、公爵家のメイド長、私の上司のパメラさん(29歳独身)です。

 もう15年もお屋敷に務める古株のベテランメイドで、私が男の子であることを知っている数少ないひとりです。


「助けてくださいメイド長!」


 私は急いでお嬢様のもとを離れ、パメラさんに助けを求めてすがりつきました。


「お嬢様が、お嬢様に……」

「またなのですねエレンさん。まったく、お嬢様のイタズラには警戒するよう、普段から言っているでしょう」

「うっぐ、ひっぐ、ふえぇぇ……」

「ちょ!? 泣き止みなさいエレンさん。って、れたまま抱きつかないで!」

「チッ、また邪魔が入ったか」

「お嬢様も舌打ちするんじゃありません!」


 ・

 ・

 ・


 ひとまず私とお嬢様は、浴場から出て服を着せられました。

 そして、そのまま浴場の着衣室で、パメラさんのお説教が始まります。


「お嬢様。あなたには理解の足りていないことが多々ございます。ご自身のお立場、従者との信頼関係構築の大切さ、それから――」

「はいはい。どーもすいませんでしたー」

「反省も足りていません!」


 悪びれる気のないミゼリアお嬢様に、パメラさんも怖い顔です。


「あなたは公爵家の大切なご息女。高貴なる血を継ぐ一族の娘として、責任と奥ゆかしさを持った淑女であらねばなりません」

「わかってるわよ。耳にタコができるくらい聞いたわ」

「わかっていません! エレンはメイドである以前に、歴とした男性、歴とした殿方なのです! それを――」

「なによ。そんなのパメラだって同じじゃないの」


 この返しは予想外だったとみえて、パメラさんはいぶかしげな顔をつくりました。


「……どういう意味でしょう?」

「さっきエレンにすがられたとき、怒ってたのは服を濡らされたことだったでしょ。男が裸で抱きついてきたって思ったなら、違う反応じゃなきゃおかしいじゃない」

「ぐ……それは……」


 パメラさんも、すぐさまに反論を試みました。

 ……試みたの、ですが。


「男の子……ついている……ですがこの可愛さは……」

「あの、メイド長?」


 どうしてか、難しい顔で数秒悩み続けてしまいます。

 そして、


「ま、まあ、エレンさんを今更男性として見るのは、確かに難しいことと認めますが」

「そんなぁ」

「おっし、味方ゲット」

「それはそれとして! 雇用する側の人間が、立場の弱い従者に手を出そうとするなど、言語道断です!」


 ビシィ! と指を刺されるお嬢様。

 ですが、お嬢様はやはり悪びれません。


「……昔、お父様に〝お手付き〟されたくせに」

「んなっ!?」

「喜んでるくせに。今もちょくちょく寝室に呼ばれてるくせに。なんなら自分から求めてるくせに」

「な……な……な……」


 パメラさん、お顔からどんどん血の気が引いて真っ青に。


「お、お嬢様、だ、誰にそれを……?」

「あ、ホントにお手付きされてたんだ」


 しれっと、お嬢様はカマかけだったことを明かしました。

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