01_02_身を清めるのは男の娘のたしなみ

 で、それから更に10年の歳月が経ちました。


「さーてと、今日のお仕事おっわり終わりー」


 私エレンは、メイドとして立派に成長。

 ミゼリアお嬢様のお屋敷で、従者として働いているのです。


「ふんふーん。さ、お風呂に入ってこよーっと」


 皆が入り終えた後の大浴場。

 到着した私は、メイドのシンボル、お仕着せ服をさっと脱いで、履いていた下着ともども洗濯かごへ。

 あ、下着はもちろん女性ものですよ。

 さて、体を洗ってしまいましょう。



「髪の毛、伸びたなあ。トリートメントもしっかりしないと」


 まずは髪の毛。

 腰まで届く長い髪を、シャンプーで泡だらけにしていきます。

 私はお嬢様の言いつけで、髪を短くすることができません。

 ロングヘアーは私も可愛いくて好きですけど、さすがにこの長さになると、洗ったり乾かしたりさえ、ちょっと面倒。


「だからといって、雑な洗髪は厳禁です!」


 メイドというお仕事をしてることもあって、私は結構綺麗好き。

 自分を清潔に、なおかつ、公爵家の従者として最低限の美しさを保つため、入念なケアは欠かせません。


「うう。だから、ここも清潔にしておかないと……」


 視線を、真下に。

 そこにあるのは……うん、はい、アレです。

 男の子についてる……男の子。

 別にですね、私も、性の自認が女の子に変わったわけではありません。

 ですけれど、自分のとはいえ、見ていてちょっと複雑な気分になっちゃいます。


「かといって、洗わないわけにもいかないですし」

「そうそう、ちゃんと綺麗にしときなさいよ。性病とかのリスクが上がっちゃうらしいから」

「……へ?」


 私しかいなかったはずの大浴場。

 聞こえてきた、この耳馴染みのある声と口調は――


「うんうん、相変わらずの可愛いサイズね」

「い、いやぁぁぁぁ!」


 驚いた私は勢い余って、滑って転んで尻もちドシン。

 うう、おしり痛い……いえ、それよりもです。


「ミ、ミゼリアお嬢様!? ど、どどど、どうしてお風呂に!?」


 いつのまにか、私の主、公爵令嬢ミゼリア=アーチバーグ様が、私の隣で……もちろん裸で、体を洗っておいででした。


「いちいち大声あげないでくれる? 見慣れちゃったわよ、アンタの裸も、下についてる可愛いそれ・・も」


 お嬢様の視線を辿って下を見ました。

 すると、尻もちをついた拍子に私は大股開きになっていて、お嬢様に、ア、アレを、見せつける格好に――


「いやぁぁぁぁ!」


 慌てて両手で隠しましたが、お嬢様にはじっくり見られてしまいました……


「だから、大声あげないの。見られたくらいで情けないわね」

「だって、私、男の子……」

「よけいによ。逆でしょフツー」


 うろたえている私とは対照的に、お嬢様はまったく動揺を示されません。


「お、お嬢様だって嫌でしょう!? 異性に、は、裸を……」

「エレンににだったら見られてもいいわよ。上と下、どっちにする?」

「恥ずかしがってください!」


 5歳の時に始めてお会いし、私を女の子にしてしまわれたミゼリアお嬢様。

 このお方は今もって、私をちっとも男の子扱いしてくれないのです。


「だいたい、今は使用人の入浴時間ですっ!」

「ええ。だから、エレンはそのまま入ってていいわよ。アタシも勝手に入るだけだから」


 言われるまでもなく、私は急いで広い浴槽に飛び込みました。

 これ以上、素肌をお嬢様に見られるわけにはいきません。

 お嬢様の裸を凝視するわけにもいきません。


「にしても、エレン。見事に女の子してるわよね。下手な貴族令嬢より恥じらいがあるし、お淑やかだし、顔もとっても可愛いし」

「お、お嬢様がそうしたんじゃないですか!」

「今日のパンツも可愛かったし」

「洗濯物をのぞかないでください!」

「こんなのもう、襲ってくださいって言ってるのとおんなじよね!」


 叫ぶやいなや、お嬢様はザパンと湯船に飛び込んできました。

 もちろん一糸まとわぬすっぽんぽんのお姿です。

 それを見まいと私が顔を背けたのを良いことに、お嬢様はジリジリとにじり寄ってきて、私のぺたんこな胸を触り始めました。


「や! セクハラです! パワハラです!」

「いいじゃない。エレンがお嫁に行っちゃう前に、ちょっとくらい」

「男ですから、お嫁には行けません!」

「あ、『行けません』って、残念がってる?」

「言葉尻を捉えな――ひゃっ!? ど、どこ触ってるんですかお嬢さ……ひゃうぁん!?」


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