3話


 それから、しばらくして。

 美奈子ちゃんと仲良くなり、彼女の動きを見ているとゲーム内のコマンドを再現するように、本来のゲームの友人キャラと一緒にいるのを見つけ。

他の攻略キャラともエンカウントするのも目撃した。

 彼女は、別段あたしに話しかけてくれるだけの優しい子なだけであって、何もないんだろう。


「――なぁ、ちょっと良いか」


 そう結論づけ、安心して下校しようとするあたしに、浴びるほど聞いた声が背後から聞こえ、素早く振り返る。


(これは、下校イベントッッッ!?)


 皐月清が自ら話しかけにくるとは、美奈子ちゃんは意外と攻略が早いらしい。

 そう思って美奈子ちゃんを探すが、見つからず目が合った彼との間に沈黙が訪れる。


「あの……もしや、わたくしでしょうか」


 と緊張のあまり敬語で話しかけてしまった。


「――他に誰かいるのか?」


「いないです」


 この踊り場には、あたしと皐月清以外誰もいなかった。


「……一緒に帰らないか」

「ハイヨロコンデ!!」


 推しからの提案にこの言葉以外を言える人間は、存在しない。


「ふ、変なやつ」


ーー


「あの……さ、皐月さん」


 特に話しかけられることもないまま、隣を歩く皐月清に緊張しながら声をかける。


「ん、なんだ?」

「その、ど、どうして私を、お誘いに」


 桜の樹にいたことがバレている可能性以外に、何の接点もないあたしを誘うだなんてどんな天変地異だ。


「別のクラスの俺が、誘うのもおかしいか?」

「イエ、ソンナコト、ナイデス」


 口では、そう答えたが美奈子ちゃんと同じクラスのあたしと、皐月清のクラスは、別クラスだ。余計に接点が存在しない。


「お前も、俺の名前覚えているんだな」


 あたしがゲームの知識抜きにしても、皐月清を知っている理由は、説明がつく。


「そりゃ、中等部から人気ですし……名前くらいは、知っていますよ」


ゲーム上で容姿端麗、運動神経抜群、成績優。テンプレートに盛られたハイスペックイケメンなのだから、噂にならない訳がない。


「戌井」


「ハイ!?」


 名字を呼ばれ、認知されていることに驚く。


「な、名乗りましたでしょうか」

「……高校まで一緒なら生徒の名前は、だいたい覚えるだろ」

「それも、そう、ですね?」


 皐月清は、期末テストでも五位以内のキャラだ。

モブであろうと、名字くらい覚えていてもおかしくない、か?

そう自分を納得させて、歩いていくがどこで別れるかが、予想できず手に汗が滲む。


「戌井は、どっちなんだ家」

「えっと、デパートの方です」


 やっと彼の方から振られた話題が、帰路についてで少し驚きながら答える。

 友人イベントや、攻略キャラのイベントが発生しやすいデパートの近くで、本当にありがたい。


「――じゃあここら辺で」


「はい、それじゃ」

「また明日な、戌井」


 そう言って反対方向に歩いていく皐月清の背中に、胸をときめかせながら。


(皐月清の家、商店街の方なんだ……)


 だからゲーム内デートで、商店街が多いのかも知れないと気づきを得て家に帰った。


ーー


 それから皐月清は、下校時間のあたしに声をかけてくるようになった。

 そうして、何度目かの一緒の下校で、ぎこちなさの取れない動きをしながら、彼の隣を歩く。

 あたしがゲームの美奈子ちゃんのように、話題提供できれば良いのだが……。

横から見ても、金髪は輝いているし、ゲームではあまり味わえない、横顔までバランスがよく顔が良い。


「……戌井は」


「ハイッ!」


 と条件反射で名字を呼ばれ反応する。


「今度の連休は予定あるのか?」

「それってゴールデンウィークですか?」


 皐月清に関したイベントは、特にないはずだが……。


「ああ」

「やよ…友達、と遊ぶ約束して、ますね」


 そういえば、連休は美奈子ちゃんにも先に予定を聞かれ、遊びに行く約束をしていたことを思い出し答える。


「そうか」


 そう短く答え、少しの沈黙の後。


「なぁ、迷惑じゃないなら、連絡先交換してくれ」


「い、良いんですか!?」


 そんな魅力的すぎる提案をされた。

ただのモブのあたしには、連絡先を知る手段が存在しないので、食い気味に返事してしまう。


「なんだそれ、悪かったら聞いてないだろ」


 そう少しだけ口角が上がっている気がする皐月清とドギマギしながら連絡先を交換する。


「それじゃ、また明日な。戌井」


 交換し終えたスマホを両手で握りしめながら、清君の背中を見送る。

 彼の電話番号は、どこにでもあるような数字の電話番号としてちゃんと認識できた。

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