第13話 セラからのお礼
◆◇◆◇◆◇
「ーーあ、セイジさん!」
俺を呼ぶ声がした方に顔を向けると、こちらに向かって手を振っているセラの姿があった。
連絡を取った翌日に待ち合わせをして会うことになったわけだが……うむ。眩しいな。
このままCMやドラマのワンシーンに起用されてもおかしくないセラの朗らかな笑顔が非常に眩しい。
先日の騎士っぽい鎧姿もありだが、今日着ている華やかなワンピース姿の方がセラには似合っている。
「すいません、待たせましたか?」
「いえ、私も今来たところですから」
「そうでしたか。セラさんを待たせ過ぎないで良かったです」
……まさか約束の時間の三十分前の時点で既にカフェで待っているとは思わなかったな。
待ち合わせの時間まで辺りを散策しようと早めに来ておいて良かったよ。
散策を切り上げて彼女の元へ向かうと、対面の席に座った。
店員を呼んで適当にストレートティー注文すると、店員が去ってすぐにセラが頭を下げてきた。
「セイジさん。改めてお礼を言わせてください。先日は危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」
「どういたしまして。まぁ、人助けをしただけですし感謝の言葉も受け取りましたから、そこまで気になさらなくて大丈夫ですよ」
「そういうわけにはいきません!」
テーブルに身を乗り出すようにしながらのセラの言葉に苦笑していると、店員が注文の品を持ってきた。
そのストレートティーを少し飲んでからテーブルに戻すと、それを待っていたようにセラが口を開いた。
「言葉だけではなくて、具体的に何かお礼をしたいのです。私は探索者としては新人ですが、親の仕事の繋がりで探索者業界には色々と伝手がありますから、お力になれるかと思います」
「探索者業界ですか。例えば、どのようなことができるのでしょうか?」
「そうですね……高位探索者が使うような高ランクの武具などをご用意することも出来ますよ。先日私が装備していた武具などですね」
言われてみれば、あの騎士っぽい鎧には結構魔力が含まれていたっけ。
スピードと防御力を重視していた感じだし、セラがラプトルモドキ達に捕まらなかった理由の一つなんだろうな。
あのような装備を使えるなら探索者活動が楽になるに違いない。
「魅力的な提案ですけど、装備には特に困っていないんです。それに、今のレベルで高位のアイテムに頼っていたら成長できない気がするので遠慮しておきます」
「そうですか……あっ、よろしければセイジさんのレベルと覚醒者ランクをお聞きしてもいいでしょうか?」
シュンと気落ちしたかと思ったら、すぐに再起動してきた。
ちょっと見ていて面白い娘だな。
「構いませんよ。今のレベルは27のCランクです」
「あ、やっぱり高レベルなんですね。あの強さなら納得です。ちなみに、私はレベル7のCランクです」
「レベル7なら第一次覚醒ですよね。第一次覚醒でCランク判定ならかなり優秀じゃないですか」
「ありがとうございます。でも、第一次覚醒で高ランク判定だからといっても、優秀とは限らないんですよ」
「そうなのですか?」
「はい。高ランク判定でもレベルは1からのスタートですし、その時点ではランクに関わらず能力値に差はありませんから、高ランクを頼りに無茶をして駄目になる方も多いんです」
まぁ、高ランク評価をもらって天狗になる輩は多そうだよな。
「それに、オリジナルの測定玉とは違って、協会支部で使われているレプリカの測定玉での測定はまだまだ性能が低いので、本当に優秀な方の力に限って見逃してしまうこともあるんです」
うん、俺のことですね。
まぁ、特に言う必要もないから言わないけどさ。
「他にも、探索者登録時の測定結果が高ランクでも、実戦では全く動けないという方も珍しくないそうです。ですから、最近では第一次覚醒時点でのランクは重視しなくなってきているんですよ」
「なるほど」
「セイジさんは、あまり探索者界隈のことは詳しくない感じでしょうか?」
「ええ。何せ登録してまだ間もないので。それについ最近まで記憶喪失だったので、探索者界隈の常識やらなんやらには疎いところがあります」
「記憶喪失ですか? もしかして、先日の頭部を負傷したことによる一時的なものとは別の話でしょうか?」
「ええ、別の話です。今思えば、先日セラさんと会った時の状態は、まだ完全に記憶を取り戻していなかっただけだったみたいです。あ、今はちゃんと記憶が戻っているので安心してください」
俺の説明を聞いてセラが不安そうにしていたので、慌てて問題ないことを告げた。
「そうですか、良かったです。いつ記憶を失ったか分かりますか?」
「四年前の大異変時ですね。その時の騒動の衝撃で記憶を失ったようで、この四年間は自分が誰かも分からず国内を転々としていたんです。つい最近になってC市に住んでいたことを思い出しまして、それと同時に覚醒者になったので探索者登録をしたんです。セラさんと会ったのはその時ですね」
これが俺が魔界に拉致られて地球から消えていた間の
魔界に数百年いただなんて、ファンタジーな今の世の中でも信じてもらえないだろうから、多少無理はあるがこのカバーストーリーは必要だろう。
未だに魔界へ拉致される以前の友人関係を思い出せないが、その友人達に会った時にも説明するハメになるから、今のうちに考えておく必要があった。
「大変だったんですね……」
俺のカバーストーリーを信じたセラが涙ぐんでいる。
カバーストーリーでこれなら、数百年に及ぶ魔界時代のことを聞いたらどうなるんだろうな。
「そういえばセイジさんのご家族は……?」
「大異変よりも前に両親は亡くなっているので自分一人ですよ。天涯孤独の身ですが、今更の話ですし、存外気楽なものですから気にしないでください」
「そうでしたか……大異変に巻き込まれた後はC市を離れていたとのことですが、元々住まわれていたご自宅は?」
「先日セラさんと別れた後に確認しに行ったら、大異変時に倒壊したそうで今は更地になっていました。なので、今は特別被災保護対象者というわけです」
区役所で身分証と一緒に発行してもらった特別被災保護証をセラに見せる。
セラはその保護証を暫くジッと見つめると、意を決したように俺の手を握ってきた。
「セイジさん!」
「は、はい」
突然の生身の女性から手を掴まれて返事が吃る。
数百年ぶりの女性の手の感触は素晴らしかった……。
「先ほどの具体的なお礼についてですが」
「はい」
ああ、そういやそんな話だったな。
嘘の身の上話をしていてすっかり忘れていたが、セラはまだ覚えていたらしい。
別にそのまま忘れてくれても良かったんだだがな。
「その……住むところがないなら、私の家に住みませんか!」
「……はい?」
可愛らしい顔して、とんでもないことを言い出したぞ、この娘は。
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