第14話 マイホーム



 ◆◇◆◇◆◇



 セラの爆弾発言の翌日。

 今日は彼女から提案された彼女のにお邪魔していた。



「今年の初め頃に完成したばかりなのですが、如何でしょうか?」


「……本当に素晴らしい部屋ですね」



 完成から一年も経っていない新築のなだけあって外観だけでなく室内もとても綺麗だ。

 これまで誰も入居していないとの話だが、普通の物件ならばあり得ないほどの間取りと立地条件を兼ね備えており、窓から見える景色も最高だった。


 このマンションは、セラの親が一人暮らしをする娘のためにプレゼントしたマンションであり、入居者に探索者を想定して建てられている。

 マンションのオーナーはセラなので、彼女の爆弾発言にあった『私の家に』という発言は嘘ではなかったわけだ。

 まぁ、非常に紛らわしい発言だったのは間違いないため、その後すぐに自分の発言の紛らわしさに気付いたセラが、顔を真っ赤にしながら慌てて訂正していた。

 そんな紛らわしいオーナーの鶴の一声で、このマンションの一室が俺にプレゼントされることになった。



「その、本当に水道光熱費の支払いだけで、この部屋を使っていいんですか?」


「はい。助けていただいたお礼なので家賃はいりませんよ。気に入っていただけましたか?」


「勿論、気に入りました。本当にありがとうございます!」



 ああ……セラが女神に見える。

 思わず崇めていると、そんな俺の姿がおかしかったのか、セラがクスクスと笑っていた。



「フフフ、それは良かったです。すぐそこが私の部屋ですから、マンションのことで困ったことがあったらいつでも気軽に仰ってくださいね」


「はい、ありがとうございます!」



 俺の家の目と鼻の先にあるセラの家は、最上階の約半分近くを占めている。

 俺とセラの家があるのはマンションの最上階であり、最上階には全部で三軒しかない。

 残るもう一軒にはセラの友人が住んでいるそうだが、今は出掛けているようで不在だった。

 


「こちらが部屋の鍵になります……もっと色々とお話ししたかったのですが、そろそろ時間ですので失礼しますね」


「無理に時間を割いてもらって申し訳ないです」



 今日は元々セラは実家での用事があったそうだが、早く入居したいであろう俺のために時間を作ってくれていた。

 そういう意味でも彼女には感謝の言葉しかない。



「気になさらなくて大丈夫ですよ。ところで、セイジさんの今日のご予定は?」


「家財道具を揃えるための資金稼ぎも兼ねて、近くのDランクダンジョンに行って第四次覚醒を目指そうかと思います」


「では、夜までには帰られますか?」


「その予定です」


「それでしたら、隣室の友人の紹介も兼ねて私の家でお夕飯を食べませんか?」


「いいんですか? ご迷惑では……」


「大丈夫ですよ。友人もよく食べにきますし、一人も二人も変わりませんから」


「そういうことでしたら、お邪魔させてもらいます」


「はい、お待ちしてますね」



 それから少しだけ話をしてからエレベーターで一階へと下りるセラを見送った。

 こんなに良い家だけでなく食事まで……セラの女神っぷりを改めて実感した。



「……さて、俺もレベル上げに向かうか」



 予定外にマイホームが手に入ってしまったので、稼いだ金は家財道具に注ぎ込むのもいいかもしれない。

 探索者としては商売道具とも言える装備に金を注ぎ込むべきなんだろうが、俺には【創造の光スプンタマンユ】の〈創造の御手〉がある。

 素材アイテムさえあればマジックアイテムの武具を揃えられるなんて、まさに狡い力チートだと言えるだろう。



「あれ、そういえば普通の衣類は創造できるんだから、家財道具も創造できるんじゃ……」



 試しに椅子を創造してみると、目の前に光の粒子が集まって椅子が創造された。

 マジックアイテムでなければ魔力を消費するだけで創造が可能なので成功するのは当然だ。

 当然なのだが……。



「……なんか歪んでるな」



 理由は不明だが、目の前には俺がイメージしたモノとは似て非なる椅子があった。

 座ったらすぐに壊れそうなぐらいに技術の拙さが窺える見た目だ。

 武具や衣類ではこんなことはなかったのだが、一体何が原因なのだろう?



「うーん……もしかして経験、か?」



 魔界時代は魔界の悪魔や魔獣達の素材を使って様々な物を作っていた。

 争いが絶えず、周りは敵だらけな魔界では家財道具などを作っても速攻で壊されるため作った試しがない。

 一方で、剣などの武器や鎧などの防具、そして防具の一種である布製の衣類などは必要に駆られて数え切れないほど作った。

 ファンタジーな剣や鎧はまだしも、衣類に関しては地球のことを忘れないためにも敢えて地球産っぽいデザインの服や下着を作っていた。

 そういった魔界時代の製作経験が反映されていると考えれば辻褄が合う。



「住まいに関しては他の悪魔の居城とかを奪って使ってたからな……」



 ある程度力を付けてからは、支配下に置いた弱小悪魔達に俺の住まいや家財道具を作らせていた。

 身を守る武具だけは他の者には任せられず自分で作っていたが、自分では生み出せないような他の悪魔が使っていた高性能の武具が手に入るようになってからは自作もしなくなった。

 今となっては懐かしくもあり惜しくもある武具の数々だ。



「アレらの武具があれば苦労することはなかった……いや、地球で使ったり売ったりしたら違う意味で苦労してたか」



 いつか装備の質も魔界時代並みに上がるといいんだが。

 足元から立ち上った影が身体に纏わり付くと、身に纏っていた衣服が探索者活動の装備に変更された。



「ま、兎にも角にもレベルを上げてダンジョンを攻略していけば分かることか」



 失敗作の椅子を固有能力を使って枯らして、細かく砕いてから影の中へと放り込むと、入れ替わりにダンジョン用のリュックを取り出して背負う。

 最後に室内を見渡してから、マンションから近いDランクダンジョンへと向かった。




 

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