第9話 スライム湿原
◆◇◆◇◆◇
意外と明るい青空、予想通りのジメッとした空気とベチョベチョの地面。
誰が呼んだか、〈スライム湿原〉と名付けられた瑞那区のDランクダンジョンに足を踏み入れた。
スライム湿原に入って間も無く噂以上に劣悪な環境を実体験したことで、このダンジョンが不人気であることに激しく納得した。
「カビ生えそう……【
固有能力【必滅なる渇き】を発動させて身に纏わり付く湿気、より正確に言うと〈水気〉を全て乾燥させた。
凡ゆる〈渇き〉を司る【必滅なる渇き】の力こそが、このスライム湿原での生命線だ。
「おっ。やっぱりスッキリしたな。イイぞイイぞ」
俺の周囲の大気が、梅雨のジメジメから真夏のカラッとした空気へと変貌した。
足元にあった水溜まりもいつの間にか干上がっており、歩くのに支障はなさそうだ。
「さて、これで地形問題は解決したな。さっそくヒルハ草を採りにいこう」
ネカフェで調べた時に紙に書き写しておいた地図を広げる。
ネットにはどこかの物好きがアップしたスライム湿原の地図が掲載されていた。
ダンジョン内でも使える最新スマホだったら問題なかったのだが、その最新スマホのための金稼ぎとも言えるのでアナログ手法で地図を用意した。
「この地図が本当に正しいとも限らないけど……こっちか」
書き写した地図を頼りにダンジョン内を歩いていく。
歩き始めてから気付いたが、俺が通って十秒も経たないうちに歩いてきた道が再び湿原と化していた。
「ダンジョンの環境維持特性、ってやつか」
ダンジョン内のフィールドは、探索者やモンスターによって破壊されても時間経過で元に戻る。
同様に出現するモンスターも暫くすると同一モンスターが再出現する。
モンスターの再出現までの間隔はモンスターやダンジョンによって異なり、一般モンスターなら一日以内には再び出現するが、ボスモンスターは早くても数日かかるらしい。
高ランクダンジョンのボスモンスターほど再出現までの間隔が長いようで、中には半年以上かかる個体もいるそうだ。
そんなモンスター達と同様に、ヒルハ草などの採取物も採取しても時間経過で再び生えてくるんだとか。
「ヒルハ草の間隔は十数時間。ランダムで振れ幅があるため正確な時間は不明、か」
目的地までの移動時間を含めれば毎日採取することもできそうだな。
「ん? ああ、アレがスライムか」
不気味に伸び縮みしながら近付いてくる半透明のゼリーみたいなモンスターがいた。
薄っすらと青色、いや水色をしているため結構目立つし、グネグネ動いているのもあってスライムの接近に気付かないということはないだろう。
「ナイフを……いや、石でいいや」
【
「効果は抜群だ」
渇きの石がスライムの粘体質な身体にぶつかると、数瞬ほどでスライムが消滅した。
消滅というよりは蒸発、気化したと言うべきか。
強烈な渇きの力が込められた石を身に受ければ、スライムのほぼ水分な身体が耐えられるわけがない。
ネカフェのソフトドリンクで実験しておいたので成功する自信はあったが、実際に上手くいって良かった。
渇きの石投げのみで倒せなかったら、俺が直接スライムを殴って【必滅なる渇き】を使う必要があった。
だが、上手くいったおかげでスライム狩りの効率が一気に上がるのが確定した。
「スライムの魔力核ゲット」
スライムがいた場所に落ちている魔力核を拾わずに、【
これでわざわざ拾う手間もなくなったな。
「今のうちに適当に石を拾っとくか」
スライムには魔力核以外にも弱点となる〈コア〉がある。
このコアを破壊することでスライムは死亡するのだが、スライムの身体と同様にコアを構成する成分の多くは水分だ。
なので、渇きの石によって身体だけでなくコアの水分も奪われたことで即死したわけだな。
「惜しむらくは影収納の射程距離が短いことか。倒したスライムの近くに移動する必要があるのは面倒だな」
ジャラジャラと石を鳴らすと、新たに現れたスライムへと渇きの力を込めた石を投げ付けた。
スライムの魔力核を影に収納しつつ、地図を確認する。
「スライム湿原なのにボスモンスターはスライム種じゃないんだよな。ボスモンスターがいるところは迂回しないと……」
ヒルハ草の目撃情報がある場所までのルートを確認し、その中からボスモンスターがいるエリアの近くを通るルートを除外する。
スライム湿原のボスモンスターはもう少しレベルを上げてから挑む予定だ。
スライム狩りで経験値と金を稼ぎ、安全マージンを確保してからボスモンスター討伐に挑む。
このダンジョンでの予定を再確認すると、ヒルハ草採取に向けてダンジョン内を歩いていった。
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