第8話 生活のために
◆◇◆◇◆◇
ネカフェでシャワーを浴びた後、涙ぐみながら自分のVIPルームへと戻る。
すれ違った他の客から奇異の目で見られたが、数百年ぶりのシャワーにあれほど感動するとは自分でも思わなかったのだから仕方ない。
魔界時代でも沐浴はしていたが、常に殺伐とした環境下でのことだったのでリラックスはできなかった。
やはり周りの環境って大事なんだと身に沁みて実感した。
「はぁ、最高だった。贅沢を言えば湯船にも浸かりたかったな……マイハウス獲得を目指そう」
全財産十万円未満の住所不定状態からの脱却を改めて誓いつつ、地球に帰還して初めての食事をとるべくモニターのお食事メニューを開く。
「色々あるな……」
フライドポテト、唐揚げ、ハンバーグ、カツカレー、醤油ラーメン、ミニうどん、炒飯、ミートソース、ビールをポチポチと選択すると注文確定ボタンを押した。
そしてソフトドリンクコーナーからドリンクを数種類注いできて暫くすると、次々と食事が届いた。
届いた料理から順に口にしていく。
「ーーッ!!」
数百年ぶりの地球の料理の味に叫びそうになるのをグッと堪えると、涙を流しながら黙々と頼んだ料理を平らげていく。
それからも追加の料理を頼んでは食べてを繰り返し、食事を終えたのは二時間後だった。
昼間は各種手続きで忙しくて食事をとる暇がなかったが、我慢して良かった。
もし昼間の時間に食事をとっていたら身動きが取れなくなっていた自信がある。
「…….うわっ、金額がヤバい」
食欲が止まらなかった結果、所持金が四万円を切ってしまった。
これは明日も……あ、もう今日か。
今日もダンジョンでのモンスター討伐を頑張らないといけない切実な理由ができた。
「Eランクダンジョンは余裕だったし、次はDランクダンジョンかな」
モニターからネットを開くと、近場のDランクダンジョンについて調べていく。
他にも金稼ぎに良いダンジョンやモンスターの情報、ボスモンスターにドロップアイテムの情報なども調べていった。
全ての情報を【
やるべきことをやって気が抜けたのか、眠くなってきたので室内のマットに横になると数秒と経たずに眠りに落ちた。
◆◇◆◇
「……ん、ハッ!? よ、よし。地球、だな。夢じゃないな?」
起床してすぐに辺りを見渡した。
寝落ちする直前の記憶通りの光景であること、ちゃんと地球にいることを確信すると胸を撫で下ろす。
充電していたスマホで今の時間を確認すると、どうやら8時間以上も寝ていたようで、既に昼前の時間になっていた。
24時間パックを買っておいて正解だったな。
「ふぁ……せっかくだから飯食ってたから出るか」
適当に注文したうどんを食べてから泊まっていたネカフェを後にする。
一晩で物凄くリフレッシュできたので、今日は昨日以上に全身に活力が満ち溢れている。
今のコンディションならDランクダンジョンも余裕だろう。
ネカフェで調べたダンジョンに向けて移動するために電車に乗った。
目的地は二つ隣の瑞那区にあるDランクダンジョン。
そのダンジョンに現れる主なモンスターは動く粘体である〈スライム〉だ。
湿原フィールドという足場の悪さと、物理攻撃の効き難い粘体系モンスターであるスライム種が多いダンジョンということもあって、国内のDランクダンジョンの中でも不人気な部類に属している。
スライムは物理攻撃が主体の戦士系では厄介でも、魔法使い系の魔法ならば容易に倒せるそうだ。
だが、不意打ちに弱い魔法使い系にとって、足場の悪い湿原フィールドは鬼門であるため魔法使い系の探索者からも人気がないらしい。
「まぁ、俺なら大丈夫だろう。あ、コレお願いします」
電車を降りた先にあった総合スーパーで小道具とリュックを購入する。
不人気ならば人も少ないはずなので、今回の狙いであるヒルハ草も残っているだろう。
このヒルハ草は、軽度の怪我を治療するだけでなく、消耗した体力も回復してくれる〈生命ポーション〉のメインとなる材料だ。
生命ポーションは探索者に限らず需要が高いのと、主な材料であるヒルハ草が採取できるのがCランク以上のダンジョンであることが殆どなのもあって高く買い取って貰える。
そんなヒルハ草がCランク以下なのに採取できる瑞那区のDランクダンジョンはかなり貴重なんだとか。
ヒルハ草の買取単価は当然のようにゴブリンの魔力核よりも高く、スライムの魔力核もまたゴブリンの魔力核よりも質が上なので高く売れる。
魔力核の方でも稼ぎが期待できるのもあって今から楽しみで仕方ない。
「よしよし。少なくとも外には人がいないな」
まさか探索者が一人もいないとは思わなかったが……まぁ、好都合だ。
さぁ、今日も人間らしい生活のために頑張って稼ぐとしよう!
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