第6話 Eランクダンジョン



 ◆◇◆◇◆◇



 蓑木区のEランクダンジョンの前には、夕暮れ時だというのに多くの探索者達の姿があった。

 大半はダンジョンから出て来たばかりの者達のようだが、中には今からダンジョンに入ろうとしている変わり者もいる。

 そんな変わり者の一人である俺もダンジョンのすぐ近くに作られた入場受付に向かう。

 受付にいる探索者協会の職員に探索者ライセンスを提示すると、専用の端末でスキャンしてもらった。



「天宮セイジさんですね。確認が取れました。どうぞ、お入りください」


「どうも」



 入場を許可されたのでそのままダンジョンの入り口へと進む。

 そこには地面から生えてきたかのような違和感を放つ黒い塔型の建造物〈ダンジョン〉が聳え立っていた。

 全てのダンジョンは多少の差異はあるが黒い塔の形状をしており、その塔の下部には内側が淡い青白い光で満たされた出入り口〈ゲート〉が存在している。

 目の前のダンジョンは塔型と言うわりには十メートルぐらいの高さしかないが、これはダンジョンのランクが上に上がるほど高くなるという特徴があるからだ。

 厳密には確定した特徴というわけではないそうだが、Eランクダンジョンなら十メートル台の高さであることが殆どだとか。


 そんなダンジョンにあるゲートを潜る。

 真偽は定かではないがゲートを潜る際に感じる奇妙な感覚は、地球とは異なる空間へと移動していることを意味しているらしい。

 魔界に拉致された時や帰ってくる時とは違うようだが、どちらも移動時は気絶していたから正確には分からない。



「これがダンジョンの中か。聞いていた通りの環境だな」



 蓑木区のEランクダンジョンのフィールドは森林だ。

 ネットで調べた通りの景色が目の前に広がっていたことに感心しつつ、情報を再確認するために自然とスマホを開くが、スマホの電源自体が入らなかった。



「そういや、このモデルはダンジョン内では使えないんだったな。早く最新モデルを手に入れたいな」



 ダンジョンという特殊な環境の影響によるものか、ダンジョン内では一般的な電子機器の類は使用することができない。

 だが、最新モデルのスマホはダンジョン内でも使えるように作られているため、ネット機能含めて全ての機能が使用できるらしい。

 その代わり、桁が一つ増えるレベルで非常に高価な代物になっている。

 昨今の新型の電子機器は、この最新モデルのスマホのようにダンジョン内でも使えるタイプを開発し販売するのがマストなんだとか。



「ダンジョン配信者なんて輩もいるらしいし、人間ってやつは逞しいよな」

 


 まぁ、魔界で数百年生き延びた末に帰還した俺ほどではないだろうけど。

 背後を振り返ると、そこには地球側と同じように青白い光を放つ空間があった。

 ダンジョン内の広さが有限とはいえ、これがダンジョン内から地球に戻る際の唯一のゲートなので場所を忘れないようにしないといけない。



「さて、適当に進むか」



 ゲートの周りにはモンスターどころか人の姿も見当たらない。

 軽く気配を探っても近くにモンスターはいないようだったので、ゲート付近から移動することにした。

 やがて、モンスターの気配を感知したので、そのまま進んでいって正面から接敵する。



「ゴブリンか」


「ギギッ、ギィッ!」



 モンスターの情報を視ることができる能力を持つ覚醒者によって〈ゴブリン〉という種族名であることが判明している、緑肌の人型モンスターがいた。

 このダンジョンの主体となるモンスターであり、Eランクという一番低い等級のダンジョンでは珍しくないモンスターでもある。

 数は五体。木製の武器あり。

 特筆することはない五体のゴブリン達が迫ってくるのを眺めながら、腰に佩いている鞘から長剣を引き抜く。



「この程度なら固有能力を使うまでもないな」


「ギィッ!?」


「ギュエッ!?」



 前方へと駆け出すと、ゴブリン達が武器を振るうよりも早く剣を振るっていく。

 一体につき一度だけ剣を振るうだけでゴブリン達を確実に葬り去っていった。



「〈ステータス確認〉。おっ、1レベル上がってる。これなら後1レベルぐらいすぐに上げられそうだ」



 次の獲物を探す前に倒したゴブリン達から魔力核を採取する。

 ゴブリンの魔力核は魔力の質が低いので、ラプトルモドキの魔力核ほど金にはならないだろう。

 だが、金に余裕のない俺にとっては貴重な小銭だ。

 一つも残すことなくせっせと採取していった。



「ふう。そういえば、Eランクダンジョンでもボスモンスターの魔力核は高く売れるんだったな……探すか」



 金稼ぎとレベルアップの両立させるために【無秩序の風サルワ】の風も使って広範囲を索敵する。

 今倒したゴブリンと同じくらいの大きさの気配は無視して索敵を続けると、離れた場所に多数のゴブリンの気配とボスモンスターらしき強い気配が集まっているのを見つけた。



「これだけいれば金も経験値もザクザクだな」



 風を纏って移動速度を上げると、森の中を疾走していく。

 ラプトルモドキの時よりも強化効果が上がっていることから、レベルアップによって固有能力も強化されているようだ。

 このままレベルを上げていけば、いずれ固有能力も魔界時代の力を取り戻すことができるようになるかもしれない。


 やがて、あっという間に森が拓けた場所に出た。

 そこはゴブリン達の集落らしく、拙い技術で建てられた住居らしき物が確認できる。

 高速移動の勢いを殺さずに森から飛び出すと、まだ気付いていないゴブリン達の頭上から【無秩序の風】による風の刃を乱れ撃った。



「喰らえ」



 二十体以上はいるゴブリン達へと大量の風の刃が降り注ぐ。

 突然の上空からの奇襲を受けたゴブリン達は成す術なく倒れていった。

 ゴブリン達の叫声で満ちる地上へと着地すると、巻き起こる土煙を晴らしながら肝心のボスモンスターを探す。

 気配では此処にいたはずだが……。



「グゥオオオォオッ!!」


「うおっ!?」



 横合いから振り下されてきた巨大な木の棍棒に対して、盾にした剣の上から更に風を纏わせることでギリギリ防ぐ。

 ダメージこそなかったが、衝突の勢いを殺すことはできず吹き飛ばされる。

 どうにか受け身を取って着地すると顔を上げて相手の姿を確認した。



「あれがボスのホブゴブリンリーダーか……」


「グゥオオオオオォォッ!!」



 一メートル半もない小柄のゴブリンとは違い、二メートル近い身体を持つ〈ホブゴブリン〉、そのリーダー種で三メートル近い巨体であるホブゴブリンリーダーが此処のボスモンスターだ。

 魔界時代よりも弱体化している【無秩序の風】の乱れ撃ちでも普通のゴブリンは倒せたようだが、ボスモンスターまでは倒せなかったみたいだ。

 ゴブリンよりも筋肉質な巨体は、見た目相応に防御力が高いらしく、出血させることぐらいはできているが、四肢を欠損するほどのダメージは与えられていなかった。

 普通のゴブリンは全滅し、生き残っている数体のホブゴブリンは虫の息だというのに、流石はボスモンスターというべきか。



「頑丈な奴め……ま、レベルは上がったからいいか」



[レベル10に到達しました]

[第二次能力が覚醒します]

[第二次能力【善き思考ウォフマナフ】が発現しました]

[第三次能力発現まで残りレベルは8です]



 出現した半透明の板をチラ見するだけで情報をじっくりと確認することができた。

 手に入れたばかりの【善き思考】の効果の一つである〈高速思考〉のおかげだ。

 【善き思考】は攻撃系の能力ではないので直接的には役に立たないが、間接的には非常に役に立つ能力だ。

 それに加えて、レベルが上がったことで全能力値も増大した。

 筋力値、耐久値、敏捷値などが上がったのは勿論嬉しいが、何よりも魔力値が増大したことで総魔力量が増えたのが一番嬉しい。



「これなら他の固有能力も実戦で使うことができるな」



 とはいえ、本来ならば一番強い【原初の闇アンラマンユ】は今も変わらずサポート系の力しか使えないので、それ以外の固有能力を使うしかない。

 高速化した思考で勝利までの道筋を立てると行動を開始した。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る