第4話 良いこともあれば悪いこともある



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーこちらが再発行した身分証明書になります」


「ありがとうございます」



 区役所を出ると、再発行してもらった身分証の情報を再び確認する。



「……まさか住んでた場所がダンジョンブレイクで崩壊しているとはな。おかげであっさり再発行できてしまった」



 ダンジョンブレイク時の混乱で身分証や財産を失うというのは珍しくないらしく、そういった市民への救済措置の一つとして身分証の再発行などの審査は緩くなっていた。

 俺がいた地域のダンジョンブレイクは、ダンジョンやモンスターといった存在が出現した最初期のモノであったので特に審査が緩く、当時の住所や電話番号、身分証を作った際の暗証番号などを覚えていれば簡単に再発行してもらえた。

 正確な日時は昔過ぎて忘れてしまったが、大体そのダンジョンブレイクぐらいの時に魔界に拉致された気がする。



「チッ、思わず感謝しそうになってしまった」



 最初期のダンジョンブレイクでは大勢の人が亡くなったが、俺は魔界に拉致されたことで助かった……そんな風に感謝できるほど魔界が良いところだったらどれだけ良かったことか。

 【原初の闇アンラマンユ】が発現するまでの数年間の悪魔の奴隷時代の記憶を頭を振って忘れる。



「さて、次はスマホを手に入れに行くとするか」



 適当な探索者を捕まえて俺の代わりに魔力核を換金してきてもらったため金はある。

 その探索者に頼んだ時のように魔界時代の力の一つ【悪しき思考アカマナフ】を使えば対象の思考に干渉することができるのでスマホの契約も楽勝だろう。

 俺が持っている探索者ライセンスが偽物じゃなかったら、こんな手間を掛ける必要はなかったんだけどな。


 その後、無事にスマホを契約して手に入れた。

 幸いにもダンジョンブレイク時の救済措置で【悪しき思考】を使わなくても契約できたが、魔界に拉致される前の時点で考えても古いモデルしか選べなかった。

 早く稼いで生活基盤を整え、最新モデルのスマホを手に入れたいな……。



「ここが探索者協会か……デカいな」



 あと、当たり前のことだが魔力を持っている者が多かった。

 探索者は魔力を扱える覚醒者適性持ちしかなれないので、これもまた当たり前のことだが。

 区役所の時と同様に入り口近くにあるタブレット端末を操作して整理券を発券すると、番号が呼ばれるまで待合室で待機する。

 待っている間スマホを使って情報を集めていると、程なくして自分の番号を呼ばれた。



「新規の探索者登録でお間違いありませんか?」


「はい、そうです」


「それでは覚醒者適性の有無を確認致しますので、こちらの板の上に手を置いて魔力を込めてください。魔力の込め方はご存知でしょうか?」


「はい、知っています」



 板に魔力を注ぐと、板の端にある小さなランプが点灯した。



「はい、ありがとうございます。それでは必要事項を登録致しますので、こちらのタブレット端末に入力をお願い致します」


「分かりました」



 記入する内容は基本的なことばかりなので問題ないが、住所の欄だけは入力せずに『特別被災保護(ダンジョンブレイク)』というのを選択した。



「特別被災保護とのことですが、お住まいは如何いたしますか? 協会の方で探索者用の仮設住宅をご紹介できますが……」


「うーん、一先ずは知り合いのところに世話になります」



 事前にネットで調べたところ、探索者用の仮設住宅を使う条件の一つに協会が指定するダンジョンでの採取活動とかがあるらしい。

 早く金を稼いで力を取り戻したいので遠慮させてもらおう。

 天涯孤独の身だから実家もないし、元々友人関係も希薄だったのもあって数少ない友人の名前も顔も最早思い出せない。

 ま、取り敢えずネカフェとかで寝泊まりすればいいや。



「かしこまりました。それでは協会からのお知らせなどについては、記入されたメールアドレスと電話番号を通して全てご連絡させていただきますね」


「はい、それでお願いします」



 それから幾つかの質問等があった後、ランク測定のために中身が透明な水晶玉に手を置いて再度魔力を注いだ。

 この水晶玉は注入された魔力を通して覚醒者の能力を総合的に評価できる希少アイテムらしく、これで覚醒者としての等級を測定するそうだ。

 ランクが高いほど暗い色になるそうで、一番下がFランクで一番上はSランクとのこと。

 俺には魔界時代の能力もあるし、もしかするとSランクになってしまうかもしれないな。

 ふふ、そうなると一気に裕福な生活が待ってーー。



「天宮セイジさん、Eランクです」



 視線を落とすと、そこには内部が少し白く濁っただけの水晶玉があった。

 マジかよ。



 

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