第3話 欲に屈すること勿れ
◆◇◆◇◆◇
「ーー助けていただきありがとうございます。私の名前は
ああ……そうだ。
人間の女性の声ってこんな感じだったな……。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫ですよ。俺の名前は天宮セイジです。よろしくお願いします、せ、朱鷺沢さん」
「セラでいいですよ。その、私もセイジさんとお呼びしてもいいですか?」
「勿論です」
おお、自然と名前呼びを。きっとセラはコミュ力が高いに違いない。
フッ、俺には無理だな……なんか悲しくなってきた。
気を取り直して、聞くべきことは聞いておかないと。
「……ところで、申し訳ありませんが、此処って何処でしょうか?」
「えっ?」
先ほど見つけたイベントポスターには場所が分かるようなことが書かれていなかったのだ。
正確には周囲のショッピングモール内と同様にボロボロになっていたから分からなかったのだが。
「セラさんを助けに向かう直前に目を覚ましたんです。頭がズキズキと痛むので一時的な記憶喪失みたいなものだと思います」
「なるほど。確かに自分の名前は分かってますものね」
「はい。良ければ何を忘れてるか確認がしたいので、この場所の情報の後も幾つか質問してもいいでしょうか?」
「はい、分かりました。えっと、まず此処はC市にあるエオルの封鎖地区にあるショッピングモール跡地です」
C市ということは数百年前に、いや四年前に俺が住んでた場所じゃないか。
エオルのショッピングモールって、確か魔界に拉致される前の年に出来たっけ?
「もしかして、五年ぐらい前にできたショッピングモールですか?」
「はい、そのショッピングモールです」
「なるほど……ところで封鎖地区とは?」
「封鎖地区は、ブレイクしたダンジョンが一時的に指定される地区のことです。原因のダンジョンを閉じた後も地区内にはモンスターが残っていることがあるので、地区内のモンスターが完全に排除されたことが確認されるまでは封鎖するのがルールで決まってるんです」
「ダンジョンというのは先ほど倒したようなモンスターがいる場所であってますか?」
「はい、合ってますよ」
会話の流れで適当に言ってみたが合っていたようだ。
しかし、ダンジョンにモンスターか。
魔界に拉致される前に読んでたマンガか小説か何かでそんな話があった気がする。
となると、アレもありそうだな。
「ダンジョンや封鎖地区に入るには何か必要な物はありますか?」
「はい。探索者ライセンスが必要ですね」
「実物を見せてもらっていいですか?」
「はい。コレが私のライセンスです」
セラが腰のポーチから取り出して手渡してくれた探索者ライセンスとやらを確認する。
カード型で、材質は……少し特殊のようだ。
「このカードを出入りの際に見せるんですか?」
「はい。探索者協会の職員に提示してから出入りします」
「確認は目視だけですか?」
「入る時は専用の携帯端末でスキャンして、出る時は目視だけですね」
入る時はまだしも、出る時は目視だけならどうにかなりそうだな。
「なるほど、ありがとうございます。俺のライセンスが手元に見当たらないので、たぶん目を覚ました場所の近くにあると思います。セラさんを出口まで送っていった後で探しにいきますよ」
「……私もお手伝いします」
「ですが」
「2人で探せば早く見つかると思います」
セラは良い娘だな。まぁ、今回は一人の方が良かったんだが、どうとでもなるから構わないか。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせてもらいますね。さっそく向かっても?」
「分かりました。あ、このモンスターの解体をして魔力核を持っていった方が良いですよ。換金は勿論ですが、封鎖地区から出る際にモンスターを倒した証明になります」
「そうなんですね。では解体して行きましょう」
「はい」
魔力核というからには魔力の核なんだよな?
それなら、たぶんこの魔力が集まってる場所にあるはずだ。
セラに隠れて彼女が取り出したのと同じ解体ナイフを【
お揃いですね、と言いながら微笑むセラに同意の言葉と微笑を返すと、四体のラプトルモドキの魔獣ーー現地に合わせてモンスターと呼称すべきかーー全てから魔力核を取り出した。
魔力核の予想は当たっており、セラとの会話の流れで知ったが魔力感知に優れている者は魔力核の正確な位置が分かるとのこと。
まぁ、俺には数百年分の魔界での経験があるから魔力感知が優れているのは当然だ。
なお、ラプトルモドキの魔力核は当たり前だが討伐者である俺が全て貰った。
換金の仕方も教えてもらったので近いうちに換金しに行かないと……今は一文無しだし。
それからセラと共に俺が目覚めた場所の近くまで移動すると、あまり離れ過ぎない程度に離れて辺りを捜索した。
当然ながら俺の探索者ライセンスなんて物は存在しないので、セラの探索者ライセンスに触れた際に【創造の光】の副次効果で読み取った情報通りに俺の探索者ライセンスを創造しておいた。
それからタイミングを見てセラと合流して、一緒に封鎖地区の出入り口へと向かった。
「おぉ……人が多いですね」
「そうですか? 封鎖地区解放の後始末は人気がないので、今日は少ない方ですよ」
「言われてみれば少ない気がしてきました」
十数人の人間の老若男女の姿は俺にとっては十分に多いほうだよ。
彼らの中の大半はセラと同じような剣や盾、鎧といったファンタジー染みた格好の者だったが、俺のように普通のファッションの者も数名いたので大して目立つことはなかった。
それから探索者協会とかいう組織の職員に魔力核と探索者ライセンスを提示したが、特に何も言われることもなく封鎖地区の外に出ることができた。
「セイジさん、今日は助けていただき本当にありがとうございました」
「いえいえ、俺もセラさんには助けられましたよ」
自分の頭を指先で突きながら答える。
まだまだ現在の知識は不足しているが、幸いにも魔界由来の固有能力があるので後は幾らでもやりようはある。
「……その、お礼がしたいのですが、これからお時間はございますか?」
「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいんですが、この後は思い出した記憶の範囲で色々やらなければならないことがありまして……」
「あ、そうですよね。セイジさんも怪我をされているんでしたね……」
本当は怪我なんてしていないし記憶喪失でもないけど、今は情報を集めるのが最優先だ。
銀髪美少女騎士との時間は惜しいけど…….本当に、惜しい……だからこそ、繋がりは残しておこう。
「はい。ですので、やるべきことが終わったら、セラさんさえ良ければまた連絡しますよ」
「本当ですか? でしたら、あの、コレを」
セラはポーチから取り出したメモ用紙に何かを走り書きすると、その紙を俺に手渡してきた。
そこには彼女の住所と電話番号、メールアドレスらしきモノが書かれていた。
道中での会話から名家のお嬢様っぽい感じだったが、この娘って結構積極的なタイプなのかな?
まぁ、今の世の中はこの程度は普通なのかもしれないけど。
「お礼をしたいので用事が終わったら連絡をくださいね」
「分かりました」
「絶対ですよ?」
「約束します」
「本当ですか?」
「本当ですよ」
漸く納得して立ち去っていく彼女を見送ると、彼女とは反対側の方向に歩いていく。
さて、まずは俺の住居は今どうなっているかの確認をしないと。
たぶん引き払われてるんだろうけど、確認しないことには色々と決められないからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます