第2話 帰還先がおかしい
◆◇◆◇◆◇
「ーーう、ぐっ。気絶してたのか。二百年ぶりに気絶したな」
気絶から目覚めた先は、気絶する前にいた儀式場とは異なる何らかの建物の中だった。
感じる空気や重力などから魔界ではないことが分かり、歓喜の叫びが口から溢れ出しそうになる。
だが、そんな喜びの感情が吹っ飛ぶぐらいに予想外のモノが目の前に出現していた。
[対象人物:
[対象人物の覚醒者適性が確認されました]
[対象人物の第一次能力が覚醒します]
[ERROR]
[対象人物は既に正体不明の力を取得しています]
[ERROR]
[ERROR]
[対象人物の正体不明の力をシステムに最適化します]
[……成功しました]
[最適化により対象人物の身体性能が大幅に低下します]
[対象人物は固有能力が発現しています]
[対象人物は現在レベル1です]
[対象人物の第一次能力【
[第二次能力発現まで残りレベルは9です]
目の前に出現した半透明の板に記載された情報に、思わず表情が強張る。
「……なんじゃこりゃ」
はて? もしかして此処は地球じゃないのか?
無意識に自分の力を確認していく。
すると、目の前の半透明の板に記載されていたように身体性能が大幅に弱体化していることが分かった。
更に魔界の悪魔共から奪った能力も全て消失している。
だが、自ら発現させた【
おそらくだが、これらの能力が固有能力に該当しているのだろう。
それらに加えて、この半透明の板に記載されている第一次能力とかいう【創造の光】の存在も確認できた。
「アンラマンユ達が残っているのは不幸中の幸いか。スプンタマンユも便利そうだが、今の状況が分からないんだよな……」
取り敢えず立ち上がって室内を見渡す。
周囲は真っ暗のようだが、【原初の闇】の効果の一つで闇を見通すことができるため問題ない。
先ほどは混乱していて気付かなかったが、どうやら俺がいるのは数百年前の地球にも存在したショッピングモールのような場所らしい。
目と耳で確認するが、俺以外に人はいないようだ。
「魔界で数百年過ごしたのにおかしいな。おっ、何かのイベントのポスターか……はぁ? このポスターが直近のものなら、もしかしてたった四年しか経ってないのか?」
イベントのポスターに書かれていた日時などの情報から、俺が拉致されてから四年ほどしか時間が経っていないことが分かった。
おそらく魔界と地球では時間の流れが異なるということだろう。
勿論、ここが俺が知ってる地球なら嬉しいが、何故か覚醒者や第一次能力といった地球にはなかった力が存在しているんだよな……。
「分からないことだらけだが、一先ず着替えるか」
地球帰還用に着ていた魔界で作った地球産っぽいデザインの衣服を【
完全な犯罪行為だが、現状はそれどころではなかった。
何故ならば、この店をはじめとしたショッピングモール内は所々が破壊されていたからだ。
「血痕っぽいのもあるし、まるで戦いの跡みたいだな。ポスターや商品の文字は同じだから、地球かつ国内ではあるようだが……ん、これは人の気配と、悪魔、いや魔獣の気配か?」
【無秩序の風】で感知した空気の動きを元に気配を探る。
人らしき気配は一つ。それを追う陸を走る鳥に似た走り方をする二足歩行の魔獣らしき気配が四つ。
俺がいる場所に向かって来てはいるが、このままだと此処に辿り着く前に追い付かれそうだ。
「第一村人、もとい数百年ぶりの人間を逃すわけにはいかないな」
【無秩序の風】で弱体化した身体の動きを補助して疾走する。
「くっ、マジで遅いな!」
この程度の距離なら素の身体能力だけでも数秒で着いたのに、今は風による強化込みで十秒以上は掛かりそうだ。
現状の身体能力に対する罵詈雑言を胸中で繰り返していると、目の前に人影が見えてきた。
「うぉ……お、女だとッ!?」
数百年ぶりに人間の女性の姿を目の当たりにして、眠っていた男としての本能が目覚めるのを感じる。
大学生ぐらいの外見に騎士っぽい鎧の形状通りならばメリハリのある肉体、銀色の長髪に紫色の瞳の色合いが何とも煌びやかな美少女だ。
ああ……やはり生身の女は違うな。
色々と思うことはあるが、今は真面目に意識を彼女を追う敵へと向ける。
レベル1というのはゲーム的に言えば弱々の初期レベルだろうから油断するわけにはいかない。
「そのまま走り抜けろ!」
「っ、分かりました!」
鎧姿にしては走るのがかなり速い彼女とすれ違った際に嗅いだ匂いに思考が乱されるが、接敵するギリギリで意識を元に戻した。
彼女を追っていた二足歩行の魔獣は小型の竜にも似ている。
いや、正確にはラプトルとかの小型の肉食恐竜に似ていると言うべきか。
牙や爪が鋭そうだから注意が必要だが、遠距離攻撃ができる【無秩序の風】のみでは戦えない。
ここまでの高速移動などに【無秩序の風】を使った所為で、魔力消費の多い遠距離攻撃のみで動きの機敏そうな四体のラプトルモドキを倒せるほどの魔力が残ってないからだ。
弱体化した影響で総魔力量が減っていることも考慮して今後は能力を使わないとな。
「【創造の光】」
初めて使うため意識するのみで能力が使えるか不安があるため、確実に発動させるべく能力名を口に出して発動させる。
光の粒子が集まると手の中に金属製の長剣が創造される。
レベル1の今の俺ではこの程度の武器しか作れないようだ。
まぁ、魔界で剣は扱ったことはあるので特に問題はないだろう。
「うぉおおッ!」
「ギュアッ!?」
高速移動の勢いのままに一体のラプトルモドキの後ろ足の一本を刈り取った。
纏っている風も操って身体を無理矢理動かすと、身体の動きを止めずに残りの三体にも肉迫する。
ラプトルモドキ達がまだ此方に振り返っていないうちに一体のラプトルモドキの脇腹を斬り付けて大ダメージを負わせた。
「あと二体!」
「ギャウッ!」
先に反転した一体が即座に飛び掛かってくる。
その強襲を恐れることなく、大きく開かれた口内へと長剣の刃を差し込んだ。
思った以上に長剣が鋭かったらしく、長剣の刃はそのままラプトルモドキの頭部を貫通した。
長剣を引き抜こうとしていると、最後の一体が前足の鉤爪を構えながら真っ直ぐ突っ込んできた。
「一体だけなら魔力は余裕だ」
「ギャバッ!?」
【無秩序の風】で発生させた風の刃でラプトルモドキを両断する。
真っ二つになって確実に死んだラプトルモドキから視線を外して今度こそ死体から長剣を引き抜くと、まだ生きている二体のラプトルモドキにトドメを刺していった。
「あの、大丈夫ですかっ!?」
「だ、大丈夫ですよ」
人との会話が久しぶり過ぎて吃ってしまったので、此方に駆け寄ってくる彼女が近くに来るまでにそっと深呼吸をしておく。
さて、数百年ぶりの人間である彼女から色々話を聞いておかないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます