魔界の鏖殺者〈スレイヤー〉は地球に帰還する 〜人間的な生活のためにモンスターを狩ってたら目立ってた〜
黒城白爵
第1話 魔界からの帰還
「ーーこの景色も見納めか」
頭上を覆うどんよりとした灰色の曇り空を見上げながら呟く。
正確な年月すら忘却するほどにこの世界にいるが、何度見ても日々の天気の違いが分からないほどに、いつも同じ空が広がっている。
それは住人達が晴れ空と呼ぶ時ですらも曇り空だった。
「最後に眺めても、やはり晴れか曇りか分からんな。雨は流石に分かるけど」
〈魔界〉と呼ばれる此処の住人である〈悪魔〉共は天気の違いが分かるらしいが、長く住んでいるとはいえ、所詮は悪魔共に奴隷として拉致されてきた人間である俺にとっては毎日変わり映えのしない空でしかない。
そう考えると、ある意味では貴重な景色なのかも……。
「……うん。全く惜しくないな。早く太陽が見たい」
天に唾を吐きたくなる気持ちを堪え、改めて地球へと帰還する作業を進める。
魔界を支配していた大悪魔達や君主共の魔力が強く宿る心臓が置かれた祭壇の周りに逆召喚の陣、つまりは地球への帰還のための召喚陣を敷いていく。
力ある悪魔共の心臓を多数使用すれば帰還できることを知ってから、百年以上の時間を掛けて準備をした。
長かった……本当に長かったッ!!
「うぅ……やっと、やっとだ。やっと日の当たる生活と人間らしい生活を取り戻せるんだな」
感極まって三百年ぶりぐらいに涙を流す。
百歩譲って毎日の曇り空はまだ良いとして、ゲテモノしかない魔界の食物や料理からは本気で逃げ出したかった。
魔界に拉致されて百年近く経った頃に偶々見つけた見た目も味もマトモな謎の果物がなければ、地球への帰還を目指す心は折れていたかもしれない。
「……あぁん? 誰だ、こんな大事な時に俺の儀式場に襲撃を仕掛けてくる馬鹿は」
帰還の祭壇がある建物が揺れる。
大事な儀式の場であるため一際頑丈に作っておいて正解だったな。
屋外へと一瞬で移動すると、そこでは悪魔の軍勢が建物を攻撃していた。
「悪滅者ガ現レタゾ!」
「我ラ悪魔ノ大敵メ!」
「今コソ君主様ノ仇ヲーー」
「喧しい」
軍勢に向けて使い慣れた【
突如として発生した荒れ狂う暴風が、あっという間に悪魔の軍勢を呑み込む。
悪魔共の姿も声も掻き消えてから程なくして、眼前の景色全てを覆い隠す規模の暴風を解除する。
その頃には、儀式場を攻撃していた軍勢は完全に消滅していた。
「ふん。回収した魔力量的に結構な数がいたみたいだな」
俺が魔界に来て間もない頃に発現した力である【
今さら新たな悪魔の能力は手に入らなかったが、儀式前に大量の魔力が得られた点だけは良かったかもしれない。
これまでに集めた悪魔の力の一つである転移能力で儀式場へと戻る。
「さて、少し邪魔が入ったが、さっそく始めるとしよう」
祭壇の中央に立ってから膨大な量の魔力を注ぎ込み、地球帰還の陣を起動させる。
魔界の支配者共の心臓が脈動し、それらの心臓と地球から来た俺自身の心臓を触媒にして地球への門を開く。
先ほど悪魔の軍勢の攻撃を受けた時以上に建物が揺れる。
やがて、足元の逆召喚陣が一際強い輝きを放つと視界が暗転し意識を失った。
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