第13話 ムエタイの猛者

 和真と貴恵が研究室に到達すると、そこにはメガの精鋭警備部隊が待ち構えていた。鋭い目を光らせた兵士たちが、二人を見逃すことなく監視している。和真は冷静に周囲を見回し、瞬時に脱出経路を思いついたが、問題はその先に待ち受けている障害だ。


「貴恵、ここで待っていてくれ。すぐに終わらせる」和真は、貴恵に向かって短く言った。


「だめよ、和真。一緒に行くわ」貴恵は強く答えた。その言葉には迷いがなかった。二人は今、互いの信頼の下で一つのチームとして動いていた。


 和真は深く息を吸い込んだ。「分かった、でも慎重に行こう」


 施設内の廊下は狭く、鋭い警備の目が常に彼らを追っていた。和真はサイバーセキュリティのスキルを駆使し、監視カメラの一時的な無効化に成功したが、警備員たちは警戒心を解かない。突然、廊下の奥から足音が近づいてきた。


「隠れて!」和真は貴恵を引き寄せ、近くの機械室に押し込んだ。


 その時、ドアの向こうから現れたのは、施設内でも特に強力な部隊、そしてその中でも一際目立つ男が一人いた。ムエタイの格闘技に長けた彼、シリア出身のアラビア系の兵士で、施設内では恐れられる存在だった。名前はファハド・アル・ラミ。彼は「鋼の拳」として知られており、無駄な動きなく、冷徹に戦うことで名高かった。


 和真はその男の姿を見て、心の中で一瞬、警戒の感情が湧き上がった。もしこの男が近づいてきたら、どう戦うべきか。和真はその瞬間、頭の中で最良の戦術を考えた。


「来るぞ」和真が小声で言うと、貴恵もその瞬間を察知した。二人は背中を合わせ、息を潜めて待った。警備員たちはドアの外で立ち止まり、慎重に周囲を探ったが、和真たちはその隙に、さらに隠れる場所へと移動することに成功した。


 ファハドがそのまま廊下を通り過ぎると、和真は静かに彼の動きに合わせて後をつけた。しかし、ファハドの目が鋭く、和真の動きを察知したかのように振り向いた。その一瞬で、和真は自分の身体を低く構え、反射的にファハドの接近に備えた。


「お前が和真か?」ファハドの声が響いた。彼の眼光は鋭く、和真の動きを一瞬で読み取ったようだった。「お前がこの施設に潜入していることは、最初から分かっていた」


 和真はすぐに反応し、戦闘態勢に入った。「君がファハドか…やっと会えたな」


「俺の拳を受けてみろ」とファハドは冷徹に言った。その瞬間、彼の足元がわずかに動き、次の瞬間には和真へ向けて強烈な突きが放たれた。


 和真は急いで身をかわし、ファハドの攻撃を避けながら反撃に転じる。ムエタイの流れるような動きで彼は素早く反応し、和真を次々と追い詰める。しかし、和真も決して負けてはいなかった。以前の経験を生かし、彼の攻撃をかわしつつ、反撃のタイミングを見計らう。


 ファハドの膝蹴りが和真の脇腹に当たり、和真は一瞬よろめく。しかし、その隙を突いて和真は足を使い、ファハドの脚を絡めて倒すことに成功する。その瞬間、和真は素早く反転し、ファハドの背後を取り、彼を制圧した。


「このままじゃ、終わらせられないぞ」

 ファハドは苦しみながらも、挑戦的な目を和真に向けた。


「諦めろ、ファハド」和真は冷静に言った。「お前がどれだけ強くても、この戦いはもう終わりだ」


 その時、貴恵が和真に近づき、無事を確認した。「和真、大丈夫?」


 和真は疲れた表情を浮かべながらも、しっかりと頷いた。「ああ、今のうちにアマルガム計画を止めるために、あのデータを破壊しよう」


 二人は再び手を取り合い、戦いの余韻を振り払うように、アマルガム計画を阻止するために動き出した。ファハドを倒したことで、施設内の警備は一時的に混乱し、和真と貴恵はその隙を突いて研究データの破壊を進める。


 最後の一手として、和真は施設内に仕掛けられた自爆装置の設置を開始し、二人で脱出するための時間を稼いだ。施設が爆破されるまでのわずかな時間、和真と貴恵は静かに手を握り合い、この任務が成功することを心から願っていた。


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