第10話 虫の巣

 和真と貴恵がガリウムの製造元に近づくにつれて、彼らの周囲はますます不穏な空気に包まれていった。施設に足を踏み入れる前に、和真はその周囲を慎重に調査した。ガリウムがどのように使われているのか、そしてメガがどれほどまでにその技術を隠蔽しているのか、その答えを知るためには、施設内に潜む危険に立ち向かわなければならなかった。


 施設の入り口に到達すると、和真と貴恵は思わず息を呑んだ。見上げると、巨大なセキュリティゲートと無数の監視カメラが彼らを監視していた。しかし、和真は冷静さを保ち、周囲の状況を分析した。


「ここは、まるで虫の巣みたいだ」

 和真がつぶやいた。

 貴恵はその言葉の意味を理解し、目を細めた。「つまり、この施設は、まるで監視の網が張り巡らされている場所だってこと?」

 和真はうなずいた。「そうだ。メガはここを絶対に守るために、どんな手段も使っている。まさに、無数の目が常に監視している」

 二人は、慎重に施設内に潜入する方法を計画しながら、さらに歩を進める。和真は、施設の外に設置されたセンサーを無効化するための装置を取り出し、貴恵はその間に警備員の動向を確認する役目を担った。


 だが、潜入して間もなく、和真はある異常に気づいた。施設の中に入ると、どこかしら湿度が高く、空気が重いことに気づいた。その違和感が、次第に彼の頭に強い不安を呼び起こす。静かな暗闇の中で、かすかな音が聞こえる。


「和真…」貴恵の声が震えている。「何かがいる」

 その瞬間、和真は振り返り、周囲を見渡した。薄暗い照明の下、何かが動く影が見えた。それは、人間の動きとは明らかに違う、不規則で小刻みな動きだった。

「虫だ…」

 和真は驚きの表情を浮かべながら、つぶやいた。


 その時、周囲の壁から、無数の小さな虫たちが壁を這いながら現れた。彼らは、壁の隙間から、床や天井を這い回る一匹一匹が奇妙に光を放っていた。それらの虫たちは、ただの昆虫ではなかった。和真はすぐに理解する。これは、メガが使っている監視システムの一部であることを。


「これらの虫、センサーの代わりに使われているんだ」和真は、目の前で虫たちが無数に集まり、壁に沿って動いているのを見ながら言った。「彼らは、施設内の空気や動き、温度を感知して、警備システムに情報を送っている」


 その虫たちは、センサーとしての機能を持ちながら、まるでその施設を支配しているかのように動き回っていた。和真は、その異常な監視システムを前にして、再び警戒を強めた。


「どうやって、これをかわす?」

 貴恵が不安そうに尋ねた。

 和真はしばらく考え、そしてその答えを口にした。「この虫たちは、感知能力が非常に高い。でも、逆に言えば、彼らが反応しない範囲を見極めれば、避けて通ることができる」

 二人は慎重にその範囲を調べ、虫たちが集まっている場所を避けながら、施設の奥へと進んでいった。しかし、その途中、和真は不意に足元で何かを感じ取った。見上げると、無数の虫たちが一斉に一箇所に集まり、激しく動き出した。

「来る!」

 和真は叫び、貴恵を引き寄せて走り出す。

 虫たちは、まるで猛スピードで彼らを追うかのように、床を滑るように動き出した。和真は、持ち前の素早い反応で貴恵を守りながら、進行方向を切り替え、虫たちの群れをかわしていく。


「やばい!もうすぐだ!」貴恵が息を切らしながら言った。


 和真は必死に前を見据え、ついに施設の中心部にたどり着いた。そこには、ガリウムの製造装置があった。巨大な機械が冷たく光を放ち、まるでその中に無限の力を秘めているかのように見えた。しかし、その周囲にも無数の虫たちがひしめいているのが見えた。


 和真は一瞬立ち止まり、深呼吸をした。これがメガの核心であり、ここを突破しなければならない。彼の胸には強い決意が宿っていた。彼は、貴恵の手を握りしめ、再び前進を始めた。


「今度こそ、終わらせる」


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