第9話 ガリウムの秘密

 和真と貴恵は、メガの脅威に立ち向かうため、さらに深い暗闇に足を踏み入れた。エルガの計画を阻止するため、彼らは一つの重要な手がかりを追っていた。それは、ガリウム――メガが使用しているという特殊な化学物質だった。


 ガリウムは、一般的に半導体や電子機器の製造に用いられる金属だが、メガの研究チームはその特性を別の形で応用していた。和真はその情報を掴み、ガリウムがメガのサイバー攻撃を支えるための重要な鍵だということを理解していた。


「和真、これがメガの最新技術に使われているガリウムのサンプルだ」岸本は、和真に見せるために一つの小瓶を差し出した。その中に入っていたのは、透明でありながら異常な輝きを放つ液体のような物質だった。


「ガリウムは、もともと高温での電気伝導性が良いことで知られている」岸本は続けた。「だが、メガはこのガリウムを改良して、通信の盗聴や、遠隔操作の妨害をする装置に使っている。これを使えば、サイバー攻撃を完全に隠蔽できる」


 和真は、その説明を聞いて、眉をひそめた。「つまり、ガリウムがメガの通信を守るためのカギになっているってことか?」


 岸本はうなずいた。「その通り。ガリウムを使えば、外部からの干渉を完全に防げる。メガはこの物質を、世界中のサイバー攻撃の隠蔽に利用しているんだ」


 貴恵は、和真と岸本の話を静かに聞いていた。そして、少しの間黙ってから口を開いた。「でも、どうしてそんなものがメガに手に入るの?普通は企業の高度な研究施設でしか扱われていないものじゃない?」


 和真は目を細めて言った。「それが、メガの恐ろしいところだ。ガリウムを手に入れた経緯を追うと、メガがすでに一部の政府や企業に潜伏していることが分かる。彼らは何年も前から、裏で世界を操る力を蓄えてきたんだ」


 それを知った貴恵の表情は、ますます暗くなった。「それじゃ、私たちの知らないところで、ずっとメガの影響力が広がってきていたってこと?」


 和真は無言でうなずき、再びそのガリウムの小瓶を見つめた。もし、この物質がメガの手に渡ったままだとすれば、彼らの次なる攻撃が、世界規模で大きな被害を引き起こすことは間違いない。それを阻止するために、和真たちはガリウムを奪回し、メガのネットワークを完全にシャットダウンする方法を見つけなければならなかった。


「和真、次にどこに行くの?」貴恵は、和真の決意が固いことを感じ取りながら尋ねた。


 和真は静かに答えた。「ガリウムの製造元がある場所を突き止めた。そこがメガの最深部、最も守られた施設だ。おそらく、ここから先が最も危険な道だろう」


 和真と貴恵は、準備を整え、再びその危険な世界へ足を踏み入れた。ガリウムの秘密を解き明かし、メガの真の目的を暴くために、二人は不安を抱えながらも決意を新たにして進んでいった。


 そして、その施設に近づくにつれて、和真の胸の中にひとつの強い思いが芽生えた。彼は、もう迷わない。貴恵と共に、どんな試練も乗り越え、メガの影響を完全に排除することを誓っていた。


 一方、施設の中では、メガの幹部たちがガリウムを駆使した新たな計画を進めていた。彼らの手の中にあるその物質が、どれほど危険なものか、和真はまだ知らなかった。しかし、それを知る時が来ることを、彼は確信していた。


「和真、気をつけて」貴恵は、和真に最後の言葉をかけた。「何が待ち受けているか分からないけど、私はあなたを信じている」


 和真は少し微笑み、彼女の手を強く握った。「ありがとう、貴恵。君と一緒なら、どんな敵も倒せるさ」


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