第2話 エスコルヌ女子爵
サー・ポーロ士爵と会談した数日後。
フィブレはポロムドーサの隣町、ノースランドへとやってきていた。
手狭になったギルドの訓練場。
その拡張をサー・ポーロ士爵がいつまでたっても認めてくれないない中、ノースランドを領地とするエスコルヌ女
フィブレがエスコルヌ女子爵の屋敷に着くと、
「急なご連絡にもかかわらず、ようこそ我がノースランドへお越しいただきました」
エスコルヌ女子爵は、男なら誰もが目を奪われるであろう美しい笑顔で、フィブレを迎えてくれた。
エスコルヌ女子爵は20才ほどの美人で、スタイル抜群で、腰まである美しい黒髪が印象的な才媛である。
そんな若く美しい女貴族の、しかしおよそ貴族とは思えない腰の低さに、
「いえいえ、訓練場の用地を格安で譲っていただけるとのお話をいただいたのですから、急ぎ参じるのは当然です」
フィブレは少し面喰らいながらも、人好きのする笑顔で言葉を返した。
2人は軽く世間話をしてから、本題へと入った。
「それで、本当にこのような安い金額で土地を譲っていただけるのでしょうか?」
フィブレがおずおずと切り出す。
「ええ、先だって書面でお伝えした通りですわ」
「では金銭以外に、何か別の対価が必要なのでしょうか?」
「まさかまさか。先日提示した金額だけで十分ですわ。どうせ農地にならない荒れた土地ですし、遊ばせておくくらいなら有効活用した方がよろしいでしょう?」
「ですがそれにしても安すぎると申しますか……」
農地に適さない荒野とはいえ、ただ同然で譲ってしまってはエスコルヌ女子爵に何のメリットもないのでは? というフィブレの考えは、しごく当然である。
何か裏があるのではとフィブレが心配になってしまうのも無理はなかった。
フィブレは冒険者ギルドのギルドマスター。
裏方スタッフも含めれば400人を超える大所帯を預かる身だ。
甘い誘いに乗って、愚かな決断をすることは許されなかった。
「ふふっ、噂通り真面目な方なのですね。そうですね。私があなたに個人的な恩義を感じていると言えば、納得していただけますかしら?」
「俺に恩義ですか?」
「ええ。あれはまだ私が幼い子供だった頃のことです。当時は隠居前の父が領地運営をしておりましたが、領内に大型の魔獣が出没したのです」
その言葉に、フィブレの脳内にとある記憶が蘇ったっ。
「ノースランド大型魔獣事件」
「フィブレ殿はもちろんご存じですわよね。なにせ魔獣討伐メンバーの一人だったのですから」
「よくご存じで」
強大な魔獣が都市部に出現するという緊急性が高い危険な案件に、当時のポロムドーサ冒険者ギルドが誇る最強パーティが討伐に当たったのだが。
その一人が当時、まだ10代半ばにしてS級冒険者となっていたフィブレだったのだ。
「それはもうよく存じておりますわよ。あなたの──“神童”フィブレの活躍は今でも覚えておりますもの」
「そ、そんな二つ名もありましたね」
当時はかなり調子に乗っていたのもあって、思い出すだけでなんともむず痒くなってくるフィブレである。
「あの時、あなたは先頭に立って魔獣と戦い、戦いの中で子供を数名助けましたよね? その1人が私だったのですわ」
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