21話 女子との合同訓練で男子のテンションがおかしなことになってるのじゃ
クラスメイトの嫉妬はますます怨嗟じみてきた。
いや、まあ、俺の被害妄想かもしれないけどさ。
ただ、異世界の救世主候補者を集めたようなクラスだから、いじめに遭うようなことはなかった。
洞察力の鋭い塩が早々にごっちゃんの狙いを見抜いていたようだ。塩は自分たちが強くなれば、ごっちゃんが俺といちゃつく機会はなくなるだろうと主張した。
そう。それが事実だ。
「そうだよ。そういう理由がなかったら赤井君みたいな冴えない奴を、護国先生が特別扱いするはずないよ」
俺のためを思ってくれた援護の言葉だと思うんだが、妙に黒い刺を感じたのは気のせいだろうか。
なにはともあれ、さっさと成長して俺から教師助手の座を奪おうとする考えが生まれてきたのだ。
そのため、クラスメイトの訓練に対する意欲の炎は轟々と燃えている。
異世界転移訓練学校での生活が始まってから何回目かの夜明けを迎えたとき、誰が言いだしっぺかは不明だが、クラスの全員で寮の周りを走るようになった。
今日も意気軒昂と朝食前の汗を流している。
俺もスキルを使わずに素の体力を鍛えるためにみんなと一緒に早朝ランニングだ。
「赤井を、さっさと乗り越えろー!」
「赤井を、さっさと乗り越えろー!」
「おっぱいもみもみ、許せないー!」
「おっぱいもみもみ、許せないー!」
この掛け声は、どうにかならないものか……。すれ違うたびに他クラスの生徒たちが、ちらちらと見てくる。
異世界転移訓練学校に来てから1週間くらい経ってだんだんと分かってきたのだが、全校生徒は三百人くらいいるようだ。俺たちは、ごく平凡な男子高校生クラスだけど、女子だけのクラスもあるようだし、男女混合のクラスもあるようだ。俺たちとは異なる基準で集められたのだろう。
翌朝、1時間めだというのに全員が授業開始の10分前には体育館に集合して鼻息を荒くしていた。
なぜか。
寮の連絡板に「明日は『何処にでもいる普通な女の子』クラスとの合同訓練じゃ。遅刻厳禁なんだよ」と書かれていたからだ。
クラスメイトのテンションは高い。
男だらけのクラスだから、女子に飢えているのだ。
ごっちゃんと接触が多く、妹ともいちゃつける俺と異なり、他のクラスメイトはもう子孫繁栄のためにナワバリバトルを挑む狼のように、目つきがギラギラしている。
授業開始の時間になり、体育館の重々しいドアがゴロゴロと大きな音を立ててゆっくりと左右に開きはじめた。
体育館で正座待機している男たちの視線がすごい勢いで、ドアに向く。
スポットライトのように光が照らす場所に、ひとりの美少女が現れる。
日本の何処かの高校が採用しているであろうモダンな制服を初々しく着て、小股でちょこちょこと歩きながら体育館に入ってくる。
なぜか拍手が巻き起こった。涙を流し「ありがとう」と感謝を叫ぶ者がいる。床に這いつくばる者、スカート覗こうとするんじゃねえと怒りだす者、踊りだす者……。みんな内なるキチを解き放っている。
髪飾りに光を反射させ、長い黒髪をさらさらと揺らしながら、可憐な女子が俺たちの前に立つ。
半分だけ出た手で袖を握った小柄な女子が「似合ってる?」と言いたげに、伏し目がちにちらちらとクラスメイト達の様子を窺っている。
というか、ごっちゃんだ。
「……ごっちゃん、だよ」
ごっちゃんの挨拶に俺たちは「おはようございます」と返した。体育館に充満した俺たちの雄たけびが、おうんおうんと反響している。
ごっちゃんはA組以外にも授業を受け持っているらしく、昨日は終日ごっちゃんの授業が無かったから、俺たちのテンションは高い。
昨日はどこの学校にでもひとりはいるような、禿げた中年の教師が出ててきたから、俺たちは海の底よりもブルーだった。久しぶりに見た美少女は、見るだけで感涙ものだ。
実戦訓練の増加にあわせてごっちゃんの授業が減少しつつあった俺たちにとって、制服は御褒美だった。ケチャップなんて床を転がりながら「うべべえっ」と涎を撒き散らしている。絶対にイカれたフリをし、スカートの中を覗こうとしている……。
外からざわざわと物音がする。
続々と女子生徒が入ってきた。
JKだ!
俺たちは息を止め声を潜め、JKが入ってくるのを観察する。
正座により視線が低い俺たちの目に、JKの輝く太ももが眩しい。
30名前後だろうか。俺たちと同じくらいいるようだ。男どもは髪や襟元を整えたり、姿勢を正したりキメ顔になったりと大忙しだ。
女子たちがズラッと並んだ。スカートを除かれるのを警戒しているのか、全員立ったままだ。
自然と男たちも立ち上がる。
なんか、30名ずつ立って並び、まるで野球の試合開始みたいに向かいあった。
列の橋の向こうでごっちゃんがぴょこんと小さくジャンプした。
「今日は、A組『何処にでもいる普通の男子高校生』クラスと、B組『何処にでもいる普通の女子高校生』クラスとの合同訓練を実施するんだよ」
確かにと言っては失礼かもしれないが、現れた女子たちはみんな普通の顔つきだ。ごっちゃんのような美少女はいない。
どの子もクラスの派手グループにも地味グループにも属さないような『普通』としか表現のしようのない女子だ。林間学校のキャンプファイヤー効果があれば、ようやく美少女と呼べるくらいの感じ。
クラスメイトたちも俺と同じように思ったらしく、鼻息の荒さが落ち着いてきた。
これは女子生徒にとっても同じだったらしく、部屋に入ってくる瞬間は、みんな目をキラキラさせて笑顔を振りまきながら入ってきたくせして、中に進むにつれて、まるで雲がかかってしまったかのように瞳のキラキラが減っていった。
しかし、そこはさすがに、互いに高校生。
露骨な態度に出さないようにしようとするし、年頃の異性の前では良い顔をしようとするので、すぐに両者とも笑顔になった。
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