18話 ごっちゃんの胸を揉む

 クッコロさんは俺の腰のあたりに、お尻の感触がはっきり伝わってくるくらいどっしりと座って、両手で胸を触ってくる。

 眉ひとつ動かさず怒った表情で、両手で俺の胸を鷲掴み。もみもみ。

 細い指で、俺の平たい胸の脂肪をかき集めるようにしてくるから、刺激が強い……。

 あっ……。

 あそこが元気になってしまった。このままではクッコロさんが『こんなところに武器を隠し持っていたのですね!』と怒りかねない。ガシッと握ってフィニッシュで人生も終わってしまう。


 耐えろ。無心で耐えろ……!


「ほ、ほら、どうじゃ。流星は別に、大した反応をしておらぬであろ? 彼の世界で胸に触れる行為は、決闘の申し込みではないのだ」


「ですが、この男、恥辱に耐えるかのように顔を赤らめています。やはり、決闘の申し込みではないのでしょうか」


「違うと言うておるであろう! 価値観が違うのじゃよ!」


「ですが、この男、明らかに息を荒くしています。侮辱に耐え忍んでいるのでは。やはり、胸に触れる行為は決闘!」


「違うのじゃよ。大抵の世界では、そのように異性に胸を執拗に撫でまわされたら、そういう反応を示すのじゃよ」


「むむ……。ならば護国殿、貴方が証明してください」


 クッコロさんがやっと手を離してくれた。上からも降りてくれた。

 はあはあ……。助かった……。

 危うく小口径小砲身とはいえ火力はそれなりにありそうな射撃武器を売ってしまうところだったぜ。はあはあ……。


「証明? 待っておれ。マイ・パッドで異文化情報のほーむぺいじを見せてやるのじゃ」


「いえ。何をするつもりかは知りませんが、そのような板きれは不要です」


「ではどうすれば納得するのじゃ」


「そこの男に、貴方の胸を触らせてください」


「えっ!」


「貴方ほどの人物がそこの男に胸を触られても平然と許せるというのなら、決闘の申し込み以外の意味があるという文化を認めましょう」


「い、いや、そ、それは」


「それは?」


「うぐぅ……。それは、それは……」


 俺は股間に刺激を与えないよう、そっと上半身を起こす。いつまでも仰向けになっていると、性的な意味で興奮していたことがバレるかもしれないからな。


「ごっちゃん……。無理しなくても。なんだったら俺はボコられても助かるスキルがあるから……」


「それでは根本的な解決にはならぬ。しょうがあるまい。ここで断ればクリストリスは信じぬであろう。流星よ、わ、私の、む、胸を……さ、触るのだ」


「い、いいの?」


「う、うむ。というより、私が、お願いしているのだから、気にせず」


「で、でもごっちゃん、顔、真っ赤……」


「ば、馬鹿なことを言うな、べ、別に私は顔を赤くなどしておらん。ほら、遠慮せず、触るのじゃ……」


「う、うん」


 俺は、仕方なく。本当に、仕方なく。

 実は嬉しいけど……。

 いやいや、本当に不本意ながら、仕方なく、ごっちゃんの様子を窺いながら、そっと胸に手を当てた。


「の、のうクリストリス、こ、これは別に私がただの赤面症なだけだからね。けして、決闘申し込みに対して憤慨しておるわけではない、から。ひゃんっ……!」


「ええ。護国殿が殺気を発していないことは分かります。だが、片手で軽く触れているだけでは疑わしい」


「う、ううっ……。しょ、しょうがない。流星よ、もう、両手でガバーっといってくれ。こ、これ以上、じっくり撫でられると変な感じがするのじゃ……」


「や、で、でも」


「い、良いから、あっ、あんっ」


「ほ、本当に?」


「う、うむ。お主になら、別に……。構わんから」


「わ、分かった……。ごくり……」


「ば、馬鹿もの。なぜ唾を飲み込む」


「いやいや、深い意味はないです。緊張しているだけです」


 俺がうろたえていると階段の方から「なにやってんだー!」という大声。

 第一声に続いて無数の怒号が聞こえてきた。見てみるとクラスメイトの男子がいた。


 壁にある時計の針は、授業の終了時間を示している。おそらく、授業終了目前になっても俺たちが戻らないから様子を見に降りてきたのだろう。

 これ以上、場が混乱したら、もう収集のしようがないんじゃないかと軽く絶望しかけたけど、良い効果もあった。


「ふむ。確かに彼らの反応を見ても、決闘の申し込みのようには思えません。護国殿。失礼しました。貴方の言葉を信じます」


 クッコロさんが納得してくれた。


 ごっちゃんは身体をひねって俺の手から逃れると、胸を抱えてプルプルしだしてしまった。


 俺はクラスメイトの波に飲み込まれて詰問責めにあい、叩かれたり手を舐められたり、尻の谷間に沿うように撫でられたり、もうめちゃくちゃだ。しかし勃起バレ阻止のために丸まるしかない俺は、抵抗する余力がない。


 ぎゃあぎゃあやかましい輪の外から、クッコロさんと醤油の会話が聞こえてくる。


「彼らの何人かが叫んでいる『変態』や『痴漢』はどういう意味なのですか?」


「厳密には両者は異なる概念ですが、今回の件では広義で同じ意味と言えるでしょう。異性の肉体に対して並々ならぬ関心を抱き、特に、男が女性の胸や尻に対して触れる行為を痴漢と言います」


「それは貴方たちの世界の概念では、道徳的に許されることなのですか?」


「いえ、けして許されないことです。特に護国先生のような未成熟な肉体、幼いちっぱいに触れて興奮するのは、人として最低の非道徳的行為です。社会的な制裁を受けなければならないのです」


「そうですか。胸に触れることは決闘の申し込みではないというのは本当ですか」


「もちろんです。パイタッチは痴漢行為です」


「なるほど」


「そのとおりです! そして今の貴方のような、さげすんだような眼差しで見つめられることに喜びを見いだすのが男という生き物なのです」


「つまり、貴方は男の中の男か」


「はいッ!」


 ああ、誤解が広まっていく。

 ぎゃあぎゃあ喚く集団から逃げたいんだけど、ごっちゃんやクッコロさんにあわせる顔がないから、このまま状況に流されよう。


 くそう、いろいろと悲惨な目に遭った最悪の一日……ではないな。ごっちゃんとクッコロさんのおっぱい触ったし最良の一日だ。異世界で美少女に迫られたときに応じなかったとはいえ、そういうのに興味がないわけではない。むしろ股間が反応したことからも明らかなように、めちゃくちゃ興味はある。

 ラッキースケベしたら普通に嬉しいのだ。

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