17話 クッコロさんと本気の訓練。俺は追い込まれてしまい……
クッコロさんの二撃目。
俺はスキル『近接オート回避』を発動。過去のあらゆる経験の中から最も有効な回避動作を見つけだし、再現するスキルだ。
以前の異世界では『身体能力強化』と『神速』を併用すれば、俺はあらゆる攻撃を回避することが可能だった。
三撃目。四撃目と、俺はクッコロさんの攻撃を紙一重で避けていく。
「成る程。護国殿が言うように、妙な能力を使う」
「へへっ。お褒めに預かり、光栄ですよ」
とはいえ、ぶっちゃけ、ヤバい。
反撃したいんだけど、剣術強化系のスキルがすべて発動しない。多分、何かしらの『危機察知』系スキルが、俺の剣術強化系スキルを発動しないようにしている。剣術で勝ち目はないということだ。
発動した瞬間、カウンターを喰らって俺が負けるのだろう。
俺は邪魔にしかならないから木剣を捨てた。
すると、挑発と受け取ったのか降参と思ったのか、クッコロさんの動きが止まる。
「いったい何の真似です? 訓練は始まったばかりですよ」
「剣を使ったら絶対に勝てないから、他の手段で勝ちますよ」
「いえ、もう私の勝ち筋が見えました。これから放つ六連撃で貴方は昏倒します。次回の授業までに自主訓練に励み、次は避けられるようになってください」
挑発は無視。その程度で俺は惑わされない。
一連のやり取りでクッコロさんの速度は理解できた。避けることは可能だ。問題は、どうやって怪我をさせずに勝利するかだが。
悩む間もなくクッコロさんが踏み込んできた。先ほどよりも速い斬撃。魔王討伐経験のある俺ですら数回しか見たことほどない、まさに閃光のような攻撃だ。
しかし、スキル『近接オート回避』により俺はぎりぎり回避する。
『近接格闘』で捕まえる? けど、ほぼ初対面の女性に触れるのは気が引けるしなあ。
『ラッキースケベ』で勝負自体をうやむやにするのが得策か? そうすれば俺が勝ったとしても、クッコロさんのプライドを傷つけずに済むし。
何て事を考えながら、クッコロさんの連続攻撃を五発目まで回避し、次が最後の一撃。
スキル『真剣白刃取り』とスキル『武器奪取』の併用で剣でも奪うか?
「それが貴方の弱点ですよ」
「え?」
喉元に突きつけられる木剣。あれ。オート回避が発動しなかった?
「自動で回避しているから自分が何処にいるのかを失念するのです。貴方が回避する先を、私が誘導したのです」
俺はいつの間にか部屋の角隅にいた。嘘だろ。回避場所がないってこと?!
こんな簡単に『近接オート回避』が無効化される?
「貴方は、自らの意思とは関係なく、自動で攻撃を回避していましたね。おそらくその技が使えるのは一定の条件を満たしている場合のみ」
マジで?
「逃げ道は残していたので、壁を走るか天井を蹴ればいくらでも避けられたはずです。私に体当たりして正面に進むこともできたはず。しかし貴方はできなかった。貴方に、その発想がなかったのでしょう」
いやいや、待って。
スキル『近接オート回避』が効かなかったのって、異世界の魔王だけなんですけど。それも、熾烈を極めた戦いののちに、僅かに互いの防御を貫通するくらいで、こうもあっさりと破られたことなんてないんですけど。
もしかしてクッコロさんって、魔王より強いの?
「実力はあるようですが、貴方は圧倒的に経験が足りていません」
「えっと……。異世界を一つ救ったことがあるんですけど」
「魔王にも強弱があります。貴方が救った世界にいた魔王は弱かったのでしょう」
「マジで?」
恐る恐る部屋の隅にいたごっちゃんに視線を送ると、意味ありげに頷いた。
待って、待って。異世界を一つ救った俺ですら、雑魚なの?!
俺、イキり散らかしていた雑魚なの?!
「ようやく実力を弁えましたか。確かに見どころはありますが、貴方程度の戦士は世界をいくつか探せば見つかります。慢心しないように」
「あ、はい……」
いやいや、でも、世界を一つ救えるんだよ? 魔王を倒せるんだよ? それでも慢心したらいけないの?
混乱しすぎて頭の処理が追いつかない。予想以上に疲弊していたらしく膝も震えはじめた。呼吸が苦しい。目の前が真っ暗になりそうだった。
俺はよろめきながら、スキル『ラッキースケベ』が発動するのを感じた。
って、え?
ドサッ……。
俺は転倒した。目の前にいた人を巻き込んで。
そして、右手の下に柔らかくて暖かいもの。
いやいや、まさか。クッコロさんほどの騎士なら避けれるはず。
しかし、どう見ても俺の右手は、倒れたクッコロさんのおっぱいを鷲掴みにしていた。
丸みを帯びた柔らかいものが、クッションボールみたいな弾力で手を押し返してくる。ゼリーをスポンジケーキで包み込んだような感触というか。直接返ってくる感触は手が沈み込みそうなほどに柔らかいんだけど、奥でしっかりとした抵抗が自己主張している。
「わーっ。ごめんなさい!」
もっと触っていたいという本能を殺し、僕は飛び起きて頭を下げた。
「だ、駄目じゃー!」
慌てた様子でごっちゃんが駆け寄ろうとしてくる。
「おごうっ!」
肩に痛みを感じて俺は宙に浮いていた。
真下に木剣を振り上げたクッコロさん。
痛む肩に反射的に手を伸ばした瞬間、今度は側頭部に衝撃を感じ身体が横にふっとぶ。
スキル『身体能力強化』や『防御力上昇』がなければ、首から上が消滅していたかもしれない。スキル『痛覚遮断』がなければ間違いなく意識を失っていただろう。
わけも分からないまま俺は床に落下した。全身が痛すぎて声も出ない! 涙が勝手に溢れる!
「クリストリス、止めるのじゃ!」
両手を広げたごっちゃんが俺を背にかばうようにして飛び込んできた。
直後、クッコロさんの剣先がごっちゃんの額すれすれで止まる。
「クリストリス、すまぬ。悪気はないのじゃ。ワシの説明が足りてなかった。文化の違いじゃ。胸を触る行為は、決闘の申し込みではない。ほれ、流星、お主も謝れ」
文化の違い?
決闘の申し込み?
何のこと?
聞きたいことはあるけど、全身が痛くて声が出ない……。
「……誤解だと言うのですか?」
「そうじゃ。誤解じゃ」
「ごっちゃ……どういう……?」
辛うじて声を出せたけど、喋るだけで背筋から全身に痛みが走る。
「うむ。クリストリスの世界で胸に手で触れる行為は、心臓を奪う、つまり命をかけた決闘の申し込みを意味しておるのじゃ」
「ま、まじで……」
「いくら護国殿の言葉とはいえ、にわかには信じられません。決闘以外で胸に触れる理由などないはずです。その男は胸に触れた後、明らかに私を小馬鹿にするようなだらしない表情をしていた」
いや、それは間違いなく、おっぱい触ってニヤけていただけだと思う。
「か、価値観が違うのじゃ。ほれ。大抵の世界では、おっぱいに触ったら男はニヤけるものなんじゃよ」
「そのような価値観、信じられません。胸に触れてニヤける理由などありません」
「わ、分かったのじゃ。ならばこうしうよう。クリストリスが流星の胸を触るのじゃ。これで流星が怒らなければ納得できるであろう」
「なるほど……。肌の上から心臓を触られて逃げるような戦士などいるはずもありません。胸を触られたのに決闘に応じなければ、末代までの恥辱」
「というわけじゃ、流星。揉まれるのじゃ」
「う、うん」
とりあえず同意してみたけど、異性に胸を触らせ――あっ。
クッコロさん、行動が早い。倒れたままの俺に馬乗りになり、いきなり触ってきた。
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