16話 らっきーすけべだらけで、酷い目に遭ったのじゃ

 三日目の授業も、女騎士クッコロさんの剣術訓練だった。


「二日も続けて貴方たちゴミどもの相手をせねばならぬとは。我が身の不幸を呪いたくもなります」


 最初から挑発口調だ。

 背が高いから見降ろす視線のさげすみ効果は絶大だ。


 醤油が頬を赤くして息を荒くしている。クッコロさんに睨まれた瞬間、鼻息で眼鏡が真っ白に曇っている。醤油ヤバい。


 三日目にもなれば、まあ、それなりに仲良しグループが発生するわけで、認めたくはないが、俺も、そこそこ、少しは、何となく仲のいいやつが出来たというか、つるむようになった奴らがいる。


 女子みたいな優顔だけど実は腹黒い塩。昨日の訓練では力尽きたフリをしつつ、余力を残していた。

 四角い眼鏡をくいっとやってキラーンと光らせるのが癖の、醤油。初めは真面目な印象だったんだけど、クッコロ先生との出会いにより変態性を顕わにしつつある。

 ごっちゃんの幼い外見に萌えているせいで、ごっちゃんに触れた俺の手を触ったり匂いをかいだりしてくる変態、ケチャップ。

 そして、変態揃いの中で唯一まともなソース。と思っていたんだけど、消去法で考えると、いつもどさくさまぎれで俺の尻を触ってくる変態だ。

 ろくでもない四人だ。


 でも、まあ、クラスメイトというより……いつか友達って呼びたい関係……かな。これから授業や寮生活を経て友情を深めていけば……。

 って、妙に気恥ずかしいな。


 美少女に一方的に好かれることはあっても、男同士と友情を育んだことはないから距離感が分からないんだよ。


「木剣は持ったようですね。ふたり一組でかかり稽古をしてください」


 A組は三十一人だから、俺があぶれてしまった。けど、できれば剣術の授業は受けたい。俺は剣術のスキルが強いだけで、自分自身は剣は使えないのだ。


 やや離れた位置にいるごっちゃんにアイコンタクト。俺が自分の顔を指差してから、剣を振るようなジェスチャーをしてみた。


 ごっちゃんは顎に手を当ててしばらく考えてから、手をポンと叩いた。


 よし、通じたっぽい。


 ごっちゃんが、とててっとやってきた。


 ん?

 なぜか憐れむような顔をして、俺の肩に手をおいて、首を振っている。


「訓練、参加したかったけど、はぶられちゃったんだねー。どんまい」


「ちっ。違う! 別にはぶられたから寂しかったわけじゃないか」


「くふふーっ。顔、真っ赤じゃよ?」


 べ、別に顔は赤くなっていないし、仮に赤くなっていたとしたら、それはごっちゃんが頬をぺちぺち叩いてきているのが原因だし……。


「お主のことも、ちゃんと、考えておるよ? ほれ」


 どうも事前に話が通してあったらしく、ごっちゃんが視線を合わせるとクッコロさんがやってきた。


「生徒相手では訓練にならんでな。お主はクリストリスに相手してもらうんだよ」


「ふん。貴方のような冴えない男に、剣舞凰けんぶおうの称号を持つ私の相手が務まるのでしょうか」


「ふたりが闘うと他の生徒を巻き込みかねないからね。場所を変えるんだよ。流星。お主、今まで手加減のしすぎでストレスが溜まっておったかもしれんが、ようやく、本気を出せるんじゃよ」


 ちょっと待って?!

 クッコロさんと戦闘訓練って、いきなりハード過ぎない?!


 拒絶する間もなく、ごっちゃんに袖を捕まれて引っ張られてしまった。

 そのままごっちゃんに導かれ昇降台の脇にある階段から下りて向かった先は体育館の地下だ。


 広い空間に入った瞬間、分かった。ただの地下広間ではなく何かしらの……おそらく衝撃を外に漏らさないような類の結界が張ってある。


 俺と同じものを感じとったらしく、クッコロさんが「ほう」と艶めいた唇から息を漏らした。


 やはり、クッコロさんは女性にしては背が高いな。俺と同じ百七十センチメートルくらいある。近くに立つと自然と長いまつげや唇が視界に入ってしまう。


「ふたりとも、相手を怪我させたら駄目じゃからね? 寸止めくらい、出来るよね?」


「当然です」


「ほ、本当に俺が戦うんですか?」


「当然じゃ。怪我をさせたらどうしよう、なんていう心配は要らぬのじゃ。クリストリスに鍛えてもらうのじゃ」


 む……。

 鍛えてもらう?

 俺、これでも異世界で魔王を倒したことあるんですけど? 地面に落ちてた小石を拾って全力で投げて、ミサイル攻撃のような破壊力で魔王城を遠距離から粉みじんに粉砕したんですけど? めっちゃ強いよ?


「分かった。怪我をさせないように手加減しますよ」


「たかが世界の一つを救った程度で、思い上がりも甚だしいですね。なるほど。護国殿が私を呼んだ理由が分かりました。こいつの自尊心をへし折ればいいのですね」


 俺とクッコロさんは地下広間の中央に、十メートルほど開けて立つ。

 クッコロさんが訓練用の木剣を持っているから、俺も一応、木剣を手にしている。


「ふたりとも準備は良いいね? このコインが地面に落ちたら模擬戦の開始だよ」


 ごっちゃんが親指にコインを乗せ、上に弾く――のに失敗して、落とした。


「ちょっ!」


 張りつめていた緊張の紐が緩みかけた瞬間、既に、クッコロさんの振るう木剣が眼前に迫っていた。


 直撃する寸前でスキル『奇襲阻止』を発動。

 クッコロさんの木剣は俺の眼前で停止。俺は余裕を持って背後に飛び、距離を開けた。


「妙な技を使いますね」


「俺もそう思う」


 詳しい理屈は分からないけど、スキル『奇襲阻止』を使えば、相手の不意打ちを無効化することができる。かつての仲間によれば、運命を改変しているようだが、実際のところは不明だ。

 ただ、分かっていることと、今分かったことがある。

 スキルの発動条件は奇襲により「命の危険があった場合」だ。つまり、クッコロさんは俺が常時発動している複数の防御スキルをあっさりと貫通してきたのだ。

 やはりただものではない。

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