5話 女騎士が、みんなの実力を見るんだよ
異世界転移から二日目。
学生寮に用意してあったジャージに着替え、俺たちA組三十人は体育館に向かった。
バスケットボールのゴールがあるし、コート用のテープが床に貼ってある。昇降台もあるようだ。どこからどうみても普通の体育館。
だが、教師がファンタジー!
最初の訓練を担当するのは、銀色のビキニアーマーを着た女騎士だ!
女騎士!
思わず二度見したけど、体育館の中央に女騎士が立ってる!
オークにさらわれてエッチな目に遭っちゃう系の女騎士! へそ丸出しだし、細い二の腕も少し上げたら腋が見えそうでエロい。
しかし、まるで隙がない。
自然体で立っているようだが、見た目とは裏腹に周囲の空間を支配しているかのような圧倒的存在感。
鋭いまなざしは常に周囲を窺っている。生徒達もただならぬ気配を感じているのか、無言だ。
しーんとした体育館に、小柄ながら圧倒的な剣気を充満させる達人……!
というか、ごっちゃんだ。
確かにエッチだけど、よく見れば、小学生か中学生が背伸びしてセクシーな水着を着てみましたという、可愛らしい感じだ。
さすがにビキニアーマーは恥ずかしいのか、よく見ると肌色の全身タイツを着ている。後頭部にくっついていた大きな蝶々みたいな髪飾りは無い。
「貴様達には先ず剣の扱いを覚えてもらう。このような片手剣は、多くの異世界で貴様達が最初に装備し、最後まで技量を磨くことになる武器だ」
ごっちゃんの口調は、歴戦の女騎士のよう勇ましい。声のひとつひとつにメリハリが利いていて、体育館の空気が引き締まっていくかのようだ。
「伝説の聖剣や魔剣を手にする者もいるだろうが、武器の能力に頼るだけではモンスターには勝てん。貴様たち自身の剣技を磨くのだ」
一部のノリの良い生徒が「はいっ!」と大きな返事をした。
「先ずは貴様たちの実力を見る。我が従者よ、剣を配れ」
ん? ごっちゃんが俺の方をちらちら見てくる。
あっ、従者って俺のことか。
初日の身体測定で圧倒的な成績を叩きだして「あれ? なんかやっちゃいました? 俺の成績がおかしい? 弱すぎって意味だよな?」とイキった俺は、名実ともにクラスを代表する模範生徒として、ごっちゃんのお手伝いポジションに収まっているのだ。
俺は体育館の隅に有った台車から鋼の剣を生徒に配った。生徒達はみんな、剣の重さに驚いているようだ。俺がひょいっと渡すと、軽い物でも渡されたかのように受け取ろうとし、落としそうになる。そうか、普通の高校生の腕力では重いのか。
「よし、全員、剣を手にしたな。出席番号一番から順に、私にかかってこい。殺すつもりで構わん。全力で挑め」
ごっちゃんは身の丈もありそうな幅広の剣を片手で軽々と構えた。あんなに大きな剣なら重量は相当のはず。鍛えている人でも片手で持つのは難しいはずだ。やはり、ごっちゃんはただものではない。
異世界の救世主になる存在を育てようとしているのだから、ごっちゃん自身も世界水準の強者なのだろう。
「どうした。出席番号一番、前に出ろ。貴様たちは一か月で一流の勇者や冒険者になるための下地を身につけねばならんのだぞ。尻込みする時間などないぞ! 剣技のスキルを覚えたいなら、異世界に行ってからでは手遅れだ。ここの訓練で覚えていけ。覚えたスキルのみが、後に目覚める!」
ビリビリッと体育館の窓ガラスが震える。これでは学生達は尻込みしてしまうだろう。やはり、誰も名乗り出ない。
ん?
なんかみんな俺の方を向いてひそひそ話をしている。
もしかして、ごっちゃんの剣圧に怯えることなく平然と立っている俺の凄さに驚いている? やべえな、異世界二回目の俺は立っているだけでも周りから称賛されるのか。
昨日の身体測定でも散々驚いてくれたけど、俺、あれでも手加減していたんだぞ。
笑いを堪えていると、ごっちゃんが「あ」と、俺を指さして口を丸くした。
そして視線を重ねて数秒、俺も、ようやく気付いた。赤井だから、俺が一番だ。
「赤井流星! おぬしはすでに一定ランクを超えているから最後じゃ。代わりに出席番号二番、前に出るのじゃ!」
狼狽えたごっちゃんの口調は女騎士風ではなかった。つまり、周囲のヒソヒソ話も俺への称賛ではなかったようだ。
出席番号二番の生徒が前に出て、しばらく間合いを計るようにゆっくりと進んでから、おっかなびっくりという様子で剣を振った。戦った経験がなくて気が引けているのに加えて、女性に切りかかることへの抵抗があるのだろう。
ごっちゃんは手先だけで剣を振るい、あっさりと生徒の剣を払いのけた。
「論外だ。このウジ虫め! この場に訓練効率が上がる魔術がかかっているとはいえ、その程度ではいつまで経っても成長できんぞ。本気でかかってこんか! 貴樣らの股間にぶら下がっているものは飾りか! この熟れた肉体を貴様らの汚らしい雄棒でめちゃくちゃにしたくはないのか!」
発奮させるためだろうけど、下品なことを言っている。
ビキニアーマーがずり落ちそうなほど、ぺったん寸胴体型なのに熟れた肉体って、自分で言っていて惨めにならないのだろうか。
「何か言いたげだな、流星よ」
「え?」
まじかよ。この人、背中にも目が付いているのか。
「そうか。生徒たちに貴様が手本を示してやろうというのか」
「えーっ」
「学級委員長に選ばれた実力をクラスメイトに見せつけておうか?」
女の子とは戦いたくないから断りたいんだけど、現時点でスキルが使えるのは俺だけだろうし、やらないといけないんだろうなあ。
あまり目立ちたくはないけど、クラスメイトに実力を見せつけたくないかと言えば、嘘になる。今のところ、ただ身体能力が優れているだけのやつって思われていそうだし。
軽く実力を見せつけて優越感に浸るのもいいか。
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