4. ガリア王の反撃

 

::ポール。大変なとこ本当にごめんな! お前のアルエット二機、俺に制御まかしてもらっていいかー?


「ぶわっっ……、つかこの状況でGGジェジェてめえなぁッッ!?」



 ぶち切れるポールの声が、俺にも聞こえる。そりゃそうだ、強化防衛兵と背中合わせで電熱盾の防御一点張り。十体のぬらぬら半魚人に間合いをじりじり詰められているところでこんなことを言われれば、どなた様でもストレスレベルが大いに上がろう。



「持ってけ、ピュッ〇ーーンッッ」



 しかしPワードとともに、ポールは自機アルエットたちの制御権をGGに送ってくれた。


 直接攻撃に関与できないドローンたちは、もはやあってもなくても良い状況である。



「よーし、アルエットアンドゥトロワキャトル。俺の手動指示地点で……、以下の音声データを最大出力」



 顔面プロテクタ内部の視線入力タブレットでぐりぐり目玉を動かしながら、GGはアルエット達を配置していった。



「Allez-y, mes filles!!(行ったれ、かわい子ちゃん達)」



 バッテリー切れでレーザー照射のできなくなったポールの強化防衛兵のアームを、三頭がかりでもぎ取ろうとべたべた有毒水かきをはりつけていた半魚人どもが、真っ先にびくりと反応する。


 ほにょーん……! ぎああああ……!


 人間の耳にもざらつく音波の様々が、周囲一辺にたちこめ始めた。


 BBQ鉄板にこびりついた失敗いわしの如く、盾に貼りついて焼け死んだ仲間の身体の上から、ポールを押しまくって圧殺をこころみていた二体がふっと後じさった。



「おー!? よっしゃぁぁッッ。ホープ、正面二体に物理攻撃! 左右アームでボコってやれッ」



 どごっ、ごごっ!!


 頭上をぐるぐる旋回しながら、異なるいくつもの騒音をまき散らすヒバリたちの下。どこか狼狽し始めた半魚人たちを、武闘派ポールは自らもスタンガン警棒でどつき出す。



「GG! 色々とうるッせえぞーッッ。何をたれ流してんだッ!?」



 どーん!!


 俺は“ローマ数字10”ブレード発動で、大柄な半魚人を四ツ切りにする。背後からの闇討ちだ、どうだ卑怯であろうが! いや道徳どうこう言ってる時ではない。ともかくポール隊の後方に迫っていた、深海魚人どもの包囲網をぶっちぎった!



 るるるるる、ぼあーッッ!!


 東方向、アルエット2よりヒョウアザラシの威嚇音声。


 にゅぎゅいいいいーーん!!


 西方向、アルエット4よりシロナガスクジラの絶叫オペラ。


 きーーん……きいいーーん……!!



「今のは冷戦時代の原子力潜水艦ソナー音! おら気ッ色わるいだろう、魚どもー!? 堂々海洋汚染の象徴をくらえ、はっはー!!」



 俺の背後ではGGが高笑いをしている。これも十分に耳ざわりだ。


 全身いたる所にとげとげとそそり立つ、カサゴのような毒ひれをぷるぷると震わせて、数体の半魚人が突進してきた。


 すぱ、ずば、どばばッ。


 それを俺は落ち着き払った太刀ブレードさばきで、三枚おろしにしてゆく。うむ、華麗。



「いいぞー! レーザーで切りつつ同時に焼いてもいるから、これはママンが言ってた“たたき・・・”というやつだな、気色わるッ。しかしウィル、向こうはみごとに混乱してんな!?」


『当たり前だGG、こいつらは量産品の兵器でなし。それぞれがオーガニックで個性を持っている。苦手なものだって違うだろうが』



 オルカの威嚇音に加えて、世界各地の最強海水棲生物のぎゃん声・ドス声を聞かせてやれば、ローカル天敵にびびる奴はきっと出てくる!



「まー確かに、こいつらがどこでどう発生して、ここまで流れ着いてんのかってまだ謎だしね。けどウィルのやってること、何か言語攪乱かくらんっぽいな?」


『ふん、その通りだ。俺はそれで、けたのだからな』


「そうなの?」



 数十万人が集結しても、俺のガリア軍は言語・・が通じていなかった……。


 当時のガリア語は、現在のケルト系言語のどれともかけ離れていた。地域ごとに個性が濃すぎて、部族が違えば意思疎通も困難だったくらいだ。アレシア包囲戦の敗因はごまんとあるが、連絡系統のもろさは主要因の一つ。軍内に紛れ込んだ親ローマ派の部族の攪乱かくらんに動揺させられ、いとも簡単に足をすくわれた。


 せっかくこの地に戻ってきたのだ。過去の失敗でも何でも、今の俺は吸収し裏返して使いまくる。多様性という弱みをつつけ!


 ばらばらばら……ずどん!


 ようやく間合いに余裕を持てたポール隊に向け、上空からヘリがアームのバッテリーを投下した。ポールの強化防衛兵、“ホープ”が即座に回収して装填する。



::ようーし、GG! こっちも反撃かますぞ、北方面たのんだッ。


::ういー。



 アルエット1が、海底火山の噴火振動音を流し始めた。ぎくりぎくり、と半魚人どもが反応する。



『GG。右のブレード、出力30パー上げろ』


「は、何で?」


『ガリア王は右手ききの長剣使いだ。二刀流もいいが、慣れてる方で好きにやらせろ』


「……はいはい」



 びーん!!


 大きく伸びた右アームからのレーザーブレード、そいつをかざして俺は三ツ脚から圧縮空気の噴射・跳躍。五体が群れたところに飛びこんだ。



「連続斬撃許可、左・右・右・後方、左! おおう、本当だすげえ!? 目で追ってる俺が酔いそうなくらいの、大胆ハイスピード三枚おろしだぁッ」



 どッ……、ずどん!


 俺の両脇それぞれ数メートルのところにいた、半魚人二体が吹っ飛んだ。おちゃらけた実況中継のあいまに、GGが援護射撃も入れてくる。



『もやしギークのくせに、散弾銃ライアットも使うのか、若僧』


「装填してんのはびりびり雷撃弾だもん。スタンガンよ、これ」



 海水含有率の高い進化深海魚人の身体には、確かにそっちの方がてきめんで効く。


 びーッ!!


 ホープのレーザーが復活して、元気に敵をぶち抜き始めている。



「いいね~! 何だか勝てる気がしてきたぞ、ウィル!」


『ばかもの! 守るものを背にしては、勝つしか選択肢はないのだッ』



 ……しかし俺たちにはわかっている、数秒前にキブロンの本部からテキスト通信があった。ベルイルの南沿岸に、またしても新たなる後続の生体反応が数十……。


 ナントとロリアンからの増援? いつ着くんだよ、あてにしていられるか。



『来やがれ、化け物どもッ。この俺ウェルキンゲトリクスが、帰って来たからには!!』



 権限ぎりぎり……いや、ほぼ違反レベルにまで自由戦闘許可を出してくれている相棒・・GGを背に、俺は吼えた。



――今度こそは。



『ガリア王が、この地フランスまもるッッ』



 鋼の顔で、どや顔は難しい。けれど渾身の怒りと気合をこめて、俺は紫紺に光るブレードを振りかぶった――。



【完】




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