Novel coronavirus 20
「あれほど近い距離でインタビューをして大丈夫でしょうか?」
「邦人帰還が、――第一号の方達か」
滝岡総合病院外科オフィス。
休憩時間に丁度流れてきたニュースをみて、神尾が思わず疑問をくちにしていたのは。
ニュース画像をみながら、神尾が心配気にいって見つめるのは、先に秀一達から聞かされていた封鎖都市からの邦人帰還――飛行機による邦人救出――を待ち構えていた報道陣が、戻った邦人の代表者達を取り巻いてインタビューしている映像だった。
「確かに、近いな、…。発症はされていないだろうが」
気遣わしげにみる滝岡に、神尾が映像を見つめたままいう。
「マスクはしてますが、――近すぎます。発症してからだけ感染するとは限らない――もし、許容量以上のウイルスを吸い込んでいたら」
「インタビュー側がしているマスクはN95じゃないな、…。マイクを後から消毒していればいいが」
神尾の指摘に、滝岡がくちにする。
「…危険ですね。本多さん達からは、あれから?」
「連絡は無い。唯、――」
ニュースが進むにつれ、どうやら、希望者だけに宿泊施設を用意するとしているらしいことに、神尾が気付いて驚いて茫然とする。
「あの?…これ、どうしてですか?帰国者を全員隔離するのが基本でしょう?どうして、希望者だけとか?感染を広げたいんですか?」
半分パニックになって滝岡をみていう神尾に、滝岡が困った顔で振り向いて。
「いや、…――まあな、――実は、本当は宿泊施設も用意がなかったらしいことは聞いている」
「え?」
完全に動作が停止した神尾の肩を、軽く滝岡が叩く。
「大丈夫か?」
滝岡が問い掛けても、神尾が動く気配がない。
困ったように首をかしげてみている滝岡の背に。
「滝岡先生、――…どうしたんですか?神尾先生?」
西野が荷物をデスクに置きながら声をかけるが。
「いや、―――そのニュースがな」
困った声でいう滝岡に、西野が流れているニュースを振り向く。いつも消えている画面は、いまニュース映像が流れているのだが。
「ああ、例の封鎖都市からの帰還第一号ですよね?第一陣が飛行機で帰ってきたんですか?」
「そうらしい。だがな、―――」
困って神尾をみていう滝岡に、不思議そうに西野が訊く。
「それで、どうして神尾先生が固まってるんですか?」
「―――いや、どうやら、帰還者を自宅に帰すつもりだったらしいとニュースでいっていてな。希望者だけをホテルに泊めるような話をしていて、――――」
「え?」
西野も固まるのに、滝岡が振り向いて構える。
「おい?西野?」
「―――…」
西野も完全に顔が白紙になって固まっているのに、滝岡が困り果てた顔をする。
「…西野、おまえまで、そのな、――」
どうしたものか、と。
困り果てて西野と神尾を交互にみている滝岡に、背後から声がかかる。
「どーしたんだよ、って、…――どしたの?滝岡?西野ちゃんに、神尾ちゃんまで?」
「…永瀬先輩、――先輩まで固まらないでください」
必死にいう滝岡に永瀬が怪訝そうな顔になる。
「休憩しにきたやさぐれた集中治療専門医に何いってんのーと、どうしたんだよ?本当に?」
「…いえ、その」
説明して永瀬にまで固まられては、と口籠もる滝岡に眉を寄せる。
「いーから説明しろよ。おまえが何かいったの?」
「おれというか、…説明しただけです。その、――このニュースに関して」
と、滝岡が同じ説明をして。
「…―――いうんじゃなかった、…」
深く反省してうつむいて額を手で押さえる滝岡に。
「で、どうしたんです?」
永瀬の後をついてきたのか、瀬川が当番上がりの適当なゆるさを無表情な中にも漂わせて外科オフィスの扉をあけて入ってきて訊ねるのに。
―――話すんじゃなかった、…―――。
深くしみじみと反省して滝岡が額を押さえる周りに。
塑像のように固まり帰ってこない四人。
「…光?」
「どうした?何してる、正義」
突然、画像が――ニュース画面から第一にいる光がアクセスしてきて変わるのに、滝岡が顔をあげる。
「おまえまで、固まるなよ?」
「――何、みんなフリーズしてるんだ?だるまさんが転んだ、か?」
「違う、…おれが悪いんだが」
真面目にいう滝岡に、光が眉を寄せる。
「どうしてだ?何が起こった?」
「―――おまえまで固まると困る」
真剣にいう滝岡を眉を寄せて光がみて。
「いいから、説明しろって、…―――」
画面の向こうで、理解不可能な事態にフリーズしている光を、どうやら傍にいたらしい神原が目の前に手を上下させてみているのに、がっくりと滝岡が肩を落とす。
「…すみません、よろしくお願いします」
「――ええ、かまいませんけど。いま聞こえてきたことで固まったんですか?これ?」
そちらも?と不思議そうにいう神原の何処か何を考えているのかわからない表情に構わず滝岡が深くうなずく。
「そうです。…聞こえていたということは、…神原先生は大丈夫なんですね?」
「まあ、…みなさん、これで固まるっていうのは、期待してるんですねえ、…。」
「期待、ですか?」
滝岡の疑問に、にっこりと得体の知れない微笑みで明るく神原が応える。
「もちろん。でなければ、常識の無いことをしているのを知ったくらいで驚いたりはしないでしょう?神代先生も、本当にまだまだ純真なんですねえ、…」
「…神原先生」
心臓外科医として天才的な手技を持っていて長身にいつも笑顔をたやさないといわれる神原をスカウトしてきた人物を思い出して、その台詞に滝岡が思わず沈黙する。
――確かに、…此処へ院長がスカウトしてきた人物だけのことは、…。
精神的なタフさにおいて妖怪なみといわれ、あだながぬらりひょんでもある院長の橿原がスカウトしてきた人材。
「…光を頼みます、神原先生」
「はい、おもしろいですからね、神代先生。…ほんとーに固まってる」
にっこり、手を目の前で動かしてみても反応のない光に楽しそうに神原がいうのに。
「後を頼みます」
きっぱり、光を頼んで、切れて真っ暗になった映像に滝岡が外科オフィスに固まっている一同をみる。
「あ、…滝岡さん?」
「よかった、…神尾」
滝岡に手渡された良い香りの珈琲を無意識に受け取って。
驚いて見返している神尾に、滝岡がほっとしたように肩を落とす。
「あの、滝岡さん?…あれ?皆さん、どうしたんです?」
「ああ、…いや」
言いかけた滝岡の背後で。
瀬川が、珈琲を手に、はっと意識を取り戻して。
「――何か、気絶してたような、…」
「あれ?瀬川?どーして?…―――なんか、気絶してたみてーだな、…」
永瀬が、首を捻りながら、手にしたマグカップに入った珈琲に気付いてしげしげとみる。
「これ、滝岡いれたの?」
「はい、…よかった、先輩も、―――西野?」
少し泣きそうな顔で滝岡が見る先で西野も起動しなおしている。
「…――誰かに再起動ボタン押されたような気持ちですね、…」
強制的にリブートされたような気がします、といっている西野が少し驚いたように手にしたマグの珈琲をみる。
「――いや、よかった、皆」
しみじみと泣きそうにうなずいている滝岡に、怪訝そうに永瀬がみる。
「あのな?一体何が、―――」
「もう説明しません。絶対に」
真顔で迫力のある滝岡の表情に、永瀬がつまる。
「何だよ、――――?」
「いえ、絶対に説明しませんから。」
言い切ると外科オフィスを出ていく滝岡の背を一同見送って。
「その、…このコーヒーは滝岡さんが?」
見送って思わずくちにしている神尾に全員が手にした珈琲をみて。
「それにしても、うぶな人達ですねえ、…」
淡々と感情の読めない声と表情でいう白髪の紳士――院長に。
「そうですね。確かに驚きました。常識外のことを相手がしたくらいのことで驚くというのに驚きました」
あっさりとこちらも負けないくらい感情の読めない顔でにっこり応えるのが神原。
「期待してるのかしらねえ、みなさん。これから、それではいくらも神経が持たないと思うんですけど。どうしたものかしら?」
困った風におっとりといってほおづえをついてみせる院長に、神原がにっこりという。
「神代先生なら大丈夫でしょう。確かに、常識知らずの対応に驚きはしましたが、反応が面白かったですしね」
「――貴方におもしろがられるということは、かなりあれですけど、…。でも、今後も続きましたら問題ですよ?驚いて固まるだけならともかく、今後も続きましたら、怒って血圧が上がったりしたら困りますでしょう?」
おっとりとくちにする橿原――院長の名字になる――に、神原がしばし考える。
「…それは困りますね。血圧管理は出来ている方ですが、――神代先生が倒れると、楽しみがなくなりますからね、…善処します」
「貴方が何を善処なさるのかしら。…まあ、でも真面目な方々が揃いましたからね、第一もあちらも。いまどき、本気で患者さんの為しか考えていないような変な方々を僕や滝岡くんが引っ張ってきた結果なんですけどねえ。…」
しみじみという院長に神原がにっこり応える。
「大丈夫ですよ。神代先生は第一の司令塔ですから。こわれないように、大切に扱います。安心してください」
にこやかに微笑んでいうハンサム、といっていい容貌の神原に。
甥の運命を垣間見て、橿原院長が沈黙をしばし。
「――あの子の面倒をよろしくお願いします」
「はい、勿論です。あんな面白い人はいませんから」
にっこり、言い切って実にしあわせそうに微笑んで、では、と通信を切る神原に。
手許の台に置いたタブレットの画面が真っ暗になって切れたのを、しみじみと院長がながめて。
「…平和な同族経営のはずでしたのですがねえ、…――――」
でも確か、神原くんつれてきたの、ぼくでしたか、と嘆息して。
まあ、これでなんとか手術はできるでしょう、と。
あっさり、これ以上甥っ子のことは考えずに思考を切り替える院長がいて。
滝岡に取り残された一同は、その頃。
外科オフィスで、車座になり、額を付き合わせて考えていた。
「…滝岡さんが、出ていくって余程ですよね?何かしたんでしょうか?」
神尾が首をかしげていると。
「いやでも、おれなにもしてませんよ?」
瀬川が淡々と珈琲をくちにしながらいう。
「いや、でも滝岡、腕をあげたなー、うまくなってるじゃん、珈琲!」
永瀬が美味そうに珈琲を飲んで。
そこへ、西野が。
「…できました!これです。―――この部屋の監視カメラで、問題になっただろう時間を再生してみます」
「西野ちゃん、…しってたけど、ここやっぱり盗聴も監視もされてるのね?」
張り切っていう西野が、先程はニュースが流れていた壁面モニタに室内映像を映し出すのに、永瀬がつぶやく。
そして。
「…――まあ、流石に二度目は衝撃も和らぎますね、…」
「あー、…まあ、しかし、――神尾ちゃん?」
眸の座った瀬川の言葉に、永瀬が何かいいかけて、驚いて振り向いて固まる。
「か、神尾ちゃん、…――だ、大丈夫か?」
「フリーズしてますね、…気持ちはわかりますが」
しみじみという瀬川に、西野が視線を向ける。
「固まってますね、…神尾先生」
「気持ちわかるけどな、…」
永瀬が固まった神尾を同情のまなざしでみる。
「あんたでも同情しますか?」
「…そっちこそ、わかるんだろ?気持ち」
視線を向ける永瀬に、瀬川が無表情のまま珈琲を飲む。
「それは、非常識を当然のように行われては、――それが堂々と報道されてなどいたら、多少は固まります」
「まあね。なんで瀬川ちゃんはかたまったの?」
永瀬の問いに視線を神尾に置いたまま。
「…まさか、感染症流行国から帰還した人達を、そのまま自宅に帰すつもり、―――…いっていて、これ以上くちにしたくないんですが」
無感情な眸をむける瀬川に、永瀬がくちを曲げて引き取る。
「そりゃーさー、…うん。常識以前の問題だよな?なんで隔離しないの?それが前提じゃないの?」
「…―――――そうですよ!」
「か、神尾ちゃん?」
突然再起動して珍しく張りのある大声でいう神尾に、永瀬が動揺して呼びかける。
「だ、大丈夫?神尾ちゃ、ん」
「…―――」
しばし返事のなかった神尾が、うつむいて何かつぶやく。
「…か、神尾先生?」
西野の呼びかけに、そっと瀬川が神尾から距離を取る。
それに、神尾が突然顔をあげて、西野と永瀬をじっと見つめて。
「ひとつきいてもいいですか?」
必死な表情の神尾に、永瀬と西野が押されて無言で幾度もうなずく。
「う、うんうん」
「は、はい、神尾先生」
両人を凝っとみつめて。
「―――政府は、感染を広げたいんですか?」
真面目に疑問をぶつけてくる神尾に、永瀬が絶句する。
「神尾ちゃん、――そんなストレートな、…」
「それならそれで、対応を考えないと、…もし政府が集団免疫を取るというのなら防衛しないといけません。いままでの病院の防疫計画では、持たないおそれがあります」
「そこ?――いや、――そこ?え?集団免疫?ただ、アホなだけじゃなくて?」
神尾の言葉に思わずいう永瀬に、西野が突っ込む。
「…身も蓋もないストレートはどちらですか、…永瀬先生」
「西野ちゃん、でもさ、…まあその、――神尾ちゃん、落ち着いて、ね?」
何とかなだめてみようとする永瀬に、神尾が真剣に早口で続ける。
「でも、まさか集団免疫を取る為に、帰国者を利用して感染を拡大させる方針じゃありませんよね?そんなことは、―――第一、まだ治療法もないんですよ?それに、どういう病状が起きるか、一度罹患した人がどうなるかも、…―――救命率さえ不明なんですよ?どうして、」
「だから、落ち着いてって、―――西野ちゃん、滝岡呼べないの?」
あっさりあきらめて西野にきく永瀬に。
先から、滝岡のシフトを確認していた西野が深刻な声で告げる。
「滝岡先生が出ていったのは、救急の当直時間になったからのようです、―――」
「あ」
永瀬が固まって。
そこへ。
「落ち着いてください。確かに、感染症対策の基本から考えれば、ありえないくらい当然のことをまったくやる気の無いありえない対応にみえますが、それはおそらく何も考えていないだけでしょう。そこまで考えてはいないはずです」
瀬川が淡々というのに、永瀬が額を手で押さえる。
「おまえさんも、――そんな身も蓋もない」
「あるんですか?おれは正直に自分の感想をいったまでですが?」
「――いやだって、そんな政府の中の人があほしかいないみたいなさ?」
「他に何があるんですか。感染症流行国から入国したら、隔離するのが当然でしょう。普通誰でも考えることです。それを思いつきもせず、普通に入国させるつもりだったとか。素直に考えれば、唯のアホです」
「…―――瀬川ちゃん」
「はい?何か」
冷淡にあっさりと据えた視線で見返す瀬川に。
がっくりと永瀬が肩を落とす。
「いや、いーんだけどさあ、…。」
「なら、かまわないでしょう」
無表情に淡々と珈琲をくちにする瀬川に永瀬が肩を落として床にがっくり崩折れたまま。
「もーすこし、ほら、せめて陰謀論とか?」
「…そこまで頭があったら、宿泊設備用意したとかいっておいて抜け穴を作って感染者を理由をつけて外に出して感染拡大させているでしょう。油断させておくのが一番いいですから。…こんな風に警戒させるだけのことをしているのは、単に考える頭がないだけです」
「―――だから、もう、もう少しさ…」
がっくりと肩を落としたままの永瀬を冷たくながめて。
「そういわれても。感染爆発して流行中の感染を広げない為に都市ごと封鎖されて隔離された場所から帰還した人達を、何を考えているのか、隔離せずに自宅にその夜の内に帰宅させて涙の再会なんてさせようとしていた人達の思考は理解できませんから」
「…――身も蓋もないだろーせがわー」
「ありません。なにをどうしても無理ですね」
無言でがっくり床に両手をついたままの永瀬に。
「ですから、…―――集団免疫を目指しているわけではない?」
「…神尾ちゃん、起きたな?」
顔を僅かにあげてみる永瀬に神尾が視線を向ける。
「ええと、…すみません。…――そうなんですか?単なる無知で?どうしてなんですか?封鎖されている都市ですよ?そこから帰還するのに、―――何故、最初から隔離期間を設けて待機してもらうことが前提ではないんですか?どうしてなんです?」
驚愕して言葉がまた早口になる神尾に、その肩に手をおいて。
「神尾ちゃん」
「…永瀬さん」
向き合って、真顔で。
「瀬川説が正しいとおもう。残念だが」
「つまり、―――?」
理解できずにみる神尾の肩をもう一度叩いて。
「神尾ちゃん。おれにも事情は想像もつかんが、多分、瀬川のいってることが正解だとおもう」
視線を振られた瀬川が。
「神尾先生。…世界には、ときとして理解し難い思考能力が無い人間達が存在するということです。」
「…瀬川、――そこまでいえとはいってない、…」
断言する瀬川に永瀬が脱力して床になつく。
「そうですか?つまりは、普通なら感染症の常識として、誰でもが考えつく隔離という基本中の基本を思い浮かびもせずに、一応、隔離する為の方策としてホテル用意しましたけど、希望されたら、とかいうアホが思考力があると?」
「ケンカ売らないの、瀬川ちゃん、…」
「少なくとも、政府が集団免疫を目指しているのではないということですか?」
突っ込みを瀬川にいれている永瀬に構わず、真顔で神尾が質問を。
それに。
「神尾先生、その集団免疫とはどういうものですか?説明してもらっても?」
「西野ちゃん、ナイス!」
西野のアシストにほっとして永瀬がいうが。
「え?…―――あの?」
その永瀬を無視して西野が真顔で続けているのが。
「あの、…西野、ちゃん?」
「神尾先生。僕が知っている限りでは、集団免疫というのは、自然免疫獲得を目指して集団が一定の割合以上感染するのに任せるということではなかったかと思うのですが」
真顔の西野ちゃん、はじめてみたーと、拳をくちにあててみているが、その永瀬のリアクションに誰も突っ込みを入れずに話が進んでいく。
「その通りです。自然のままに任せるというものと、併せてワクチン等が開発された場合はその接種を含めて、一定数の免疫獲得を目指すことにより、集団全体が免疫を得た状態を目指すことをいいます」
神尾の答えに西野が真顔で訊ねる。
「それは、そうなるまでに死なないんですか?誰も?」
「いえ、違います。とても多くの犠牲が出ます。多大な犠牲が払われて初めて成り立つものです」
「――――…」
真顔で永瀬も沈黙したまま神尾をみる。
集団免疫、―――――。
「確かに、一定の割合以上、新しい感染症に対して免疫をもった個体が増えれば、集団として免疫を獲得したといえるようになります。その後は、免疫をもった感染症のように、――それはしかしこの新型コロナウイルスによる感染症のように、免疫を人類がまったくもっていない状態では、…―――」
神尾が表情のないまま言葉を途切れさせる。
「基本的に、集団免疫を目指す理論では、約六割程度が感染した際には、確立したと考えます。それが成立すればですが、―――」
言葉を飲んで、神尾が西野を見返す。
「西野さん。集団免疫というのは、残酷なものです。…」
「…――――」
無言で西野が神尾を見返す。
永遠というもの―――――。
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