Novel coronavirus 12

「…美味い、――――」

しみじみと、人生のしあわせをかみしめて、神尾の作った料理をくちに運んでいる滝岡がいる。白い麦飯をくちに運んで、目を閉じてうなずく。

「うまいな、…――ありがとう、神尾」

「いえ、よろこんでもらえてよかったです。こちらこそ、ありがとうございます。滝岡さん」

目をひらいて、滝岡が不思議そうにさばに箸をつけながら神尾をみる。

 それに微笑して。

「いえ、ですから、――確かに、とてもいいストレス解消になりました。やっぱり、僕は料理を作らないとダメですね。考えが整理できません」

「そうか?なら、――まあ、神尾」

滝岡が微笑んでいう。

「はい?」

明るい瞳で見返す神尾に。

「いや、有難いなと思ってな、―――。おまえの作るめしはうまい。久し振りに食えて、うれしい」

笑顔でいう滝岡に、神尾がうれしそうに笑む。

「そうですか?なら、よかった、―――。でも、途中で気付いたんですが、あれは、永瀬さんと滝岡さんが、僕にストレス解消に料理を作らせる為に、なんですよね?」

あの会話は、と楽しげにいう神尾に滝岡が天を仰ぐ。

「いや、まあな、…――半分以上は、その、だ、…まあ、いいじゃないか?」

途中で誤魔化す滝岡に神尾が笑う。

「そうですね。何にしても、ありがとうございます。」

ふわり、と神尾が笑んで、窓の外を見る。

 青空が外には広がり始めている。

 早朝の空も、随分と明るくなるのが早くなってきた。まだまだ、夜の時間の方が長いけれど。

 ―――明けない夜はありませんね。

 見えない敵がそこに迫っている。

 しかも、その正体は見えない。


 タイのデータ、シンガポールのデータ。

 当初から状況を指摘して、対応を始めている台湾。

 アメリカCDCの反応。

 そして、なぜか。

 ―――いえ、ある意味では、追認になってしまうのが、特徴でもありますが、…――――。

 国際機関が示している見解は、まだヒト―ヒト感染しないというもので。

 それは、ありえない。

 何が起きているのか、漠然と腹の底に居座る不安と。

 より、性質の悪い、疑念が、――――。

「神尾」

「あ、はい」

外に流れる白い雲を見るともなしにみて、暗い方向に向きかけていた思考に囚われていた神尾が、滝岡の声に振り向く。

 滝岡が、穏やかに微笑んで。

「美味しいな、お茶どうだ?」

「あ、――はい、すみません」

つい、と。

「いいたいことがあるのか?」

湯呑みを手にして、滝岡をぽかんと神尾が見返して。

「そうですね、―――。はい。その、…例えば、死者数に関してなんですが」

「うん?」

穏やかに向き合う滝岡に、神尾が手許の湯呑みを見つめるようにしていう。

「もし、先程話題に出ていたように、既に数十万人が本当は死亡しているとします、―――。自宅死や、何か、――病院死だけではありえませんから、それを数えれば、もしかしたら、それが真実なのかもしれません。唯、そのときに」

「そのときに?」

「ええ、―――もし、それほどの人が亡くなって、――一月経たない内に、――そうしたら、本当に数えることは出来るでしょうか?」

「神尾」

「そう、いいたかったんです。確かに、数字を誤魔化している可能性はあるかもしれません。SARSのときも、十一月に発生していたものを誤魔化して、隠蔽して――その結果、アジアの他の地域にも広がり、犠牲者が出ました」

「それに比べれば、発表も行われているようにみえるという話だったな?確か。原因を突き止め、ゲノムデータまで出している」

滝岡の言葉に苦笑する。

「ええ、ですが、それは僕も怪しいと思っています。もしかしたら、SARSと同じように、発生は少なくとも十一月には遡るかもしれません。十二月末に報告された件数と、市場の閉鎖、そこからすると、―――原因を特定するのが早すぎます」

個人的見解ですが、と途方にくれたようにいう神尾の肩を叩く。

「…滝岡さん?」

「つまりは、おまえは国際機関がおかしくなったと心配してるんだろう?あそこの関係で仕事をしたこともあるだろう。知り合いも多いんじゃないのか?」

「それが、――割と、僕が知っていた人はもう国際機関にいないようなんですよね、…」

「ふむ?」

不思議そうにみる滝岡に苦笑して。

「いえ、――それで少しほっとするというか、なんというか、―――SARSのとき、断固とした対応を取ったトップと、彼女が率いていたのと同じ組織ではもうないのかもしれません。同じ名前ですが、―――」

「もう随分と経つからな」

「ええ、――そういうものですが、…ここまで勝手のわからない感覚は初めてです。ジカ熱のときでもまだ、少しはこういう感じではなくて、―――」

「あれもまた、公衆衛生上の危機だな。現在もだが」

「ええ、蚊が媒介する、胎児畸形を伴う――危険な病ですからね。もし、日本でも発生すれば大変なことになります。オリンピックのように、人が行き来する大きなイベントは、飛行機で一瞬の内に、発症する前の人を連れて来てしまいますから」

「いまも防疫が大変だからな」

「ええ、――蚊の侵入をどうやって防ぐか、媒介する蚊が日本で増えることがないように監視して、気候条件をみて。それも大変ですが、―――」

「一番厄介なのは、人が運ぶウイルスだからな」

「ええ、今回の新型肺炎と言われる、中国で発生して都市封鎖を行っている新型コロナウイルスは、―――永瀬さん」

驚いて、神尾が顔をあげる。

「おれもくいにきたよーーん、神尾ちゃんのめしー」

「あ、はい、わかりました。とってきます」

食堂で、厨房の一角を借りて作った朝食を、―――ちゃんと、いっていた通りミックスベリーのムースプリンがついている――運んで来た神尾に、永瀬が滝岡の隣に座りながら目を丸くする。

「…神尾ちゃんっ!あいしてる!」

「抱きつくのはやめてください」

「えーっ???拒否するの?かなしーいー」

「…先輩」

大袈裟な永瀬のリアクションに、滝岡が冷たい視線を送り、それに構わず実にうれしそうに、永瀬が座って膳の前で、いただきますをして実にうれしそうに食い始める。

「うめー!やっぱり、神尾ちゃん、天才っ!」

「はい、ありがとうございます」

思わず笑いそうになるのをこらえて神尾がいうのに、箸を使いながら永瀬がいう。

「…だからさ、その名前どーにかならないの?」

「え?名前ですか?」

うまいっ、このはじかみっ!といいながら、鯖の皮を箸できれいにとってくちに運びながら永瀬がいう。

「…うん!新型コロナウイルスって、長すぎるじゃん!もっとみじかいのないのー?SARS2でいいじゃん、もう」

「…―――先輩、…基本的には賛成ですが、食べながら話すのは行儀が悪いですよ?」

「…おまえさん、いつも真面目だよね?」

「はい、基本的に」

真面目な滝岡と永瀬が顔を向き合わせて動きをとめているのに。

「そうですね、…通常なら、何か特徴をつかんだ言葉が既に出て来ていておかしくないんですが。…結局、SARSも、MERSも後追いですからね?自然発生的にいわれはじめた名称が定着した」

「――まあ、考えてみれば、そっか。SARSなんて、確か、急に重症化する肺炎くらいの意味だっけ?――――重症急性呼吸器症候群?その略?確か」

「ええ、結局は現場で使い始めた言葉と略称がそのまま名称になりましたから」

「当時大騒ぎだったよなあ、…―――ホテルの同じ階に泊まった人だけじゃなく、別の階からも広がって、空港を経て世界中に散った」

「当時は、まだ中国からの旅客が少なかったですからね、幸運でした」

「後はあれ、急に重症化するじゃん?わかりやすい、っていったら怒られるけど、重症化した人隔離するので何とかなったものな、…」

しみじみいって、ぼんやり味噌汁の椀をとって。

「う、うまいっ、…神尾ちゃん、ありがとう!」

「…あ、いえ、その、はい」

苦笑しながら、神尾が永瀬をみて。

「うまいっ、…―――でさ、何か今回、まちがえてる気がするのは、SARSと同じようなもんだと思い込んで対応してるんじゃないかっていう感じだな、検疫とかの対応がさ」

さらっ、とくちにする永瀬に、神尾が沈黙する。

「…―――はい」

「――このきのこ、うまい、…。遺伝子配列も殆ど同じって出てるみたいだけど、報告みてるとどうもなんかへんよ?これ、SARS改、SARSが進化したものなんだから、性質も違うんじゃね?少なくとも、重症患者だけ対応してたらいいようには思えない」

「…先輩、食べるか、しゃべるか、どちらかにしてください」

「えー?おれっておしゃべりなのにー」

「自覚はあるんですね?」

既に綺麗に膳を終えている滝岡に注意されて、永瀬がむくれる。それから、もくもくと味噌汁からきのこをとってくちにはこんで。

「うまーい」

にしゃあ、とくずれる永瀬に滝岡が。

「それに、美味しいものを食べるのに集中した方がよりおいしくてしあわせですよ?」

「たしかにな、おれがすまんかった」

永瀬の言葉に滝岡が無言でうなずく。

「――さばー♪」

鯖をしみじみとしあわせに食べ、味噌汁のきのことわかめに感動し、麦ご飯の炊き具合に日本人に生まれたしあわせをしみじみかみしめる。

鯖に小さく添えられた緑の和え物――ほうれん草のおひたしに削り節の踊るさまをかみしめて。

「おれ、日本人に生まれて本っ、当――に、よかったー!」

拳を握りしめる永瀬に、はい、と隣で滝岡が真面目にうなずいている。

「はい」

「ええと、…その」

戸惑っている神尾に、手をあわせてごちそうさまでした、をして。

「だからさ、おれ、どうも国際機関の指針を絶対のさ、まるで金科玉条みたいにして後生大事にそれ基本にして対応してるのまずいんじゃないかって思うのよ、どう?」

「―――…続きですか。はい、ええ、それは僕もそう思います。今回の件について、国際機関の対応の遅さ等が色々とありますが、――何よりも、元々、本来国際機関は現状の追認として、報告を得て、あるいは調査を行ってからの結果しか発表できないということです。統計なら、それはすでに報告が行われてから集計された結果に対する報告であり、リアルタイムではありません。―――もし、どのように最善に運用されていたとしても、それはリアルタイムではないんです」

「まあ、他にも色々いいたいことはあるけど、そういうこったよな、―――滝岡、なあ、秀一っちゃん、どうしてんの?」

「秀一ですか?あれは、―――自衛官ですよ?」

「秀一さん?」

永瀬が唐突に出した名前に驚いて神尾がみる。

「ま、そうか、…――政府とか、そーいうとこに話ができるコネとか色々ないよね?院長はどうなの?あのぬらりひょん」

「…役に立つかもしれませんが、あれはぬらりひょんすぎて、こちらにコントロールできるものではありません」

「そうだけど」

「…――どうしたんですか?急に?」

「いや、こういうのさ、ここでぐちだけいってても仕方ないでしょ?どこかにお話できないかな、と思ってさ」

「――――…」

神尾が無言になるのに、滝岡がいう。

「研究機関の人達はいまどうしてるんだ?」

「それが、…。僕は、あそこを出た人間なので」

困ったようにいう神尾に、永瀬がいう。

「おまえが困らせてどうするんだよ?」

「すまん、神尾」

謝る滝岡に神尾が笑顔になって。

「いえ、僕もまだ知っている人はいるので話はするんですが、…少し、妙な感じですね」

首をかしげる滝岡に、永瀬も無言でみる。

「どうも、どうやら、…これば僕の個人的な感想ですから、本当にあそこで起こっていることとは違うと思いますが」

慎重な神尾の言い回しに永瀬が目を丸くして湯呑みを両手にもってみる。

「永瀬さんのいう通り、SARSと同じような対応をしようとしているのではないかという気がします。…」

「――そーか、…」

永瀬が、ぐびり、とお茶をくちにして。

「なら、あきらめてこちらはこちらの対策でやるしかねーな、…。滝岡」

「はい」

湯呑みを手にいただいたまま、天井を睨むようにして。

「やることは変わりありません。どのような方針であろうと、いままでの通り、警戒を続けます」

「そうだな。それしかない」

「…御二人とも、―――」

言葉を無くしている神尾に、永瀬がにっと笑う。

「神尾ちゃん。警戒の程度が人によっても違うのは当然のことだろ?国としてきちんとした方針があって、対応してくれるのなら確かにそれが一番だが、いまは正解なんて解らないんだ。だったら、な?」

滝岡、といって笑顔で振る永瀬にうなずいて。

「はい。うちは病院ですからね。患者さん達の為には、最大限の警戒をすでに始めておかなければ、そして対応の準備をしておかなくては、地域の医療が守れません。それに、神尾」

永瀬に向かっていってから、視線をかえて。

 ふと、面白がっているように笑んで。

「神尾、人間は神様じゃないだろう?」

「――はい」

「それでも、いつも最善の対応をおまえはしてほしいんだろうが、…できないこともある。もし、おまえの元いた組織や、国、あるいは国際機関がすべて最善の手配を行い、理想的な動きを国際的に協調して行えていたとしても、この自然に起きたウイルスの発生にどこまで人類が対応できるのかはわからない。そうだろう?」

「――あ、はい、…そうですね」

目が醒めた、というように神尾が滝岡と永瀬を見直す。

「まあさ、神尾ちゃんはエボラのときとかでも、現地飛んで対応してたじゃん?文句いって国際機関の尻叩いたりしてさ?」

「いえ、…その、尻を叩いては、…多分」

「そういうのからみたら、まどろっこしいっていうか、―――正直、やった方がいいことをとことんやらずに間違った方法を次々とっていくのとかさ、みてるとストレスマックスだと思うんだけど」

「――――はい、…あ、いえ」

思わず返事をして我に返ってくちを噤む神尾に永瀬が笑んで。

「いーやさ、滝岡のいう通り、これは自然の事だ。確かに、腹が立つこともある。けどな、何とかやるしかない。」

永瀬のしっかりと言い切る口調に、何か救われた気がして神尾が息を吐く。

「――…永瀬さん」

「おまえさんの知ってることや、わかってること、あるいは危険だと思うことや、何かをちゃんと知ってる人達に伝えてやれよ。俺達はそれで対策するしな。うん、それで、何とかみんなする。個人でできることは限られてるが、未知のウイルスに対して、元々できることはほとんどないんだ。百年前とあんまりかわらない。だからな?」

明るい笑顔の永瀬に、泣きそうな笑みを零して神尾がいう。

「――はい、…はい、そうですね」

「ま、神尾ちゃんは感染症の専門家だから、なおのこと怖いんだろうけどな」

「…すみません、――御二人とも、…――その、…」

思わず、涙がこぼれてしまって、戸惑いながら拳を額にあてて目を閉じる神尾に、思わず滝岡が頭に手を。

 ぽんぽん、とこどもにするように思わずしてしまう滝岡に、後ろからあきれた声がかかる。

「―――にーさん、…人に対してなにしてるんですか、…。神尾さんを子供扱いしちゃだめでしょー」

「…秀一?」

思わず驚いて振り仰ぐ滝岡の手はまだ神尾の頭に置かれたままで。

「にーさん、手」

「あ、すまん、神尾、つい」

「ええと、…はい、いいですよ、まったく、――――…」

時々、秀一さんにこうして頭に手をやってなだめて怒られてるのは目撃したことがあるんですけど、と。

 激甘といわれている滝岡からの扱いで知られている秀一が、あきれた顔で滝岡の斜め後ろに立っているのに。

秀麗な美貌に黒縁の眼鏡で眇めるように秀一が滝岡をみて。

「にーさん、人の、しかも大人の頭をそーいうふうにぽんぽんと叩くもんじゃないっていってるでしょ?ねえ、神尾さん」

「はい、あの、――」

いつ見ても綺麗なとしかいいようのない美貌にスーツ――三つ揃えの、今回もベストにチーフまできちんと揃えているが――に磨かれた靴とおしゃれな秀一が。

「呼ばれて飛び出たの?秀一ちゃん」

「つまり、僕の話をしてたんですね?永瀬さん」

怜悧な視線でいう秀一に、永瀬がうなずく。

「うん」

「少しだがな、…どうしたんだ?忙しいときいていたが。身体は大丈夫か?」

いつもながらに既に大の大人に対して、甘やかしというか、構い過ぎのモードにすぐさまかわる滝岡に。にいさんが結婚できないのってこのせいかも、と割と真実に近いことを思いつつ秀一が淡々という。

「院長にいわれてきたんです、今日は」

「え?いんちょう?あのぬらりひょん?いきてるの?」

「まだ死んだという話は聞きません」

永瀬の疑問に滝岡がすかさず否定を入れる。

 その会話を綺麗に無視して。

「神尾さん、お話がしたいんですが」

「はい。僕ですか?」

「ええ、院長室を使わせていただいて、できればこれから、始業前にでも」

にっこり、麗しい笑顔でいってから、そっけなく滝岡に視線を向けて。

「にいさんもきます?」

「勿論だ」

「おれはいかなーい」

永瀬の言葉に滝岡と秀一が同時に。

「誰も呼んでません」

「誰も呼んでません」

同時にいってから顔を見合わせて。

秀一が懐からスマートフォンを取り出す。

「ぼくがお呼び立てしましたの。よろしければ、永瀬さんもいらっしゃいます?」

ぷるぷる、と画面に映る院長――白髪の紳士――に対して無言で永瀬が首を振る。

「あら、いらっしゃいませんの?」

うんうん、とうなずく永瀬に。

「…先輩、―――一応妖怪ですが、これでも取って食いはしないはずですよ?」

「――滝岡、ちょっとは保証しろよ、…」

「食わないかどうか、検証したことがないので」

極真面目にいう滝岡に、永瀬が天を仰ぐ。





「以前、会議なさりましたでしょう?それを拝見させていただきましたの」

「あ、はい、――あれですか」

もう随分前のような気がしますね、と。

院長室に移動して、秀一が院長席に置いたスマホを前に、神尾が思わず呟くのに。

「ええ、ですから、最新の見解をお聞きしたいと思いましてね?お忙しいことと思いましたが」

「いえ、――構いませんが」

戸惑いながらもいう神尾に、スマホ画面の中から院長がにっこりと微笑む。

 白髪の何を考えているか解らない紳士――あだ名はぬらりひょん―――院長の微笑みに、思わず滝岡が視線を逸らす。

 嫌そうな視線もまったく隠さない滝岡に。

「あら、滝岡くんはいなくてもよろしいんですよ?」

「一応、付き添いですから。あなたの無茶を神尾にそのまま振られては困りますから」

「信用がないのねえ」

「あるわけがないでしょう」

きっぱり、即答する滝岡に神尾が思わず笑う。

「…――神尾?」

「いえ、相変わらずだと思いまして。御二人とも、仲が悪いわけではないのに、」

「いや、悪いぞ?」

「悪いですよ?」

神尾の言葉に、今度は滝岡と院長がほぼ同時にいって思わず視線を合わせる。

「―――…ともあれですね?」

「神尾に質問だそうだ」

院長が仕切り直し、滝岡が視線を逸らす。




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