第2話 お嬢様、仲間を探す
「次は仲間探しですわね!」
ギルドにいた冒険者たち個人への挨拶回りを済ませたアリスは一人意気込んでいた。彼女は冒険者としての第一歩はまず仲間を集めることだと考えていた。
しかしアリスは冒険者としての基本をまったく知らないため、仲間の集め方がわからなかった。
「少しばかりお時間よろしいですか」
「どうされましたか?」
「私と一緒に冒険をしてくださる仲間を探しているのですが、どのように探せばよいのでしょうか」
アリスはギルドの受付へと駆けこんだ。あらゆる貴族の頂点たるホワイトベル家の生まれである彼女は貴族社会での格付けに参加してこなかったため、貴族でありながら見栄を張ることがない。自分がわからないことはわからないと認めて教えを乞える素直さがあった。
「なるほど。あの看板を使って募集をかければよいのですね」
受付から仲間の探し方を教授されたアリスはそれに倣うことにした。
冒険者が仲間を集めるのは直接声をかけるか募集をかけるかの二つが主流である。アリスはまず看板を利用して募集をかける方法を選んだ。
「お給料の相場がわかりませんわ」
募集要項を考えていたアリスは首を捻った。というのも、彼女は自分がリーダーであることを前提として雇用する仲間には給料を支払うものだと思い込んでいたのである。
当然冒険者のパーティに雇用という概念はないため、給料の相場など存在しなかった。
「そこの方々。少しお時間よろしいでしょうか」
アリスは数人で溜まっていた冒険者たちに目をつけると躊躇いなく歩み寄って声をかけた。アリスに声をかけられた冒険者たちは彼女の姿を見るなり姿勢を正して萎縮する。
「そんなに緊張なさらないで。私はただパーティに所属なさっている冒険者のお給料を知りたいだけですわ」
「あの……お言葉ですが」
「えぇっ⁉︎冒険者はパーティ所属のお給料は出ないのですか?」
「パーティって気が合う仲間同士の集まりみたいなものですので……どうしても給料を出したいならご自身で設定するしかないかと」
「そうでしたの……教えてくださり感謝しますわ」
アリスは給料の発生しない組織の存在に驚かされた。しかし相場が存在しないということはいくらに設定しようと逸脱することがないということでもあった。
「完成しましたわ。あとはこれを看板に貼り出していただけばよいのですね」
改めて募集要項を完成させたアリスは用紙を持って受付へと赴いた。初めての冒険者らしい行動に彼女は心を躍らせている。
アリスの設定した募集要項にはこのように記されていた。
『一緒に冒険をしてくださる冒険者の方を前衛職一名、後衛職二名の計三名募集。
クエスト一回の同行につき三万イェンの給料支給あり。
募集期限は未定。
採用は応募から面接を経て決定。
募集者:アリス・ホワイトベル』
アリスの貼り出した募集要項は明らかに異質であった。それは『パーティ仲間の募集』というよりは『会社の従業員の募集』という方が近かった。
イェンはグラーフで使われる通貨であり、庶民のひと月の生活費はおおよそ二万イェンである。ひと月分の生活費を比較的余裕を持って賄えるほどのお金がたった一度クエストに同行するだけで追加支給されるのは冒険者たちからすれば破格もいいところであった。
アリスは冒険者ギルドの中でワクワクしながら参加希望者が現れるのを待ったがその日は誰も来ることはなかった。
「お給料が少なすぎたのでしょうか……?明日は私から直々に声をかけてみましょうか」
アリスは首を傾げながらその日の活動を終え、冒険者ギルドを後にした。三万イェンがアリスにとってはお小遣いにも満たない端金でも庶民からすればとんでもない支給金であるというのに気づくことはなかったのであった。
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