お転婆お嬢様、冒険者になる~困ったときは魔法のカードですわ~
火蛍
第1話 お嬢様の冒険者デビュー
グラーフ国は国土に世界有数の大金山を始めとした鉱山をいくつも持ち、鉱物資源の輸出と金属加工で栄える資源大国である。
そんな大国には冒険者ギルドがあった。
「本日はどのようなご用件でこちらへ?」
グラーフの冒険者ギルドの受付嬢はひきつった笑顔で目の前にいる少女に応対していた。というのも、今目の前にいる少女がここにいるには明らかに場違いな存在だったためである。
白い鍔広の帽子を被った純白のドレス姿に金があしらわれたシックな黒地の上着を羽織り、首には真紅に輝く大きな宝石のついたネックレスをかけた煌びやかな出で立ちはその場にいた誰もが一目でわかる貴族の令嬢であった。ギルドにいた冒険者たちも少女の姿に目を釘付けにされている。
「もちろん、冒険者になるためですわ」
受付嬢が応対している少女は受付嬢に明るい口調でそう返した。
彼女はアリス・ホワイトベル、十五歳。世界三大金山であるグラーフの大金山と国外にある大金山一つの計二つの金山を保有し、世界中にある金の内の半分以上を独占する大富豪ホワイトベル家の令嬢である。
そんな大富豪の令嬢はどういう風の吹き回しか、冒険者になろうとしていた。
「どうかなさりましたか?冒険者はどのような方でもなれるご職業とお伺いしたのですが」
「ええ、それはもちろん……」
首を傾げるアリスに受付嬢は冷や汗をかいた。
『冒険者は誰でもなれる』その言葉に偽りはなく、冒険者は一定の年齢に達すれば身分を問わずなることができる職業である。だがそれはあくまで『最底辺の身分に対する救済』という意味であり、アリスのような社会の最上位に位置する人間がなることなど微塵も想定されていない。
「では、手続きというものをしていただけますか?」
「かしこまりました。では登録手続きをさせていただきます」
受付嬢はひきつった笑顔のまま登録手続きに入った。もしアリスを冒険者にしたことで彼女の身に何かあろうものなら自分の首がなくなるかもしれないという重圧で顔からは完全に血の気が引いており、生きた心地がしなかった。
そんな受付嬢に冒険者たちは同情の視線を送った。
「無礼を承知でお伺いしますが……アリス様はなぜ冒険者になろうと?」
「昔から冒険者になってみたかったんですの。うふふ」
手続き中、受付嬢が尋ねるとアリスはニコニコしながら答えた。アリスが冒険者を志したのに大した理由などない。『ただなりたかったからなる』それだけであった。
冒険者になるためには身分などは求められないが十五歳以上からという規定がある。アリスは十五歳を迎えたことで満を持して冒険者になろうとしていたのである。
「これで私もついに冒険者になれましたのね!」
およそ一時間後、アリスは冒険者カードを両手で頭上高く掲げて目を輝かせた。その後ろでは受付嬢が魂の抜けたような状態で壁にもたれかかっている。心なしか髪の一部が白く染まっているようにすら見えた
「皆さま。私は本日より冒険者となりましたアリス・ホワイトベルと申します。不束者ではありますが、これからどうかよろしくお願いいたします!」
アリスは自分の冒険者カードを懐にしまうと周囲に向かって声高に宣言した。前触れもなく突然現れた超大型新人に他の冒険者たちは嫌でも視線を向けさせられる。
こうして、グラーフの冒険者ギルドにて世界を揺るがす超大型新人冒険者が誕生したのであった。
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