第2話 脇役の私
「えっ? 待って、フランソワ・ラングレットって……」
フランソワ・ラングレット。
ロゼッタ・ラングレットの妹であり、影は薄くスチルでも出てこない脇役中の脇役だ。
今の今まで忘れていたけれど、そう言えば設定で火傷を負って塞ぎ込んでいたとか、姉であるロゼッタを敬愛していたとか、あったような。
「あはは、まさか妹に転生しているとはねー……」
けれど、違和感を覚える。
エンディング時点のロゼッタの年齢が十八歳。
六つ下のフランソワは十二歳だったはず。
それなのに生前の私より背も高く、女性らしいシルエットになっているではないか。
「もしかしてエンディングから、時間が経っているってこと? 何だそれ凄い魅力的じゃない?! って、何で同じ屋敷に住んでいるはずなに、文通してるの?!」
いくら思い出そうとしても、蘇るのは前世の私の記憶で、フランソワだった頃の記憶は全く出てこない。
「だ、だめだ。何も思い出せないや……」
などとひとりごちしていると、前世の頃の記憶にはない人物の姿が浮かんだ。
獅子のような威圧感に、トパーズ色の瞳。銀色のくせっ毛にサーコート。
誰に対しても口が悪く、態度も悪い人物。
もしかすると、これはフランソワだった頃の記憶だろうか。
「ジーク……?」
ぼんやりと浮かんだ名前を口にした時だった。
部屋の灯りがつくと同時に「フランソワ様、体調はどうですか?」と名前を呼ぶ声が聞こえた。
声のした方へと視線を向ければ、優しい笑みを浮かべる癒し系超絶イケメンが、部屋の入り口に立っていた。
黒色のサラッとした髪にトルマリン色の瞳。
耳には瞳と同じ色をしたイヤリング。
肌には一切の毛穴が見当たらない上、執事服を着た奇跡の存在。
間違いなく三次元では拝めないレベルだ。
その現実離れした顔に見惚れていると、イケメンは不思議そうな表情を浮かべた。
「どうかされましたか? そんなに目を丸くして……まさか殿下みたいに私まで嫌いになってしまいましたか?」
「殿下?」
この世界で殿下と呼ばれる存在は一人しかいない。
ロベルト王太子のみだ。
ということは、この人はロベルト王太子の配下なのだろうか。
けれど、こんなイケメン……私の記憶には存在しない。
「記憶にないってことは新キャラってこと……?」
「記憶に……ない? 新キャラ? えーっと……また新しい遊びですか?」
イケメンはまじまじと見つめる私に戸惑いながらも尋ねる。
様子を見る限り怒ってはいないだろう。
どちらかと言えば心配している感じだ。
それにしても惚けるのが遊び……フランソワって、そんなキャラクターだったの?
とにかく、ここは正直に今の現状を伝えよう。
私は戸惑う気持ちを抑えながら、なんとーなく貴族っぽい言葉遣いを意識して言葉を発した。
「すみません。どうやら、何も覚えていないようで……」
「覚えていない……? って、どういうことですか?」
テオドールさんは口元を押さえ私を改めてじっと見つめる。
驚くのは当然だよね。
それもそうだけれど、なんちゃって貴族作法。
ちゃんと通じたようだ。
この辺も体に染みついているのかな。
なにはともやれ少しホッとした。
それにしても美しい。
あまりの美しさに釘付けとなっていたところ、テオドールさんの視線が下から上へと移動した。そして目が合った瞬間、顔を赤くし視線を逸らした。
「……はい、冗談ではないことは理解しました。私では判断できないので殿下を呼んできます」
何故逃げるように、立ち去ろうとするのだろうか。
心配するのが普通だと思うのだけれど。
そうだ、それよりも――。
「あ、あの!」
「は、はい? どうか致しましたか?」
「お名前を教えて頂いて宜しいでしょうか?」
「な、名前ですか……わ、私の名前はテオドール・フィリンツ。ラピス王国を治めるジーク・ラピス・クライブ王太子殿下に仕える騎士兼執事兼参謀です。改めて宜しくお願い致します」
何故か視線を合わそうとしない。
その不可解な仕草に疑問を思い尋ねようしたが、彼の発した言葉を聞いたことで、思考が止まった。
そして動き始めた時、私は余計に混乱しまった。
情報が多い。
いや、多過ぎるって!
というかラピス王国ってどこよ? 知らないって!
ただ、わかることもあった。
テオドールさんも苦労されているということだ。
兼務している役職の数がおかし過ぎる。
もう視線を合わそうとしてくれないとか、そんなこと今はどうでもいい。
どうにかして、ここから逃げ出さないと。
生前の私もこういう上司の下に付いたことがある。
「期待しているから」という一言を添えて、自分のいうことを聞いてくれる優しい人に色んな役職を付けようとするやつ。しかも、そっちの方が箔が付くからとかいう謎の理由で進めてくるんだよね。
なのに、そこまで給料は増えないっていう。
これが雇われる側の辛さである。
「色々なことを任されているのですね」
「そうですね……任せられているというよりは奪い取っていると言った方が正しいのですが」
奪い取る……? どういう意味だろう。
てっきり強いられていると思っていたのに。
また気になることができてしまった。
「テオドールさん、その話、詳しく聞かせて頂けませんか?」
「は、話ですか? えーっと……その場はまた改めて設けさせて頂きますので、と、とりあえず殿下を呼んできます」
他にも聞きたいことがあったのだけれど、やはり早くこの場から離れたいようなので、呼び止めることなく彼を見送った。
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