転生したら脇役でした!? 〜推しでもない顔も知らない俺様系の王子と歩む物語〜

ほしのしずく

第1話 見知らぬ部屋

 「……えーっと、ここってどこ? てか、誰?」


 目が覚めたら見覚えのない部屋にいた。綺羅びやかな天蓋付きのベッドに、真正面には起きたらすぐ自分を確認できるように設置されたであろう立ち鏡。


 でも、その鏡に映る顔に見覚えがないし。

 記憶の中にある自分とは髪色も長さも違う。

 

 それどころか、右肩から腕にかけての火傷まである。


 そして自分の記憶が、推しのゲームをしているところで途絶えことを思い出した。


 どうやら、状況からして私は死んだようだ。


 十連超勤の後、ゲームをしながら。


 我ながら思う、そんな最後なんてあるものかと。

 友達に冗談で死ぬなら推しの声を聞きながら召されたいとかアホなことは言ってはいた。


 けれど、まさか本当になってしまうなんて。


 しかし、私はナチュラルにオタク。

 この状況に喜ぶことはあれど、戸惑うことなどはない。


「それにしても可愛い……」


 火傷はあれど、ひまわり色のふんわりしたロングヘアに小さな顔。雪のような肌に見惚れてしまうグリーンローズ色の瞳。

 見れば見るほど、ヒロインと呼ぶに相応しい存在ではないか。


 部屋からして、平民ではなく貴族で間違いない。

 いや、もしかしたらどこかの国の王女様とか。もしくは何か秘めた力を持った聖女とかもあり得る。

 そうなると供給過多でモテモテウハウハライフ到来ではなかろうか。

 浮かれポンチになりながらもふと思った。


 「でも、なんのゲームだろう……」


 最後にプレイしたのは「叶うなら貴方と」という異世界恋愛シュミレーションゲームだったはず。


 となるとその世界に転生したということだろうか。


 「叶うなら貴方と」というゲームは、ロゼッタ・ラングレット公爵令嬢とスファレ王国、ロベルト・スファレ・ハルート王太子殿下との悲恋を描いた物語。


 序盤は王族ということもあり、孤独となっていたロベルト王太子を婚約者であった心優しいロゼッタが寄り添い支えていくといった甘々ラブロマンスパート。


 中盤はロベルト王太子と一緒に隣国のクランベル学園に通い、魔法の練習やさまざまな人物との交流を楽しみ青春を謳歌する学園パート。


 終盤は貴族の策略により、没落寸前となってしまったラングレット家を立て直す為に奮闘する内政パート。


 この三つのパートで構成されている。


 けれど、どれだけキャラクター達の好感度を上げようとも、ステータスを上昇させようとも行き着くエンディングには変わりはない。

 

 どうあがいても、元々体が弱かったロゼッタは病に倒れてしまうし、その間に内乱が起き、王太子は巻き込まれ命を落としてしまうしと。


 踏んだり蹴ったりなのだ。

 

 唯一の救いはヒロインであるロゼッタが死を選ばず生きることを決めたということだろう。


 一部ユーザーからも、何があってもお互いを想い合っている姿が尊いなどの高評価を得ていたし、私もそう思っていた人間の一人だ。


 けれど、歳を重ねるごとにゲームなのにハッピーエンドではないのはなぜなんだろうと思い始めた。


 とはいえ、そこまで気分は落ちていなかった。


 こういう作品は女子向けのゲームやアプリは定期的にアップデートがあったり、ダウンロードコンテンツを追加したり、もしくは次作が発売される際などにユーザーの声を反映するのが定石であるからだ。


 実際、ベスト盤は発売されると同時に「ユーザー様からの熱烈な要望がありましたので、ハッピーエンドも用意しております」という公式からの情報もあった。


 それを信じて公式SNSにはりつき、その時を待っていた。

 けれど、その日を迎えることなく私は死んだ。


 そんな結末納得などできるであろうか。


 否、私にはできない。


 推しの幸せを目にして死んでいく、それこそが真のオタクなのだ。


 どれだけの傷を負おうとも。


「推しの幸せを見ないと死んでも死に切れないよね!」


 って、今はそんなとこ言っている場合ではなかった。


 自分の置かれている現状を把握しないと。


「なんかないかなー?」


 手掛かりになりそうな物を見つける為、ベッドから出た。

 そしてクローゼットや宝石が散りばめられたドレッサー、小難しい本が並んだ机に引き出しなどを、開けては閉めをくり返していくと手紙が数枚出てきた。


「ん? 敬愛するロゼッタお姉様へ……?」


 どの手紙も宛名の部分にはロゼッタお姉様へと書かれており、ラングレット家の家紋である、ひまわりのシーリングスタンプで閉じられている。


 どうやら文字は読めるらしい。

 まぁ、これは異世界転生のご都合主義といったところだろう。


 そんなことよりも、作中ではロゼッタのことをお姉様と呼んでいた存在はいなかったはずだ。

 

 差出人が気になってしまったので、裏側に書かれた差出人の名前を確認すると、フランソワ・ラングレットと書かれていた。

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