俺と蓮池さん

第1話 バケモノ

 2023年の冬、コロナの分類が5類になり、数年ぶりに行動制限が無くなった街中は、クリスマスムード漂う中、一人の青年は悲壮感溢れる表情で、帰宅の電車に乗っている。


 『誠に残念ですが……』


 (これで、御祈りメールが300件目か……!)


 世間はコロナの爪痕が残り、戦争による影響で不況の真っ盛りであり、Fランの大学で資格が自動車免許しかないただのスカンピンが入れる企業は何処にも無く、深いため息をついている。


 電車の中はマスクをしている人は案の定全員であり、皆がこの混沌をどうにかしてくれと、神様に祈っている。


 「……?」


 マスクをつけているが、ボサボサの髪型と、大きなアニメキャラの絵柄の描かれたスウェット、今日日の小学生でもまず履かないであろうド派手なピンク色のスニーカーを履いている、分厚いメガネをかけた女性と青年は目が合った。


 「……蓮池さん?」


 「やっ」


 明らかに女性とは形容し難い有機体に周囲の侮蔑の視線が集まり、「一緒にいるのはなんか不審者に思われそうで嫌だな」と青年は恥ずかしく思った。


       ❤️❤️❤️

 この物語の主人公、檜山圭吾は、地元の底辺高校を卒業した後、苦学の末にFランの大学に進学したのはいいが、コロナ禍に突入してしまい、人生で一番楽しいはずの学生生活が送れずに就職活動に突入してしまった。


 当然彼女らしい彼女はできず、暗黒とも言える大学生活を過ごし、就職氷河期やリーマンショックの再来とも言えるご時世に辛酸を舐める羽目になったのである。


 だが、そんな圭吾にも、友達といえば友達とは微妙な、恋愛対象になるのは当然論外な彼女がおり、その子といつも学校帰りの電車に乗っている。


     ❤️❤️❤️

 車内にいる乗客の大半は、どちらかといえばイケメンの部類に入る圭吾と、女性としては認識をするのに困難なビジュアルをしている、例の蓮池さんという女の子を好奇の目で見ている。


 「ハクション!」


 蓮池さんはでかいくしゃみをして鼻水をマスクごしに撒き散らし、慌てて鼻水まみれのマスクを新しいマスクに変えている一部始終を、隣の座席に座っている圭吾は深いため息をついた。


 (こいつ本当に女なのかよ……?)


 他の乗客を見ると、自分と同年代の女性は、流行りのファッションに身を包んで化粧もバッチリしているのだが、蓮池さんはそれはなく、そばかすとシミだらけの醜い顔をしており、それは整形が必要なレベルである。


 「蓮池さん、Switch買ったの?」


 圭吾は、何を話していいのか分からなかったが、取り敢えずは、コロナ禍になる前から欲しかったSwitchとポケモンの話題を振る。


 「あ、あれね、まだ金がないから買えないんだ」


 (こいつ一体いつまで買わないつもりなんだろうなあ……)


 このグロテスクで変な女の子、蓮池美樹は、圭吾とは数年前からの付き合いであり、実は人にはいえない苦しみを抱えている。


 「実はさ、病院に通う回数が増えちゃって、今お金がないんだよね……」


 「え?またなの?」


 「うん、パニック障害とかになって、薬が増えたし、私誰かそばにいないと発作を起こしちゃうからね……」


 電車の外からは、圭吾達と同じ歳ぐらいの若者が青春を謳歌しているのだが、美樹は彼らとは真逆の人生を歩むのだなと、隣で話を聞いていたハゲている親父はそう思いながら、耳にイヤフォンをねじ入れ、アイドルの動画を大音量で流した。

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俺と蓮池さん @zero52

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