第8話 執務室で

「やぁ、エルウィー君、かけたまえ。」


「は、は、はいっ!」


「何もそんなに緊張しなくても取って食いはしないさ。

さて、今回のブラッディタイガーの討伐、誠に見事だった。」


シュアララルさんは左目の眼光鋭くそう言った。


「あわわわわ…

は、はい…!」


「あの術式は初めて見るものだったし、正直、召喚魔術師というものを私は侮っていたのかもしれない…

どういう原理なんだい?」


「は、はい。

セイントラビ・リリは回復、探知、鑑定の3つの能力の他に、1.5倍ハーフアップという能力を使えるんです…

1.5倍は敵の能力値の1.5倍に自身の能力を底上げする術式で…

でも、敵との能力の差があればあるほど、身体への負担は大きくなります。」


「なるほど…

1.5倍ハーフアップか…

素晴らしい術式だ…」


「あ、えと…」


「ん?

どうした?」


「あの、これ、迷いの森フェレシーの地図です。

た、た、多分、9割以上は正確かと…」


「む…

あの術式を放ちながらも、地図まで完成させるとは…

素晴らしい…

いや、中々だ。」


「あ、ありがとうございます…!」


中々…か…

そうだよね…

少しでも調子に乗っていた自分が恥ずかしい…


「さて、君の正式入団だが、次のダンジョンまで様子を見させて欲しい。

いや、君が優秀なのはもう分かったのだが、どの程度の待遇で迎えるかを、考えなければならない。」


シュアララルさんは言う。


「も、もちろん、構いません…

俺なんかが、このパーティに入れるなんて…

夢のまた夢ですから…」


「まぁ、そう卑下するなよ。

さて、本題に入ろう。

次のダンジョンは、アンデッドの森・ゾゾロンの大ボス戦だが…

アンデッドの森・ゾゾロンの大ボスは変異している。」


「へ、変異…!?」


何かの論文で読んだことがある。

変異とは、そのモンスターの、飢餓、憎悪、怒り、悲しみ、などの状態と感情によって起こる異変だ。

変異したモンスターは主に足の筋肉を発達させたり、巨大化したり、羽根を生やしたりする。

威力は変異前と比べて2倍以上にはね上がるのだ。


「変異体の大ボスを討伐するのは、こちらとしても初めての事でね。

前の冒険者が記録した所によれば、変異しているのは、クイーンゾンビ。

巨大化と翼だ。

どうだい?

我々パーティは勝てると思うか?」


「それは…

わ、わ、分かりません…

あわわわわ…!

いえ、分からないというのは…!」


「いや、良いんだ。

私にも分からないんだよ。

だが、命を賭ける価値はある。

アンデッドの森・ゾゾロンの最奥にはが眠っているのだから…」


「古代石碑…」


「エルウィー君、アンデッドの森・ゾゾロンでは、地図化はしなくて良い。

攻撃に全振りしてくれ。

期待している。」


「は、はいっ!

全力で頑張ります!」


そう言うとシュアララルさんは初めてにこやかに笑った。

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