第11話 2日目

 入学式が終わり、僕にも友人と呼べる関係の人が二人ほど増えてきた今日この頃。2日目の登校は何やら変な視線を向けられている気がしてならない。


 とは言え、男性として過ごしてきたときと比べれば些細なことだから特筆するような事でもないのかもしれないけど。というか、僕の自意識過剰である可能性もあるから何とも言えない。


 高校の登下校というのは、大抵が電車通学か自転車通学なのではないだろうか。勿論、徒歩で通学する人も中に入るだろうけど。大半が前者であると僕は思う。


 この学校は最寄りの駅が近いため大抵の人は電車通学だ。この時間帯のこの電車内では同じ制服を着た人たちが大勢いる。周りの迷惑にならないように小声で話している高校生に、一人でスマホの画面を見ている高校生。


 なんとなく、こっちに視線を向けているような気がしてならないんだけど。ほんとに気のせいかなぁ。


 そんな不思議な体験をしながらも僕は学校へと到着した。朝のHRまではまだ30分ほど時間がある。だというのにクラスメイトの大半は既に登校しているんだけど。

 もしかして、このクラスって優等生だったりするんだろうか。まだ30分も時間が余ってるんだよ?


「やっほー、れんちー」

「お、おはようございます……」


 困惑しながら教室へと入った僕を出迎えてくれたのは、昨日知り合った天野さんと不知火さんだ。


「おはよう」


 と、僕は当たり障りのない挨拶をする。

 

 なんか悪寒が走った。え、何。何今の全身に虫が走ったような感覚。不知火さんなんてちょっとびっくりしてるよ!?


「感情というのは、時に実体を持つことがあるんだね」

「なになに、どういうこと?」


 天野さんが訳の分からないことを言っている。あれか、既に不知火さんの同人誌活動の手助けは始まってるのか。だからそんなアニメでしか言わないようなセリフ回しをしているんだな。


「嫉妬って怖いねって話。ま、れんちーにはあんまり関係ないかも」

「そ、そう……?」


 不知火さんは凄く微妙そうな表情をしているけど。本当に僕に関係ないことだったりする?


「そんなことより、無事に2日目を迎えられたことを喜ぼう」


 まるで無事じゃなくなるようなことが起こる可能性があったみたいに言うね。


「……ハ、ハイリスクハイリターンのお話です……よ」

「何を言っているのかさっぱりわからん」


 不知火さんの捕捉があっても僕には全く理解できなかった。リターンを得たいのであればリスクを許容しろって話だろうか。なんの?


「ま、そんなことよりも。今日はクラスの自己紹介とか役員決めがあるけど、どう?れんちーはこのクラスに馴染めそう?」


 女装している分馴染めそうではあるよ。今までなんて、僕から話し掛けないと誰も話し掛けてくれなかったし。同性として見てくれる分、楽しい高校生活を送れるんじゃないかなと期待している。


「馴染めそうだよ?小中に比べたら楽しい学校生活になるって確信してる」

「へ、へー……。ちなみに何で?」

「何で、か。まあ、入学初日で話しかけてくれた人がいるからかな?」

「……しゅき」


 なんだかんだで僕の高校生活最初の懸念は友達ができるかどうかだったから、ファーストコンタクトが君かっこいいねだったとしても天野さんには感謝してるんだよ僕。


 まあ、当の本人に今の心境を素直に伝えたらなんかフリーズしちゃったけど。おーい。起きてくださーい。


 僕の魅力にメロメロだったりするのかな?


 ……なんてね。まあ、こういうオーバーな表現は女子特有のものがあるし、男性からすると過度なスキンシップや愛情表現は、女性からしたら普通ってことはよくあることだ。


「小学校も中学校も僕が自分から話し掛けない限り、僕に接してくれる人なんて中々いなかったし」

「そりゃそうだよれんちー。自分の容姿見たことある?」


 ばかにしてんのか。


「れんちーって、なんか近寄りがたいオーラを漂わせてるんだよ。美人って、なまじ顔のパーツが整っていたりすると真顔の時の圧が凄いって言うかね?」

「……僕、そんなに冷ややかな顔つきかなぁ?」

「ああいや!別に悪いって言ってるわけじゃなくてね。イケメンすぎてなんて声をかけて良いか分からないというか……」

「そんなこと?なら気にしなくていいのに。僕は友達を増やしたいって思ってるからね。話し掛けてくれる分には大歓迎だよ?」


 そもそも、僕はモテたいんだよ。ハーレム築きたいんだよ。だからこんなことしてるんだよ。だから話しかけてくれよ。誰か僕に愛情を注いでおくれよ。


(あれ、絶対に誘ってるよね?喰っていいって合図だよね?)

(ダメです天野さん!あれは罠です!ただ友達が欲しいってだけで、他意はありません!)

(罠でもいい……。罠でもいいんだ!)


 なんか二人が円陣組んでコソコソと何か話してるんだけど。母さんと陽彩もそうだったけどさ、気になるからやめてよ。


 それにしても、何やらさっきと比べてやけに僕たちへの注目度みたいなものが上がった気がするんだけど。まあクラスの大半は西島君を見ているけど。でも西島君は僕たちの方を見ていた。


 なんとなくだけど、彼とは仲良くなれそうな気がする。同性同士、何らかのシンパシーがあるのかもしれない。

 僕たち男性って、この世界だと同性に対する嗅覚が異常に鋭いからね。主に安全圏という意味で。西島君側も僕に対して何か感じていてもおかしくないかも。


 女装姿だけど、彼と仲良くするのも良さそうだ。

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