第9話 雑談
「れんちーって、部活どうするか決めてるの?」
「部活?」
「そ、部活。ジュエルはほら、絵描いてるから漫画研究部に入るっぽいんだけどさ」
部活かあ。あんまり考えてなかったかも。冬休みや春休みは大体女装について勉強していたし、僕自身特段この部活に入りたいって欲もないし。
「ウチの学校、漫画研究部なんてあるんだ」
「うん。結構色んな部活あるっぽいよ?それなりに生徒数が多い学校だし」
漫画研究部か。部活としてどういった活動をするのか全く予想が付かないけど、響きとしては面白そうな部活である。
「コンクールとかを目標にして漫画描いてるらしいよ?」
「へー」
だったら、不知火さんにはうってつけの部活ということかな。不知火さんはサークルとかに加入している同人作家だという話だし。漫画研究部にとっては期待の新人になること間違いなしなんじゃないか?
「い、井垣さんは興味ありませんか……?」
「僕?」
「は、はい。モデルになってほしいとお願いした手前、勧誘するのも少々気が引けるのですが……」
別にそんなことないと思うけどね。
「うーん。僕、絵は描けないからなぁ……。それに、そこまでの熱量を持てるかと言われるとね。読むのなら大歓迎なんだけど」
「そ、そうですか……」
ちょっとしょぼんとした様子の不知火さん。いかん。歯に衣着せぬ物言いだったかな。
「でも、部活には入らないかもしれないけど不知火さんが描いた漫画は読ませてほしいな。僕も漫画には興味があるから」
「は、はい!」
この世界、女性向け漫画が多くてヒロインポジションの人物とかも大体男性が務めることが多いんだけど面白い漫画っていうのはそういうの関係なかったりするからね。
でも、お色気シーンとかは勘弁してほしいというか。誰が男の入浴シーンで興奮するんだよ。
「部活……。部活かあ……」
「どしたのれんちー」
「いや、僕そういうの全然考えてなかったなって思って」
「ふーん。あたし的には、れんちーは運動部が似合いそうだけどね」
運動部ねぇ……。
僕的には運動部だけはないと思ってるんだけど。練習試合とかプレッシャーがきつくて、僕あんまりプレッシャーに強くないんだよね。
「運動部はいいかな。あんまり得意って訳でもないし」
「え、そうなの?ちょっと意外かも」
「そうかな?」
「うん。れんちーって運動できそうな印象だもん」
向かいに座っている不知火さんも控えめに頷いている。
ボーイッシュ系なビジュアルがそうさせているのだろうか。全くできないという訳でもないけど、得意ではないかな。
というか、今思ったんだけど運動部だけは絶対にダメじゃん。
体操服とか、ユニフォームとかモロに体のラインが分かる服装だし。いくら僕を始めとしたこの世界の男性が華奢だからって、流石に体格までは誤魔化せない。……はずだ。
……うん。なんかワンチャンバレなそうだなとは思ったけど、とは言え着替えるときに多分バレるし、更衣室とかどうするの問題が発生する。
表向きには僕は女性として扱われているからね。入学式の日に担任の先生にそうお願いして、学校側でもそうやって処理されているはずだから女装バレだけは避けた方が良い。
「僕としては、落ち着いて活動できて自由度が高いのが良いかな」
「となると、文芸部とか?」
「ベタだね」
部活には入っておきたいけど、積極的な活動はしたくないっていう煩悩の塊。それが文芸部。純粋に創作がしたくて入ってくる人にはあらかじめ謝っておきます。ごめんなさい。
しかし、文芸部か。ありっちゃありかもね。不知火さんもなんか納得したように頷いているし。
「井垣さんに文芸部……良いと思います。なんかしっくり来ます……」
「まあ確かに。文芸部に潜むイケメン美少女って、ちょっとミステリアス感が出て良いよね」
天野さんはどういう基準で僕のことを考えてるのかな。と思ったけど、不知火さんも似たようなことを考えていたみたいで特に否定はせずに、というか肯定気味な反応をしている。
君たちの性癖の話はいいよ。
まあでも、文芸部は第一候補って感じかな。まだまだ部活は色々あるっぽいし部活見学とかをしてから考えても遅くないだろう。
「れんちーが文芸部に入るってなったら、文芸部の人口は鰻登りかもね」
「ちょっとそうなると文芸部への入部は見送りと言うことになるかな」
落ち着いて活動できるっていう条件だったのに、そうなっちゃったらダメなんだわ。モテたいって気持ちはあるけど、流石にそこは譲れないよ。
「で、でも井垣さんが入る部活ってかなり人気が上がりそうですよ?」
「え、そうなの不知火さん?」
「はい。昨日、井垣さんは天野さんに対してかなり意味深な発言をしたと既にクラスでは話題になっていますから。少なくとも、私の耳に届くくらいには」
思わず天野さんを見る。
「マジ。ってか、一部ではれんちーの恋愛対象についてあること無いこと騒がれてるよ?」
それを聞いて、僕は頭を抱えた。モテたいとは思ってたけど、ここまで注目を受けるとそれはそれで面倒ごとも付いてくる。そう言った事実に気づいた高校一年生の春であった。
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