第6話 放課後

 入学式は恙なく終わった。生徒会長による在校生代表の挨拶や校長先生の話など、世界が違えど行う内容はほとんど似通ったことが多いのだなと思う式になった。まあ、肝心の話の内容はほとんど覚えてないんだけど。


 というか、そんなことよりも生徒会長の容姿端麗さにびっくりして腰抜かすとこだった。多分、話を覚えていないのは9割くらいこれが原因だろうね。


 出る所は出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいる。美しく細く長い脚に、小さい顔、作り物のような美しさだというのに不気味さはなく、その表情は柔らかい。


 はっきり言ってスペックが高すぎる。


 貞操逆転世界では、女性が限られた数の男性を虜にすべく容姿端麗に進化してきたという歴史がある。DNAにも刻まれているこの覆せない遺伝子は、この世界のビジュアルの平均値が如何に高いかを裏付ける証拠だ。


 そんな世界でも屈指の美女。それが、僕が抱いた生徒会長への第一印象だった。


「おにい、高校の入学式はどうだった?……変なこと言ってくる人とかいなかった?」


 そして僕は今、入学式も終わったため自宅へと帰宅していた。

 女装を解き、いつもの男物の部屋着に身を包んでリビングのソファで寛いでいる。


「いたよ」

「いたの!?」

「うん。初手でナンパされたんだ」

「初手でナンパ!?」

「『君かっこいいね』って。今までこんなこと言われたこと無かったからびっくりしちゃったよ」


 意外とフランクにナンパされるんだなって思ったね。

 人生で初めてのナンパの経験が女装している時というのが複雑な気持ちだったが、嬉しかったことには変わりない。


「……そ、そっか。おにいって、容姿が整いすぎている上に性格まで普通の男子とは違かったから、だから今までおにいと接してきた女子たちは脳がフリーズしておにいに対してアプローチすらできなかった。でも、女装をしたことでそのハードルが下がっちゃったのか」

「……何か言った?」

「いや、なんでもない」


 妹が何やら神妙な面持ちでぶつぶつと呟いているが、僕がナンパされたことってそんなに重大なことだろうか。

 

 そうか、学校生活でも女装を勧めてきたのは他でもない陽彩だったじゃないか。なるほどね、僕が学校でモテ始めていることを喜んでくれているんだね。

 安心して陽彩、まだ1日目だけど僕の高校生活は至って順調に進んでいるよ。


(でも、それは逆に言えばおにいは学校で完璧な女子として振舞っていることを意味する。確かに、女装姿でもおにいは魅力的だけど変な虫が着く可能性は普段のおにいに比べれば十分低い……)


 陽彩が凄く考え事をしている。

 ま、あいつにはあいつなりに何か思うところがあるのだろう。


「とはいえ、高校デビューは成功だな。今日知り合った天野さんだって結構フランクに接してくれたし。なんか、こういう友達は初めてできたかも」

「あー……。おにいって、男の子の友達もいなかったもんね……」

「ようやく時代が僕に追い付いたんだよ」

「おにい……それは違うよ。おにいが時代に合わせたんだよ」


 クリティカルなことをいいよってからにこの妹は。ええ確かに、僕が最先端すぎる価値観を持っていたばかりに時代が付いてこれないのは仕方ないことだ。だから、妥協案として女装をすることで時代に適合したんだよ。


「陽彩の提案のおかげで、僕の学校生活もバラ色間違いなしだし、そこは感謝してるよ」

「ふふん。いくらでも感謝してくれていいよ」


 さてと、そろそろ時間かな。


「あれ?おにい、どっか行くの?」

「うん。今日学校で知り合った天野さんに誘われて遊びにね」

「遊びに!?お、おにいダメだよ。外は危険だって何度も言ってるでしょ!?」

「それは今までの僕の場合だろ?大丈夫、僕は今女装をしてるわけだから、危険なことは無い」


 男が1人で外出するのは危険が伴う。それはこの世界の常識だ。だから、僕だって今まで単独での外出は出来なかった。痴女とかの被害に遭う可能性があるからだ。


 でも、僕はこれから外出時は女装をする。


 モテるためという主目的こそあれど、こういった副次的効果を齎してくれるのだから女装はいいものだ。流石に、同性相手を性的に襲おうとする人は少ないはずだし。いないとは言わないけどね。


「……それでも、心配は心配だよ」

「だーいじょうぶ。そもそも、友達と会う約束をしてるんだから何も1人って訳じゃないし」


 それに、僕だって今までこの世界を生きて来たけどそう言う目線を向けられる事なんてほとんどなかったんだよね。どちらかというと、畏怖?とか敬意?とか、そう言う性的なこととは欠片も関係ない視線なら向けられたけど。


「何かあったら連絡してよ」

「それはもちろん。ま、どうせ杞憂に終わるけどね」


 僕は陽彩を宥めながら、外出用の私服に着替えるために自室へと向かった。

 今こそ今までの成果を見せるとき、僕としてはモテることが目的なんだし陽彩が懸念していたことがまるで起きない方が不満なのだ。


 天野さんが言うには、もう一人友達を連れて来るみたいだし一層気合を入れる必要があるね。

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