第4話 自信
なんか、今まで接してきた感じと全然違う。
やはり女子同士と言うことが互いの壁を無くしているのだろうか。
……ん?いや、僕はモテるために女装をしているのだから、天野さんはこの状態の僕のことを性的な目で見ているはずなんだ。と言うことは、やっぱり前世基準での女らしさを身に付けたことでフランクに接してくれるようになっているわけか。
ややこしくなってきた。あんまりこういうこと考えるのはやめよう。
「てかさ、れんちーって結構モテるっしょ?」
「いやいや、全然」
モテなかったからこんなことしてるんだけどね?
「うっそだー。その見た目でモテないは無理があるって。まるで男の子みたいだもん」
「そ、そう……?」
今までそんなこと言われたこと無いんだよね。当たり障りのないことを話して、どことなく距離感を保たれながら世間話に興じる。それが今までの僕の人間関係だった訳だけど、やっぱり女装を始めて理想の男性に近づけてるのかな。
「ほら、あそこにいる男子を見て」
天野さんはそう言って僕の肩に触れ、真横に来る。
距離が近い!
今までこんなゼロ距離で女子と接したこと無かったから僕自身どういう反応をしたらいいのか分からない。ああなんかいいにおいする。体がぞわぞわして落ち着かない。
「……どうしたのれんちー?」
「……ハッ!い、いや、なんでもないよ!うん……。何も問題はない」
「そう?ならほら、あそこの男の子いるでしょ。ウチのクラス唯一の黒一点」
「うん。いるね」
窓際の席で黄昏ている一人の男子。体格は華奢であり、この世界でも標準的な男性という感じだ。前世の常識と比べると髪も伸びているし、何よりあまり筋肉質ではない。
この世界、男女比が狂っているからなのか男性ホルモンがあまり主張していないような気がする。僕だって、この歳になって髭はおろかすね毛すら生えていない。
「彼の名前は
いや怖い怖い!なんでそんなに詳しいんだよ。ストーカーの一面が見え隠れしてるって。
「な、なんでそんなに知ってるの?」
「……え?いや男について調べるのは女として当然でしょ?これくらい調べておかないと彼のお嫁さんにはなれないよ?倍率高いよ?少なくとも100倍」
なりたくないよ別に。僕は別に同性愛者じゃないから。
……でもなるほどねぇ。貞操逆転で男女比が狂ってる世界だとこれくらい常識なのか。
だったらなんで僕はモテなかったのかな!?そんなに前世基準の男らしさってこの世界じゃ受け付けてないわけ!?
「れんちー、あんまり晴翔きゅんに興味なさげ?」
「い、いや人並み程度の興味はあるよ」
数少ない同性としてね。
というか『晴翔きゅん』って。彼はアイドルか。……いや、このクラスだと下手したらアイドル以上の存在なのか。
「その割には反応薄くない?……もしかして、れんちーって女の子が好きだったり?」
そうだが?
というか僕は君たち女子にモテたくてこんなことしてるんだからね?もういっそのこと僕が男だってカミングアウトしてもいいんだよ。
でもね、そんなことをしたら小、中学時代と同じようなことになるのは明らかなんだよ。それに、この姿の方が天野さんみたいな女の子に話し掛けられることは証明されたからね。
「もし、僕が女の子が好きって言ったらどうする?」
「結婚してください!」
「えっ」
そんな大声で求婚しないで!というか、腰を直角に曲げてまでアプローチしなくていいから!ほら、クラスのほとんどがこっちに注目してるって!
冗談のつもりで言ったのにこんな返答が来るとは思わなかったんだけど。もしかして天野さんも冗談のつもりで言ってる?……いやそれにしては気迫がありすぎる。ガチだこれ。
「お、女の子同士の結婚って、ハードルが高いんじゃないかな?」
「……何言ってるのれんちー。もしかして、父親家庭だな!?だからそんな、結婚は男女がするものっていう常識を持ってるんだな!?この勝ち組め!」
「え、えぇ……」
「いい、世間知らずでお嬢様のれんちーに教えてあげる。あたしたち女は、限られた人間しか男と結ばれることは無い!一夫多妻なんて焼け石に水!あぶれる人はあぶれるの!」
お、おう……。とんでもない気迫だ。両肩を掴まれてグラグラ揺らされては首を縦に振るしかない。
「だから、同性婚なんて当たり前!ましてやれんちーみたいな娘なんて下手な男子よりも人気なんだから!」
「そ、そんなことあるのかな……」
「ある!見な、クラスのみんなの目線を!今の一言でれんちーにワンチャンあるって思っちゃった獣の目を!」
そう言われて、僕はチラッとクラスの様子を窺ってみた。
全員という訳ではないものの、所々でこちらを窺う女子の目が見える。チラチラとこちらを窺ってくる様はまるで獣。
ああ……。前世で胸をちら見されてた女子の気持ちってこんな感じなんだろうな。ごめん。前世のあらゆる女子の皆さん……。
でも嬉しい。モテているという実感が湧く。これまで悉く打ち崩されてきた自信というものがみるみる回復していく感覚がする!
「なにニヤニヤしてんの!?本気にするよ!?いいの!?」
あり得ないほどの気迫でそんなことを言われたけど、モテているという実感によって取り戻した自信を武器に、僕は少し悪戯をしてみることにした。
練習した蠱惑的な笑みを浮かべて、天野さんから見て最高の角度を維持しつつ色気を出す。
「ご想像に、お任せします」
「はう……!」
天野さんは気絶した。
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