第3話 高校デビュー
中学最後の春休みも終わり、今日から高校生活がスタートする。
男性である僕には、あらかじめ職員の人との面談が予定されているけれど、そこで僕は女装姿で登校することを申請した。
僕としては、学校でまで女装する必要は無いんじゃないかと思ったけど、理想を突き通すのなら学校でもその姿でいるべきと陽彩に言われてしまったのだ。そりゃもう熱が籠っていたよ。
なるほどね。モテるためには日常生活から女子力を磨くべきなのか。
僕は妹の熱弁に頷いて、学校生活も基本的に女装をして過ごすことにした。
面談の最中、なんだか、母さんと担任の先生が意気投合していたけど、そんなに女装姿でいることが良いのだろうか。先生なんて、「絶対にその方が良いと思います。女装とは……盲点でした」なんて感心している位だ。
いや何が?何が盲点なの?
というか、母さんは僕が女装姿で登校する理由についてなんて説明したのだろうか。僕からは、良い感じに誤魔化しておいてと言ってあるんだけど……。
まあなんでもいいか。
と言うことで、今日は入学式である。
新しい学校、新しいクラス、新しい友達。女子用の制服に身を包むという違和感を抑えて、僕は教室へと入った。
やはりと言うべきか、40名ほどいるクラスのほとんどが女子だ。僕を除いて38人くらいは女子で、男子は1人しかいない。共学とは言え、男女比1:10の世界は凄い。
え?男女比の割にはこのクラスは2:38の割合じゃないかって?
その理由は至極当然で、高校からは義務教育では無くなるからだ。自分の息子を共学に入れようとする保護者も少なくなって、必然的に高校の男子の数は減るのだ。大半が男子校に進んでしまうからね。
僕?僕はおねだりして共学に進ませてもらったよ。貴重な体験ができるからという理由で押し切った。母さんも最初は反対していたけど、僕の熱意に負けたみたい。
というか、自ら共学に志願してくる人ってどういう考えでやって来るんだろうか。やはり僕みたいにモテたいからとか?……まあ、実際のところは学校が設けている男子に対する特別待遇目当てなんだろうけど。
慣れない女子制服に身を包み、下半身に感じる通気性の良さに怯えながらなんとか僕は指定された座席に座る。
鞄を置き、一先ず椅子に座ることができたという安心感から一息つく。全身から僅かに力が抜ける感覚がする。
幸いにも、クラスの雰囲気は僕を除いた唯一の男子学生の子に対する注目で溢れている。誰も表立って彼のことを話してはいないし、ガン見しているわけでもないのだけど、空気感というか、そう言う雰囲気が漂っているのだ。
そう言うこともあってか、入学初日から僕が男であるとバレると言うことにはならなかった。
「ねえねえ、君かっこいいね」
「は、はい?」
「あたし
突然、隣の席の金髪女子から話し掛けられた。というか、第一声が君可愛いねって……ナンパか。女装姿の僕相手に初対面ですることがナンパかい。今までこういう話し掛けられ方をされたこと無かったのに。
……はッ!なるほど、やはり女装することで魅力が上がるというのは間違ってなかったんだ。僕は今まで男の姿でいたにも拘わらず、一度もナンパされたことがない。だけど、女装をした瞬間にナンパをされた。
陽彩、君が女装を強く勧めていたわけが分かったよ。
心の中で妹に感謝しながら、僕は今まで学んできた理想の女子(前世基準)として応対する。
爽やかな笑み、人当たりの良い印象を与える声の抑揚。それらを意識する。
「僕の名前は井垣蓮。これから一年間、よろしくね」
「お、おお……。ボクッ子でボーイッシュ、それに男の子っぽい名前……。イケメンだとは思ったけど、ここまでとはね……。この天野の目を以てしても見抜けなんだ」
「え、えっと……。大丈夫?」
思ってた反応と違うんだけど。
天野さんは額を抑えながら下を向いている。一体何があったというのか。
「だいじょぶだいじょぶ。ちょっとれんちーに男を見出してただけだから」
男だよ。
「凄いこと言うね。それに……『れんちー』っていうのは?」
「ん?そりゃあだ名だけど。もしかして気に障った?」
「ああいや、あだ名ね。うん。僕、今までそういう風に呼ばれたこと無かったから」
「マ?えーそうなんだ、いがーい」
距離感の詰め方が今までにない!あだ名なんて前世以来だ!なんかすごく嬉しい!
というか、女子同士の会話のやり取りってこんな感じなんだね。なんか接しやすいというか。……いやそりゃそうか。だって彼女たちの価値観は前世基準で言う男性的なものなんだし、男である僕が接しやすいと感じるのは当然か。
「というか、れんちーってほんとに男の子っぽい名前だよね。もしかしてさ……」
そう言いながら探るような目をして語り掛けてくる天野さん。
まずい。僕が女装していると言うことがバレたか。そう思って焦る。
「親が男の子に憧れて名前付けた感じ?いるよねーそう言う子。……あ、こういうのってあんまり触れちゃいけない感じだっけ?ゴメン!今のは忘れて!」
え、そんな常識あるの?というか、あるあるなの?
僕そんなこと知らない。へー、世の中には男の子に憧れて名前を付ける人が居るんだ。そして、それってあんまり珍しいことじゃないんだ。
「別に気にしてないから大丈夫だよ」
「マジ?なら助かるわ。てかさー聞いてよれんちー」
「ん?」
「巷では今年って、この学年に4人も男子が入って来るって噂だったんだよ」
「へえー」
「でもさ、あたしの情報網をいくら駆使しても3人しかいないことになってるんだよね」
どんな情報網なんだそれは。
「今のところ有力なのは、男に飢えすぎた結果集団幻覚を見た説が濃厚。グループチャットでも一先ずその説が支持されてる」
え、僕の扱いそんなことになってんの?まさかの幻の4人目なんだけど。
というか棄却しろそんな説。
「まさか、男との接触が今まで無かったからって無に男を見出すことになるとは思わなかったよね」
性癖が高度すぎるよ。無に男を見出すって何。
「ははは……。なんか、七不思議みたいだね」
「あ、それ採用」
採用?
「怪奇!存在しない第4の男子生徒!乙女たちが見た集団幻覚!」
「結論出ちゃってるよ。集団幻覚だって。それじゃあ七不思議にはならないって」
「もうチャットで共有しちゃった」
「……どんな反応なの?」
「『草』」
適当に返事するときのやつじゃん!その七不思議絶対採用されないって!
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