第2話 家族の反応

 ある程度、女装に対する勉強もできた。

 女性向けの服を買い揃え、化粧の仕方を学び、仕草や表情なども訓練した。その結果、僕は立派な女の子への変貌していた。


 いやなんでだろう。


 鏡を見ればかわいい女の子がいるんだ。そしてそれは僕なんだ。

 頭がどうにかなりそうだよ。今ほどこの容姿で生まれてきたことを呪った日は無い。なんでこれが自分なのか。可愛すぎるって。


 前世を知っているからこそ、今世のビジュアルの良さと言うものが客観的に観察できる。これは、自意識過剰とか、ナルシストとかそういったことではなく、純粋にかわいい。あまりにも中性的すぎて男と思えない見た目をしているが、女装が完璧にできたことを今は喜ぼう。


 見た目はボーイッシュな王子様系女子。スラッとした体躯に、女子としては短く切りそろえられた髪の毛。ある程度機能的で、ある程度おしゃれな服を全身に纏っている。


 付け焼刃とは言え、母と妹に教わりながら行った化粧は正に完璧。素材の味を存分に生かしつつ、しかし化粧が主役となっていない絶妙なバランス。


 360°どこを切り取ったとしても完璧なボーイッシュ女子である。


 僕は歓喜した。これならば必ず、今世の理想の男子になることができる。これほどのポテンシャルを持っているのだ。これは生かす必要がある。全力で挑まなければ宝の持ち腐れだ。


「す……すごいよおにい……。完全に女の子なんだけど、でも男の子であると否定しきれない絶妙なライン……!おにいがこの姿で同じクラスにいたらクラスの半数は堕ちてるかも……」


 隣にいた妹が戦慄している。

 なるほど、やはり女装をすることで女子力を磨くことができるのは間違いなさそうだ。僕が女装をしただけで、クラスの半数が堕ちるなんてやはり女子力を磨くには女装は必須だね。


「でもおにい、何で女装なんてしようと思ったの?」

「それ、お母さんも気になるわ。蓮くんが女装に目覚めるなんて、何かあったの?」


 母と妹から女装の理由を聞かれる。


 別に正直に言っても良いのだが、この世界は貞操逆転世界。モテたいなんて公に言うと、過保護な二人は反対するに違いない。ここは、まあ適当に濁しておくのが良いだろう。


「ああ~……。いや、この方が都合が良くて……」

「「ああ~……」」


 なんか同意を得られたんだけど。それもちょっと呆れ気味の。え、何、何でなの?


(蓮くん、モテるから女装することで他の女子からの目線を抑えようとしているのね)

(おにいって結構策士だね。でも、その選択は間違ってないかも)


 ひそひそ声で話さないでくれますかね!気になるから!


 とは言え、秘密のやり取りの内容を聞こうなんてことが僕にできるわけもなく、気にはなるけど僕には聞かせたくないような内容だろうし、あえて詮索することはしない。


「それにしても、本当に似合ってるね。……はっ!」

「え、なに」

「分かったよ、おにいが女装をするようになった最大の理由が!」

「ほんとになんで」

「すなわち、高校の入学が控えているからだね!」

「……ッ!?」


 あ、中らずと雖も遠からず……。なんと言うことだ、都合がいいからとしか言っていなかったのにすぐにバレるなんて。流石血縁だ。

 高校の入学と同時に女子力を高めることができれば、高校デビュー待ったなし。そう言った思惑があったのは否定できない……。


(小学校と中学校はおにいの魅力が強すぎて、性欲すらそそられなかった人がほとんどだったけど、高校からはそうはいかないからね。流石おにい、自己防衛ができてる)


 なんか妹が満足げに頷いている。僕のモテたいという目的を理解してくれたのだろうか。まさか、それに気づいて母さんには言わないでおくという意思表示か!?


 なんというできた妹なんだ。僕は感激だよ。


「僕のことをよく分かっているね、陽彩ひいろ。流石僕の妹だ」

「……!?!?そ、そうかな?ま、まあ、私はおにいの理解者だからね!こんなの当然だよ」


 うんうん。

 よくできた妹がいて僕は嬉しいよ。こんな世界だから、男性が過剰に保護されて僕はちょっと辟易していたんだ。だけど、これほど自由にさせて貰える家族に恵まれて本当に良かった。


 なんだか母さんの陽彩を見る目が若干厳しくなったような気がするけど気のせいだろう。


「さてと、どうだろう。女の子っぽい立ち振る舞いも勉強してみたんだけど……」


 膝をやや内側に向け、顎は引く。

 守ってあげたくなるような小動物感を醸し出すことを心がける。


「おにいのビジュアルなら、王子様系を狙った方が良いと思う。もっと凛とした雰囲気を出せると良いんじゃないかな」

「なるほど……」


 確かに、かわいいにも種類があるもんな。僕に似合う可愛いを追求しなければ、どことなく違和感がある立ち姿になってしまう可能性もある。


「じゃあ、こうかな?」

「もっと自信家っぽく!」

「こう?」

「ちょっと凛としすぎかも!可愛らしさを演出して!」

「こ、こうかな……?」

「いい感じ!でももっと髪の毛を気にして!」


 なんか、陽彩のスイッチが入ってしまったみたいで、彼女の性癖を一身に受けることになってしまった。

 しかし、この訓練の結果、僕は最高の女装姿を獲得するに至った。


 最後は、二人とも目が溶けていたけど大丈夫だろうか……?

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