貞操逆転世界で女装する男の話
ねうしとら
第1話 理想の男性像とは
モテたい!
突然だが、僕はモテたい!
貞操観念逆転世界、男女比1:10の世界に転生して早15年が経過しているというのに一向にモテない!
中学時代は女子との接触もしようとこちらからアプローチをかけたりしたというのに、全く見向きもされなかった!なぜか、その原因が今分かった!
☆
僕の名前は、井垣蓮。なんの因果か男女比1:1の世界から転生して、男女比1:10の狂った世界へと生まれることになったラッキーボーイである。
前世はパッとしないオタク人生を歩んできた僕は、人並み以上の異性への憧れと性欲を携えていたれっきとした男であったが、彼はどこまで行ってもナードであった。他人へのアプローチはせず受け身であり、かと言って人間関係を深堀することは無く、必要以上の干渉を恐れ、一人の方が楽しいと嘘を吐き、インドア趣味を楽しんできたオタクであった。
無論、そんな人生が楽しくなかったわけではない。しかし、彼女がいればもっと楽しかったのではないか。異性とのコミュニケーションってどんな感じなのだろうかという憧れは強かった。
そんな僕が、転生を果たした。死亡理由はただの交通事故である。
何度もラノベで読んできた展開に、僕は大興奮。転生先が現代日本であったと言うことに気づいたときはややテンションを下げたが、ここが貞操逆転世界だと気づいたときは僕の人生で一二を争うほどの興奮を見せた。
男であるということが魅力に直結する世界。ただ生きているだけで勝ち組である世界に生まれた僕は、自身の両親に最大限の感謝を込めて、この世界でハーレムを築いてやろうと決意を固めたのだった。
だけどモテなかったんだよ!小、中学時代はちゃんと女の子と接してきたし、男としても振舞ってきた。周りがほとんど異性であるという圧倒的アウェー感に堪えながら、男磨きをしてきたはずなんだ!
幸いなことに今世の僕はイケメンの部類に入るほどには容姿が整っている。中性的すぎるきらいがあるけど、そんなのはどうってことないくらいには顔が整っていたんだ。
そんな僕が、モテるために色々な本を漁って、ネットの意見を参考にして、時にはネット掲示板すら見て女の子にモテる男を演出してきたはずなのに。
いや、確かにこれまで話し掛けられることは多々あった。だけど、それらすべては友達としての接し方であって、恋をしているような素振りは一切なかったんだ!
……だけど、僕はこの原因について見当が付いた。
それは、僕が磨いてきた男としての魅力というのは、全て前世基準であったと言うことに。
今考えれば可笑しかったんだ。この世界で異性にモテるための自己啓発本やネットの意見は全て女性向けなんだよ。態々この世界の男性がそんなことをする必要は無いからね。
貞操逆転世界で、女性向けに発信されている情報を男性である僕が真面目に受け取った。それすなわち、前世基準で言うところの男らしさを磨いていただけなんだ。今世基準での女らしさともいう。
確かにそうだった。僕が間違っていたよ、なんでこんな簡単なことに気づかなかったのだろう。それに、僕自身男とはこういうものだという常識が、前世基準の物になっているというのは否めない。
前世の男らしさというのは、言ってしまえば今世の女らしさ。そりゃモテないよ。前世では、男勝りな女の子も一定の需要はあったかもしれないけど、大衆受けするのは守ってあげたくなる女の子だ。
僕はこれまで男として見られていなかったんだ。そう、アイツはそう言う目で見られない。とか、アイツとはそう言う関係じゃないからとか、そんなポジションにいた訳だ。
何でもっと早く気付かなかったんだろう。
だけど、僕は完璧な対策案を思いついた!
それは……。
女装をする!
何を馬鹿なことを言っているんだと思われるかもしれない。しかし、これは真面目な対策なんだ。そもそも、僕は前世基準で物事を考える節がある。それはそうだ。今世よりも前世の方がまだ長く生きているからね。
だから、そんな僕が今世の男としての魅力を磨くのならば、前世の女らしさを身に付ける必要があるのではないかと。そう思ったのだ。
どうだ、理に適っているだろう。
考えてみれば、今世の男の人は下ネタを嫌い、女の子を敬遠し、なよなよしていて消極的というのが当たり前だ。僕をしてそれは男としてどうなのって思うくらいだ。
まあそもそも、この世界の男の人っていうのは大半が女性恐怖症の傾向があるんだけどね。まあ気持ちは分かる。周りは異性しかいないのに、そのほとんどから性的な目で見られるというのは恐怖でしかないだろう。僕は前半こそ経験したけど、後半のことは経験したこと無いけどね。
だが、女装をすることで女子力──今世にそんな言葉は無い──を磨くことで、理想の男性になることができるのではないか。
何を言っているのか自分でもややこしくなってくるが、まあそういうことだ。
僕が考える理想の女子を演じることで、この世界でモテモテになること間違いなし。この世界の女性が見れば拍手喝采、感動のあまり誰もが身も心も捧げる男になることが出来るのだ。
何も形から入る必要は無いだろうって?
甘い!甘すぎるよ。例えるのならクリスマスを待たずしてシュトーレンを全て食べ尽くしてしまった時くらいには甘い。
僕は完璧な女子力を身につけると心に決めたんだ。それなのに、乙女としての衣服すらも分からない。そんなことではこの先やっていけないよ?
そんなぬるい世界じゃないんだここは!貞操逆転世界だからと言って努力を怠った者から死んでいく。ここはそういう世界なんだよ。
さて、ということでまずは女装のための衣服を調達するところか始めよう。まあ、このご時世便利な通販サービスが沢山あるし、僕に似合う女性向けの衣服だってあるだろう。
お金なら政府から支給されている補助金が十分にあるし、何も憂いはない。
僕たちの戦いは、これからだ!
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