銀世界より
「本当に、山を出なくて良いんだね?」
長老の言葉に、私は決意を込めて頷いた。
あの日から、二か月が経った。
あの日、彼は一方的に愛を囁いた後私の腕の中から消えた。
彼が消えた瞬間、土砂降りの雨は吹雪へと姿を変えた。吹き荒れる雪は、一日のうちに山を純白に染めあげた。
急な山の気候の変化に村人たちは動揺していた。しかし、もうこの山の気候は元に戻らないから住む場所を移すべきだと言えば、私の只ならぬ様子とカーンの失踪に何か察するものがあったのか、皆何も言わずに賛同してくれた。
雪山の中の移動はとても大変で、村人たちは一家ごとに山から出て行った。あの騎士たちが王に話を通したようで、村人たちが新たに暮らす場所が提供されたのだ。
そして、最後に残ったのは長老と私。
長老は最後に山を出る気だったのだろう。私がここから出る気がないと伝えると、必死に付いてきなさいと言われた。しかし、私にはこの山から出られない理由がある。私が頑なに首を縦に振らないのでついに長老も折れ、数日振りの快晴である今日、彼は山から出発するのである。
「凍ってる場所もあるでしょうから、どうか気を付けて」
「ウーリントアも、凍え死ぬ前にここを出るんだよ」
長老の言葉に曖昧な返事をする。彼は怪訝な顔を浮かべたものの、小さな体で歩みながら山道を下りていった。
服の中から、トパーズのネックレスを取り出す。
「捨てていくのは嫌だし、山の外に持っていくと雪国になってしまうものね。またいつかあなたが弱って現れた時のために、これは私が大切に持っておくわ」
ネックレスを服にしまい、私は家への帰路につく。
水の精霊が凍り、恵みの雨は吹雪へと姿を変えた。
降りしきる大雪は、この山に純白の光景を描き続けている。
ああ、なんと美しき銀世界。
——忌々しい。
銀世界より 霧切酢 隼人 @kirigirith_sp_2
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