学校のかぐや姫の秘密を知ったら恋が始まったんですけど!?
彩世ひより
第1話 ぼっちだもの と みつを先生が言った(言ってない)
相互理解とは片方の妥協があって始めて成立するものであると、夏野遥は黒板の上記に記されたクラス目標を眺めながら考えた。
休み時間に友人と会話もせずに、恐らく誰も熱心に眺めてなんかいないであろう色紙を眺めて、そんなことを考えているんだから、控えめに言って友達はいないとみんな察することだろう、モチのロンである。
平穏なクラスルームにおいて孤独感に苛まれているのは、偏に私の人格に問題があり、関わり合いたいと思う人間がいないからであろう――新入生として青葉ヶ丘高校に入学した私が必要最小限のコミュニケーションしかとらずに六月を迎えたのは、人間としての何かが欠落しているとの評価がクラスメイトの間で蔓延しているからに違いない。
まったくもって事実なのだから否定はできない。
(このまま一年、教室でぼっちに過ごしながら終わっていくのかな……?)
特別親しい相手がいないというのは、クラスで嫌われているよりもたちが悪いと思う。
なんかハブにして申し訳無いけど、だからと言って誘うのも細かいことを槍玉に挙げて悪くあげつらうのも、そのどちらに置いても中途半端というのは、夏野さんって名字は知ってるけどそれ以外のことは何も知らない、アルバムを見ても何も思い出せない――私から見て、そんなやつを相手にするのは骨が折れると思う。
地雷がわからない相手とコミュニケーションを取るってのは苦労がいるし、苦労をして交流をするほどの価値もないのは自分でも分かっている。
(だから気にしていない。むしろ気にさせたら申し訳無い)
漫画やラノベでありがちな一人きりで過ごす時間を大切にしようとも考えない。
万が一にもこの夏野に用事でもあったらどうするというのだ――まあ、未だかつて簡易な頼み事以外に用事を賜ったことないからこその立ち位置なのだから、保健室ソムリエになったり、立ち入り禁止の屋上とか、それに向かう人通りの少ない場所にいたところで、誰一人困ることはないだろう。
(クラスの誰しもが知り合い止まりで、深く交流することもない――好かれているわけでも、嫌われているわけでもない……いいじゃないか、にんげんだもの)
相田みつを先生に聞かれたら殴りかかりそうな雑なにんげんだものを心に思い浮かばせつつ、チャイムが鳴るのを聞いていた。
※
夏野遥は放課後はコンビニでバイトするケースが多い。働き始めの時期には「友人との約束でダブルブッキングしたらどうしよう」とか考えていたけど、テストの時期に特別休ませていただくくらいで無遅刻無欠勤である。
高校生らしからぬクソ真面目さと店長にお褒め頂いている――
バイトに応募して履歴書を片手にいざ面接となったときには、それはもう怪訝な反応をされたものである。
それは「週に一回しか働かないし、時間も三時間」「まったく仕事は覚えないし、やっていても不真面目」な感じの女に見えたかららしい。
そう見えてしまうのは私の外見に問題があるので「初対面から内面を判断してくれ」などとたわけたことをのたまうべくもなく「本当に嫌な顔ひとつせずにだいたいのことやってくれるけど嫌な顔できる?」と言われたときにも精一杯の嫌な顔を披露して見せた――常連のお客様から「あんまり夏野ちゃんいじめるのやめなよ」とクレームが入ったとか入らなかったとか。
コンビニバイトというのは多岐に渡り仕事があり、妹から「コンビニバイトって楽なんでしょ?」と言われていた手前「そうそう楽だしとっても楽しい!」と返答しているけど、そんなことはまったくない。
同時期に搬入をされた物品でも異様なまでに奥から取ろうとするお年を召した方々、今までトイレを利用されたことがないのでは? と勘違いするような利用方法で利用をされる方々、クレームスキルに全振りして店員を困らせるために生きているのではないかって人々――レジの応対でありがとうと返されるだけで「神では?」と思ってしまうくらい変な人は多いし、仕事は山のようにある。
お客様の共通認識として店員はアルバイトを含め店の全内容を把握しているものとの認知があるのか、分からないに関しては不平不満の吐露がまた激しく、二度とクレームを言われないようにと努力していても、信じられないようなことを言われるケースがある。
店長が愛想が悪いので夏野さんにレジの応対をして欲しい――その言葉で冷蔵ケースで飲料の補充をしていた私が呼び出されたことがある。
お客様は満足されて帰宅をされたけども、彼女と二人きりにされてしまった私は何も言えずに愛想笑いを浮かべて飲み物の補充に戻った……もちろん、店長になんの累もなく愛想が良いのにそう見えるとかならば文句のひとつも言えようが、店長の愛想が悪いのは漫然な事実であり、他店の前の灰皿を利用してのおタバコ休憩はいつものことくらいの扱いである。
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