第2話 かぐや姫の生まれ変わりってなんなの?(なんだろう?)
仕事中なのに何も言わずに店長がいなくなっている――気がついたら店員は自分しかいない状況下で私は珍しく同じ学校の制服を見かけた。
青葉ヶ丘高校からも遠く、今まで利用者なんて見かけたことすらなかったので「もしもクラスメイトにあったらどんな応対をしよう」との考えが杞憂になるだろうと思っていたけれど……。
(まずい、深夜に考えたクラスメイト応対マニュアルがまったくの無駄になる……思い出せ……)
学生は入店しても一通りたむろしたところで何もせずに(一回懐に何か忍ばせて店長が突っ走ったことがある)出て行くことばかりだから春川さんがレジに品物を持って来ない可能性もある。
(てか、春川さんってコンビニ行くキャラだったんだな……)
私と同じ高校に通っている人間なんだから、よもや欧州の小国のお姫様でなし、異世界から訪れたプリンセス、高潔たる一族のご令嬢……それらの風評と合致するバックグラウンドを持っているとは考えなかったけども、一縷の可能性どころか一割方マジモンの貴族ではないかって。
(さすがはかぐや姫の生まれ変わりとかアホなこと言われる美少女だ、間違ってもモンスターをレッドブルで割ったのでキューピーコーワゴールド丸呑みとか絶対にしない……)
名前が輝夜で黒髪ロングだからかぐや姫の生まれ変わりってのは、はいはいってリアクションで済ませちゃうけども、ヒエラルキーのトップにいる生徒すら一目を存在で、誰しもから注目を集めており、体育の前のお着替えでは彼女に見とれる生徒が多発し……雑草レベルの認知度しかない私が話しかけるなんぞ恐れ多い。
スポーツ万能、学力優秀、決まった部活には所属してないけれども勧誘の手は枚挙に暇がない。
(まさかこんなタイミングで校内の有名人と話しかけるタイミングが生じるなんて……あ、お客様が来る)
仕事を覚えているのと同時に同じ時間に顔を出すお客様が何を買ってどのタイミングでレジに向かうかを把握できるようになってしまった――時折、セルフレジに行って杞憂に終わることもあるけれども、お待たせするよりもこちらがみっともなく空ぶった方が心証も良かろう、親切を押し売りするわけじゃないからあくまで何気なく、だけども。
補充と整頓をかねた陳列作業の手を止め、ホットスナックのなにがしを観に来たフリをしつつレジに入り、先ほどまで外部で作業をしていたからちゃっちゃか手を洗って、こっち来るかなーと考えつつ揚げ物の位置を調整する。
「ありがとうございましたー」
が、この時間に毎度いらっしゃるお客様は今回はセルフレジでのお会計――レシートや釣り銭のトラブルも発生しなかったし、アレコレと指示しないと分からないとごねるタイプの方でもない。
カップに並々と注いだコーヒー片手にサイズ間違えたと反省の色もなく話しかけるような人でもない……あ、私はお客様に何もかんもやらせるのはなんかアレなタイプ、特にコーヒーの類。
「いらっしゃいませ」
なんてアレコレと考えているとレジに人の気配を感じたのですぐさま店員スマイルを浮かべて決まり文句を述べてから作業に入る。
お客様がお運びになるものは宅配でもない限りは店内にあるものであり、言い換えれば需要がある商品。
なので内容に関してアレコレ言うことは店員としては不遜である。
(……分かってはいるけども、大量に来るとビックリするな)
アニメ漫画ソシャゲVTuber等々、コラボ商品が展開することが多いコンビニ業界、深夜業務に赴いたことがないためか、いわゆる箱買いに類するものを体験したことはなかったけども……。
ネコ娘プリティプリンセスはトラ猫キジ猫等のネコをモチーフに美少女化したキャラを育成し、高いゲーム性と中毒性を誇り、石油王なのかってレベルの課金者もいるとかいないとか。
店長やパートの方々などはいつもの商品にアニメキャラプリントしたもんくらいの認知度で、私もそれに毛が生えたレベルの知識しかない。
なので驚きはするけど引くわけでもなく、いつものように楚々とした仕草で会計までの行動を取り、
「お会計は2万……」
とここで初めて商品を持ってきた人間を見て驚いた――仕事の時に「感情を処理できない人間はゴミだ」「かと言ってまるで分からないサイコパスもゴミだ」と店長に教えられ、愛想は良くするけども馴れ馴れしくせず、粛々と対応はするけど冷たくもなくを意識していたけれども、はじめてに近くそれが崩れたと言える。
が、店員である私も驚いたのと同時に、青葉ヶ丘高校のかぐや姫の生まれ変わりと名高い(褒め言葉か?)春川輝夜さんも店員がクラスメイトであることに気づいたようで「今さら無しとか言えないけど、ここでやあとか絶対に言えないわ」みたいな顔で固まっており。
「レジ袋はご利用ですか?」
「マイバックを持っていますので……」
最大限に頭を動かした結果、相手がまるで見知らない赤の他人であると認識し、精一杯の愛想を振りまきながら何ごともなかったようにいつもの対応をする。
普段なら「じゃあ入れますね」くらいのことは言うけれども、彼女は一目散にその場から撤退したそうだからお金をさっさと受け取りレシートと一緒にお釣りを渡す。
ふんづかまえるようにしながらコラボ商品を持っていき、脱兎の如く駆け出していく姿を見て
「ありがとうございましたー」
と、聞こえてはいないだろうけども言い……その数秒後に店長がタバコの臭いをくぐらせながら戻ってきた。
「おい夏野、アレは万引きか?」
「いえ……その、クラスメイトで……」
お客様相手に聞かれたら素知らぬ顔でごまかしたけども、尋ねた相手は私の上司でもあられる――タバコ休憩をしていても「私は手が離せない用事があると言え」と脅迫……いや、指示をされている私が「まったく身も知らぬ他人ですが、何か用事でもあったんじゃないですか?」とごまかすことなどできなかった。
「名前と住所とスリーサイズを知ってるか?」
「名前までしか分からないですね……」
「なぜだ、目視でスリーサイズくらい分かるだろ」
「どこで役に立つんですがその特技」
「ちなみに夏野は上からき」
「やめてくださいセクハラですよ!?」
気に入らない意見をハラスメントと言って攻撃する人たちのおかげで、ことハラスメントと表現することに価値が生まれ……肩身が狭い思いをすることも、良い思いをすることもあるけれども。
正当な理由がある場合は後で困難が待ち受けていようとも主張する次第。
次の更新予定
2024年12月30日 07:00
学校のかぐや姫の秘密を知ったら恋が始まったんですけど!? 彩世ひより @HiyoriAyase2121
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