では、あなたに呪いを

 あなたに呪いをかけるにあたって必要な事前説明を終えましたので、話を冒頭の手順に戻すとしましょう。


 お察しの通り、あの巫山戯た手順そのものにはなんの効果もありません。


 あれを馬鹿真面目に実行したとしても身体にはなんの不調も起きませんので、その点に関してはご安心いただければと思います。


 私は胡乱な手順を踏んでくれる「誰か」に呪いをかけたかったのではなくて、あの手順に対し特定の判定パターンを示す「あなた」を発見したかったのです。


 お気づきでしょうか? あの手順はすべてTrueかFalseで判定ができるものとなっております。


 あなたが手順を見た際に明確な意思を持っていなかったとしても無駄なことです。


 その判定はあなたの意思にはよらず、客観的に、機械的に行われるものなのですから。


 データは既に取得済みです。


 私は、判定パターンのうち、たった一つを指定して、それを返してきた「あなた」に対し、呪いをかけました。


 呪いは既に実行済みです。


 ですが、もう一度やはりご安心ください。


 判定パターンの組み合わせは2の20乗で1,048,576通りもあります。


 確率にしてしまえば0.0001%を下回り、一年のうちで交通事故に遭う確率よりも遥かに低いです。


 これを読んでいる読者の方が「あなた」に該当する確率は、ほとんど無視していいレベルのものになりますが、逆に言えばそれだけ強い指向性を持っているということになるので、「あなた」に呪いが通用する見込みは十二分に期待できます。


 でも、大丈夫です。


 私は「あなた」にただ呪いをかけてみたくなっただけで、「あなた」を不幸にしてやろうとか、そんなことは一切考えておりません。


 呪いの内容は、命に関わるような危険なものではなく、ささやかで、だけれども明らかに既存の常識では考えられないような結果をもたらすものに留めました。


 ですので、これはのろいというよりも、まじないと捉えてもらったほうがよいかもしれません。


 「あなた」に該当するパターン及び呪いの結果について、ここで具体的なことを申し上げるつもりはありません。


 TrueとFalseが交互に繰り返されるパターンかもしれず、あるいはすべてFalseであるかもしれず。


 偶然手に取ったお札の製造番号が4のゾロ目であるかもしれず、あるいは愛用の歯ブラシに四つ葉のクローバーが生えるかもしれず。


 それは起こってからのお楽しみというやつです。

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