人を呪わば

 結論から申し上げると、呪いの不発の原因は、指向性の欠如にあります。


 簡単に言えば、あなたに呪いが降りかからなかったのは、その呪いがあなたに対して向けられていなかったからということになります。


 呪いはあちらこちらに向けていいものではありません。


 それは倫理的に問題があるだとか、呪詛返しに気をつけろだとか、そういった意味ではなく、単に効力が薄まるからやらないほうがいい、という技術論的なお話です。


 呪いはなんでもありな万能の願望機ではないのです。


 人生がうまくいかないが故に「全人類を呪い殺してやる!」という結論に達し、ハチマキ巻いて地面をかつんかつんとやろうとも、それは糠に釘というものです。


 人力発電機によって生み出せる電気の総量に限界があるように、個人で扱える呪いの規模にも手段にも限りがあります。こと効率に関して言えば、呪いは開発されたての蒸気機関よりも劣悪だということを認めざるを得ません。


 人を呪わば穴二つ。どれだけ効率を極めようとも一対一交換が関の山では、インフレが進んだ現代環境では到底太刀打ちできません。端的に言ってアド損です。


 でなければ今頃呪いが科学に取って代わっていたことでしょう。人を殺すだけならば呪いよりも銃弾のほうがよほどコスパがいいのです。


 ですから、人を呪う時はきちんと狙いを定めて、指向性を与えてやる必要があります。


 不特定多数ではなく、個人へ向けて。


 読者ではなく、あなたへ向けて。

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