第3話
それから服やメイクを変えて再度撮影を行うも千鶴は全て一発で写真に収めて貰うことが出来た。
蒼央が新人モデルを撮影してこんなにもスムーズにいったのは千鶴が初めてのことだった。
撮影を終えてスタッフやマネージャーと話を終えた千鶴は、黙々とカメラを片付ける蒼央に近付き声を掛ける。
「あの、西園寺さん」
「何だ?」
「今日は、ありがとうございました!」
「別に……仕事だからな」
「西園寺さん撮ってもらえて嬉しかったです!」
「そりゃどーも…………アンタ、撮影初めてなんだよな?」
「はい」
「その割には堂々としてたな」
「そうですかね? なんて言うか、昔から何事にも動じないタイプとでも言いますか、緊張とかもしない方なので」
「へえ」
「それと、撮影してもらっている時、西園寺さんとレンズ越しで目が合ったような気がして、何となく、こういう表情が欲しいとか、そんな要求をされている気がして、気付いたら身体が勝手に動いてました」
千鶴のその言葉に蒼央は面を食らったように大きく目を見開いた。
「えっと、あの……私、変なこと、言いましたか?」
「……いや、別に」
「そうですか。あ、長々とすみませんでした。あの、それじゃあ失礼します」
「……ああ」
何事もないと分かると、安堵の表情を浮かべた千鶴は蒼央の元を去っていく。
そんな彼女の後ろ姿を眺めていた蒼央は、密かにある決意を固めていた。
「千鶴、お前凄いな」
「え? 何がですか?」
スタジオを出て迎えの車に乗り込んだ千鶴は、シートベルトを締めるなりマネージャーの
「今日の撮影だよ。お前は社長直々のスカウトだったからもしやと思ったけど、まさかあそこまでとはなぁ」
「え?」
「西園寺 蒼央だよ」
「西園寺さんが、どうかしたんですか?」
「千鶴は知らないと思うけど、西園寺はとにかく厳しいで有名なんだ。業界では【冷徹無比のカメラマン】と呼ばれてるくらいだからね」
「冷徹無比……」
「そんな彼がお前を撮る時、笑ってたらしいんだ」
「え? 笑ってた? それって、どこか変だったってことですか?」
「いや、そうじゃないよ。楽しんでたってこと」
「そう……なんですか」
その話を聞いた千鶴は何だか少し嬉しくなった。初めての撮影で右も左も分からなかったけれど、撮られている時間は自分なりに楽しめたし、そんな自分を彼が楽しんで撮ってくれていたと知ったから。
「私も撮影楽しかったので、西園寺さんが楽しんでくれていたのなら良かったです」
「はは、やっぱりお前は大物だな。俺はお前のマネージャーに就けて鼻が高いよ」
千鶴の優秀ぶりに喜ぶ倉木は鼻歌混じりで車を走らせる。
そんな彼を微笑ましく思った千鶴は窓の外に視線を向けると、ふと撮影時の蒼央のことを頭に思い浮かべながら星空を眺めていた。
その頃、蒼央はというと、
「西園寺くん」
「ああ、
千鶴をスカウトした事務所の社長の佐伯が撮影の様子を聞きに蒼央の元を訪れていた。
「うちの千鶴はどうだったかね?」
「彼女、なかなかの才能を持ってますよ」
「やはりそうか。千鶴は私が直々にスカウトしたんだよ。地方に出掛けた時、偶然街で見掛けてね」
「流石佐伯さんっすね」
「ありがとう。それで、使えそうな写真はあったかな?」
「ええ、まあ、それなりに。この辺りは、結構良い出来かと」
そう言ってカメラを操作した蒼央は佐伯に何枚かの写真を見せる。
「おお、これなんかいいね。宣伝用に使わせて貰おうか」
「分かりました」
「やっぱり、君に頼んで良かったよ、西園寺くん」
「こちらこそ、声を掛けていただいて有難いです」
佐伯は業界では名が知れているやり手な男だ。
蒼央は駆け出しの頃に佐伯から能力を買われて以降、佐伯の事務所のモデルを一度は必ず撮っている。
しかし、二度目には繋がらない。
事務所としても、二度目以降も蒼央に撮って貰いたいのだが、蒼央とモデルの相性が合わないようでなかなかに難しい。
「……佐伯さん」
「何だい?」
「お願いがあります」
ひと通りの話を終え、佐伯が蒼央の元を離れようとした時、蒼央は佐伯を呼び止めてこう言った。「俺にもう一度、遊佐を撮らせてください」と。
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