第8話「騎士団入団試験、いざ開幕!」
騎士団の仮宿へと案内されてから数日。
細かな登録手続きや、試験の日程調整などバタバタしているうちに、あっという間に“入団試験”の当日がやって来た。どうやら俺一人だけでなく、同じように新規入団や昇格を目指す者が複数参加するらしい。
「これが俺の受ける試験の会場か……」
石造りの大きな演習場。その中央には円形のアリーナのような空間が広がり、周囲を騎士や魔法使いらしき人々が取り囲んでいる。まだ試合(?)は始まっていないが、すでにざわざわとした熱気を感じる。
「お前か、“魔力のない剣士”ってのは」
突然、背後から声をかけられた。振り返ると、鎧を着た若い男がこちらを睨むように立っている。俺より二まわりはでかい体躯で、剣を抱えているあたり、“騎士志望”だろうか。
「そうだが……何か文句でもあるのか?」
すると男は鼻で笑い、「いいや、ただ噂ばかり大げさで、実際は大したことないだろうと思ってな」と挑発めいたことを言う。こいつ、やたら挑戦的だな。
「おいおい、こんなところで勝手に喧嘩はするなよ」
低い声で諫めるように割って入ったのは、先日俺を案内してくれた受付の騎士だった。どうやら試験担当の一人らしい。
「試験の内容は、まず基礎的な魔力の有無や体力測定、次に個人戦闘の実演だ。お前ら、実力を見せたいならそのときにやれ」
そう言われて男は「分かったよ」と吐き捨てるようにつぶやき、こちらを軽く睨んでから立ち去っていく。
「なんだ、あいつ……ま、相手するのは試験のときでいいや」
受付騎士によると、“団長ご指名”で入団試験を受けるのは俺だけらしく、周りから妬まれるのは仕方ないらしい。魔力のない剣士が騎士団に入るなんて“前例が少ない”とかで、反感を覚える連中もいるとか。
「ふん……くだらねえ。俺は俺のやり方で戦うだけさ」
そう腹をくくり、演習場の端で待機していると、不意に視界の隅に見覚えのある姿が映った。ラニアだ。見習いの証である青いローブを身につけ、観覧席の一角からこちらに向かって手を振っている。
「――あいつ、学院の授業は大丈夫なのか?」
まあ、わざわざ応援に来てくれたんだろう。負けるわけにはいかねえな……と、心の中で少しだけ気合いが入る。
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「全員、整列!」
係員の合図で十数名ほどの受験者が一列に並ぶ。周囲の騎士たちからの視線が突き刺さるが、特に気にせず腕を組んでいると、見慣れた鎧姿がこちらに近づいてきた。団長だ。
「これより、王国騎士団の入団試験を執り行う。まずは基礎体力と魔力適性を測定し、その上で個別に模擬戦での実技を評価する」
団長の声は想像以上に通る。周囲が水を打ったように静まり返り、受験者たちもひきしまった面持ちになる。
「なお、受験者の中には魔力を持たない者もいるが、評価は剣技や実戦能力を含め総合的に行う。よいな?」
ちらりと俺を見やる団長。周囲が一瞬ザワッとするが、俺はただ微動だにせず聞き入るだけだ。
最初の種目は、魔力測定水晶によるチェック。大多数の受験者は、どれほどの魔力量を持っているかここで数値化される。
「お前は……見るだけ無駄かもしれんが、一応やっておけ」
担当官が苦笑まじりに水晶玉を俺の前へ差し出す。
「ま、やるだけやるけどよ」
そっと手をかざしてみるが、案の定、水晶はほとんど色変わりを示さない。限りなくゼロに近いというわけだ。
「だよな……」
この結果に周囲は「やっぱり」「噂どおり魔力はないらしい」とひそひそ声が飛び交う。気にしたって仕方ない。俺の強みは“筋力と剣術”だからな。
次は体力測定。こちらではダッシュや跳躍など、いかにも兵士向けの種目が続く。なかでも武装しての走り込みや、模擬武器を使った腕力テストでは、下手な“魔力持ち”より俺のほうが好成績を叩き出していたようだ。
「何者だ、あいつ……魔力がないのにやたら速いぞ」「あんな重い武器を片手で……」など、さっきまで見下していた一部の受験者も唖然としている様子だ。
俺は額の汗を拭いながら、「これくらい普通だろ」と呟く。この程度、戦国の合戦じゃ日常茶飯事だ。迷いなく身体を動かしてきた成果を、今さら思い知らされるって感じだ。
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そして迎えた最後の種目――模擬戦。
「一対一での実技評価だ。数名が同時に試合を行い、勝ち上がり戦形式で評価をつけることにする」
運悪くか幸いか、最初の対戦相手がさっき絡んできた大柄の男に決まった。司会役の騎士が札を読み上げるたびに、男の顔にニヤリという笑みが浮かぶ。
「ここで華々しく散ってもらうぜ、ええ?」
「勝手に言ってろ。ここでお前を斬り伏せられるなら楽ってもんだ」
木剣で行うとはいえ、魔法を混ぜれば大けがの可能性もある。それなりに物騒な試合だ。円形の演習場に足を踏み入れ、お互い構えを取る。
「よーい、始め!」
合図と同時に、男は低い呪文を唱え始めた。どうやら筋力強化や速度強化の魔法を使えるらしい。腕や脚が淡い光を帯び、勢いよくこちらへ突っ込んでくる。
「魔法がなきゃ勝てねえと思うなよ……!」
男が勢いをつけて木剣を振り下ろす。風を切る音が鋭い。だが、俺は慌てず木剣を逆手に受け、肘を落としながら打ち払う。
カキンッ
強烈な衝撃が走るが、想定内。俺はさらに体を回転させながら踏み込み、一気に間合いを詰めた。
「ったく、スキだらけだ」
次の瞬間、木剣を相手の腕に叩きつけ、追撃で肩口を押さえ込むように打ち込む。すると男は「ぐはっ!」と悲鳴を上げて片膝をついた。そのまま転倒し、砂埃を上げる。
「試合終了!」
審判役の騎士が慌てて声を張り上げる。あっという間の決着に、観衆は一瞬静まり、すぐにどよめきへと変わった。
「なんて速さだ……!」「魔力も使わず、あの巨漢を一瞬で……!」
男は腕を押さえながら苦悶の表情を浮かべている。やりすぎか?と思ったが、木剣だし致命傷にはならんだろう。
観覧席のほうではラニアが目を潤ませながら両手をぎゅっと握っているのが見えた。俺は少しだけ、片手を上げてアピールする。恥ずかしいがまあ、嬉しそうだからいい。
「見事だ、次の試合に進め」
審判がそう告げ、俺は他の対戦の様子を見るため場外に下がる。団長を含め騎士団の幹部たちが、俺の戦いぶりを興味深げに見つめているのが分かった。
「試験はまだ続くか……ま、どこまでやりゃ納得すんのか知らねえが、付き合ってやるさ」
次戦の相手は今度こそ魔法メインの使い手か、それとももっと手強い兵士が出てくるのか。どちらにしても俺のやることは変わらない――“刀代わりの木剣で斬り捨てる”だけだ。
こうして、騎士団入団試験はいよいよ佳境へ。俺は周囲の視線もろとも踏みしめて、再び演習場の真ん中へと向かっていく。
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