6 「凄さ」が演出しづらい戦車の戦い 操縦手編 下

 さて、問題の困ったちゃんのお時間ですよ。


 まず初めに結論から言いましょう。リアリティを重視するなら、前ページの演出は大半が使えません。

 

 まず、戦車における操縦手を語る上で、最高の言葉があります。


 こんな発言を知ってる?(CV喜多村英梨女史)




「操縦手は外がかなり良く見えるが、戦車が砲火を浴び他の乗員が敵と撃ち合っていても、彼だけは全く受け身で居続けなくてはならない」




 世界的に有名な実在の人物であり、私が戦車という沼に引きずり込まれたきっかけとなった人とは、果たしていったい誰でしょう?(CV本渡楓女史)




「誰だ?」「知らん」「検討もつかない」ってなった方。

 もしリアリティある戦車兵の物語を描きたいなら、彼の本を読まずしてはちょっと無謀すぎです。


 おすすめの参考書籍はいずれ紹介しようとは思いますが、前線で戦う戦車のお話を書きたいなら、少なくとも彼の本だけは絶対に読みましょう。


 というか、創作にせよ、真面目な軍事的分野としての内容にせよ、「戦車」を語るならば、彼の本を読まずしては有り得ない。それほど価値のある本があるのです。


「あの人か」「知ってた」ってなった方。


 まずは僕と握手!!

 次に筆を執るのです。そして戦車の物語を描くのです。(地獄への水先案内人)


 

 正解はこちらの方。ご紹介しましょう!!



第二次世界大戦における、戦車撃破数世界ランキング第2位150両+戦闘機1機撃墜

ドイツ国防軍第502重戦車大隊所属

オットー・カリウス氏



 彼の著書には、自身が装填手として、当時世界最強だった独立重戦車大隊の1つに所属した小隊長として、そして中隊長として戦った経験から、戦車に関する知見、そして失敗談も含む戦場での日々がたくさん詰まっています。


 各ポジションについてもいろいろ述べられていまして、これが大変勉強になるんですな。


 カリウス氏の本、またそれ以外の本でも、操縦手は基本的に車長に言われた通りに動かし、エースたちの活躍を補佐しています。


 自らが勝手に動かしたりするのは、ただのとんでもない問題児です。もうお前、戦車から降りろ。


「でもよぉ、例えばカーブを曲がれって命じられた時にドリフトしながら曲がるとか、そう言うので工夫すればよくね?」とか思ったそこのあなた!!



 戦車、戦場のど真ん中でぶっ壊すつもりですか? 


 ここは走り放題なサーキットじゃないんですよ?



 そう、戦場の地面は整地されてるような場所は少なく、しかも敵があちこち隠れ潜んでいる上に地雷やら落とし穴やらがそこら中にある都合から、そもそも全速前進できる場面自体が少ないんです!!


 分かりにくいなら、生身の人間に置き換えましょうか。


 貴方は今、戦場に居ます。町でも森でも砂漠でもなんでもいいですよ。


 敵はどこにいるかわかりません。何人いるかも不透明だし、何の武器を持ってるかもいまいち不明。あと、地雷やら落とし穴やらのトラップがあるかも。さあ、前進してください。


 ……この状態で全力疾走する奴が生き残れると思います? 

 せいぜい次に隠れる場所まで、現在地から走り込む時くらいですよ。もちろん短距離を。長距離を下手に行くとその時間ぶん狙われちゃいますからね。


 ついでに言うと、当たり前ですが戦車はロボットや戦闘機みたいに3次元に動けませんよね?


 バックステッポゥ!!とか捻り込みだ!!とか、ましてや人呼んでグラハムスペシャル!!みたいな変態機動回避とかはできないんですよ、どんなに頑張っても……


 せいぜい急発進とか急ブレーキくらいのものです。


 だいたい、そんなポンポン敵の弾を陸戦兵器が無茶苦茶な操縦で躱せて、「当たらなければどうということはない!!」って仮面つけてドヤ顔して、しかもそれに足回りが耐えられるのなら、世界中の戦車兵や開発者は足回りの設計や履帯外れ、履帯切れに気を使ってませんって……


 戦車道でやってた? 

 いや、あの作品の戦車の描写、割とリアリティは二の次ですからね? 


 なので、偉い人から、「君は今回の戦いで敵の攻撃を巧みな操縦で全て躱したね。素晴らしい操縦技術だ、勲章をあげよう」とは、絶対にならないわけです。


 かと言って、「君は今回の戦いでよく受け身で操縦してくれたね、勲章をあげよう」もありえません。だってそんなの当たり前じゃないですか。


 どこの世界に、「君は今日も会社のパソコンにログインしてワードやパワーポイント、エクセルを立ち上げてくれたね。シャットダウンも完璧だ。よし、ボーナスをあげよう!!」ってなる会社がありますか? ソシャゲか?


「車長の指揮下、この戦車乗員は厳しい状況下にも関わらずよく頑張ってくれたね。勲章をあげよう」が基本です。だって基本的に言われた通り運転してるだけですから。


 何かを操縦する時にカッコよく描写する最大の武器、"明らかに他とは違い、誰が見ても凄くて、突出したそいつだけができる明確で異質な操縦"が、戦車には本来ないわけです。



 では、操縦手で何か特別な事をして勲章を貰えた事例はないのでしょうか?


 カリウス氏以外にも第二次世界大戦で戦った戦車兵の本はたくさんありまして、たとえばドイツ武装親衛隊の戦車部隊所属だったヴィル・フェイ氏の本には、操縦手が勲章を授与された一例が載せられています。


 これによると……


「戦場のど真ん中、被弾してぶっ壊れたトランスミッションをその場のありあわせの部品で直して、自走可能な状態に戻した」(要約)


……化け物かな?(機械工学的な意味で)


 ちなみに似たような事例で勲章授与された操縦手はそれなりに居るそうですよ?


……ドイツ軍戦車兵はチーターか何かか? でなきゃ修理スキルレベル∞か?


 しかし、逆に言えばこのくらいしないと中々「君、凄いね!! 特別に勲章あげる!!」とはならないのが操縦手と言うことです。


 どうします?

 毎回戦車に被弾させて、トランスミッション直させますか?


 どんだけ無能な車長だよってなるけど。




 次は戦車兵のポジション中でも、敵を撃破する役割である砲手!

 次回を待て!!




あ、今更ですが、ファンタジーな戦車が活躍する作風なら気にしないでくださいね? 


 常識を魔法で強くねじ伏せれるのだから、のびのびと書くほうが絶対にいいと思います。戦車道の面白さを、私は否定するわけではありません。

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