4 「凄さ」が演出しづらい戦車の戦い 車長編

 迫りくる敵のロボット部隊。主人公たちは全機出撃してこれを迎え撃つ。


 次々に撃破、或いは主人公や仲間たちに頭を抑えられ、敵ロボット部隊は主人公たちの守りを突破できない。


 間もなく味方の勢力圏、主人公たちによる輸送艦隊護衛作戦の成功は、まさに目前だ。


 しかし、突如仲間の一人が叫ぶ。


「ッ!? は、速い!! 1機逃した!!」 


 直ちにベテランである主人公の先輩がカバーに入る。流石に対応が早い。


 彼がターゲットサイトに捕捉した相手は、自分たちがよく知っている敵の量産型―――いや、カラーリングと細部が微妙に異なる機体だった。


 二刀流の戦闘スタイルを誇示するが如く、両手に一本ずつの長大なブレードを携えている。


「改良型―――高機動タイプか? 舐めるなよ、ここは通さん!!」


 正確な狙いで放たれる必殺の一撃。ベテランは直撃を確信して不敵に笑う。


 だが、次の瞬間には敵の姿が掻き消えた。


「何ッ!? くっ!?」


 いったいいつの間に? 


 一瞬で射線から退避しただけでなく、距離まで詰めてきた相手による、すれ違いざまのブレードの一閃。


 それによって、ライフルの銃身が斬り裂かれたのだ。


「な、なんだこの機動性は!?」


 咄嗟に身を捩らせたことで、片腕ごとライフルを破壊されることだけは何とか防いだベテランが、ブレードによる抜き打ちで反撃するよりも更に早く、敵の機体はベテラン機を置き去りに、主人公の機体に速度を上げて迫る。


「こ、こいつ!!」


 ライフルを撃ちまくる主人公機。


 だがダメだ、当たらない。


 まるで、こちらがどこを撃つのか知っているかのような、紙一重での回避。


 敵は信じ難い速度で、ジグザクに機動しながらそのまま突っ込んでくる。見たことがない戦闘機動だ。


「あ、あんな動きが人間にできるのか!? 一体どうやって!?」


 ふと気づく。敵はライフルを腰にマウントしているではないか。いくらでも撃つ機会はあるだろうに。射撃武器など、お前たちには必要ないとでも言うのか?


「くっ、格闘戦なら、俺だって!!」


 ライフルを捨て、こちらも抜剣。負けじとブースターを吹かせ、ブレードを両手で握り、真っ向から突進する。


「うおおおっ!!」


 雄叫びとともに繰り出す、交錯の瞬間に振りかぶった上段からの一閃。正に彼が得意とする必殺の一撃。


「……え? うわあっ!?」


 捉えた。そう確信したはずの一撃は空を切り、手応えの代わりに凄まじい衝撃がコックピットに襲い掛かってきた。吹き飛ばされる主人公機。


 斬られた? いや、飛び蹴り……違う、踏み台にされた!?


「ブレードすら……俺には使う必要がないって言うのか!?」


 敵の機体は、またしても一瞬で飛び去っていく。それを見て激昂した主人公だが、すぐに我に返った。


 まずい、あの方向には守るべき味方の輸送艦が―――


 もう遅い。案の定、直後に爆炎の花が咲く。一隻沈められたのだ。


 その照り返しを受けながら、敵の機体がゆっくり振り向く。カメラが鋭く輝き、主人公を見据えてきた。


 主人公の下に駆けつけたベテランが叫ぶ。


「気をつけろ、奴はエースだ!! ――来るぞ!!」


 二刀流のブレードを構えた敵が、ブースターを噴射して急加速。またしてもあの異様な機動で迫りくる―――





はーい、カット!!



 即興5分くらいで書いた、ロボットアニメあるあるな感じの戦闘シーン演出案です。


 敵のパイロットが如何に凄腕か、主人公たちがピンチなイメージは伝わったのではないでしょうか!? 


 ……伝わりました?


 伝わりましたよね? 


 伝わったと言ってください。


 ねえ……何か言ってよ!! ねえ!?(突然のメンヘラ感)



 まあ、私の文才が変態機動エースなのか画面端でやられてる輸送艦レベルなのかはどうでもいいんで、ここで本題。



 この場面、何をもって"強敵"を演出しようとしているかを、ちょっと考えてみましょう。



1 他のやつができないことを簡単に成し遂げた。

 味方が攻めあぐねる所に颯爽と現れ、一瞬で活路を開く! しかも誰にもできない芸当を使って!


 まあ、分かりやすいですよね。だって他の奴では絶対に無理、このキャラ或いはこの機体・装備だからできるんだという、"圧倒的な強さ"の説得力になります。


 特に「そこまで他と機体性能や能力自体には隔絶した差がない」とか、「むしろ圧された側が本来のステータス的にはよほど強いはずなのに」とかであれば、尚の事「実力差」や「経験の差」を表現できましょう。


 逆に理不尽なまでの純粋な力の差を見せつけ、"絶対に勝てない最強"を演出するのもありですね。この辺りは作風次第ですな。



2 味方の「は、速い!!」とか「ありえない!!」とか、「馬鹿な!?」系の発言

 1を補強する上で大事ですよね。被害を受けてる側の困惑や阿鼻叫喚。


 悲鳴を上げさせてる側が好きなキャラや機体で、イカしたBGMをバックに八面六臂の大活躍とかだったら、それはもうテンションが大爆発!!

 何度も見返したくなる名場面って奴ですよ!!


 特に敵の強さを見せるなら、味方の強キャラがそう言う反応するというのは分かりやすい演出ではないでしょうか?


「あんなに強い〇〇ですら手も足も出ずにあしらわれるだと……こいつ何者なんだ!?」的な。



3 突然の異変によるインパクト

 某大総統の「ただいま諸君」や、某鏡花水月の使い手による「いったい何時から錯覚していた?」「なん……だと……?」なんかもそうですが、諸々が上手くいって成功直前、或いは成功した直後に、その安堵を粉砕☆玉砕☆大喝采☆して叩き落とす展開。


 中間でもいいからゴールが見えてきたってタイミングで颯爽と現れる展開は、主人公たちを絶望させるにせよ、悪の計画を打ち砕くにせよ、演出のインパクトが増すような気がするのですが、どうでしょうか?




 この手の演出の考え方は、別にロボットじゃなくて剣と魔法とかで戦う場合も流用できると思いますが、皆様はどう思われますか?





 さて。戦車の時間だ。





 この手のメカを操るのは、大抵の作品ではパイロットが一人乗りですよね。


 つまり、状況判断も、巧みな操縦も、鮮やかな攻撃も、全部が一人のキャラクターの技術に集約されているわけです。


 ところが、戦車はこうは行きません。状況判断は、基本的にその戦車の動きを統括する車長のものですが、彼が実際に戦車を操作するわけでは無いです。


 これが大問題なんです!!


 上の例文で言うなら、


・驚異的な高速機動=操縦手が凄い!


・変幻自在で正確無比な攻撃=砲手が凄い!


・主人公たちを躱して輸送艦を狙うという判断、得意な二刀流だけでこいつら全員蹴散らせるわという判断=車長凄……。……。……凄い……いや待て、これは……凄い……のか?



 こうなっちゃう訳ですよ!!


 当たり前ですが、砲手も操縦手も、車長に指示されてそのように主砲や車体を操作します。


 咄嗟に車長の判断ミスをフォローとかでもなければ、勝手なことはできません。咄嗟の先制射撃や反撃とか、急発進や急ブレーキとかね。


 だから、主役には主動的に戦車を動かせる車長を据えたいのに、肝心の戦闘で"凄さ"を演出するのがすっごく難しい。


 だって極論、みんながヒイヒイ言いながら操縦したり主砲ぶっ放したりしてるのを、後ろでふんぞり返ってあれこれ指示してるだけですよ?


 そんな奴の強さや凄さを表現するの、結構難しくないですか?


 万が一、「こいつじゃなくて取り巻きの乗員が凄いだけじゃん……」ってなったら、その時点でキャラの魅力としてはアウトですよアウト。



 このギャップを埋める私の考えた一案は、戦車の各ポジションの問題点を全部挙げてから提案させて頂きたいと思います。


 皆さんならどうしますかね?

 これを機会に考えてみるのも一興かもしれませんよ?



 次は、車長より凄さや強さを演出しやすそうなポジション、砲手と操縦手に着目する予定です。



 次回を待て!!

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